ここは異世界
世界は混沌に包まれている。
だが、誰もその事実には気付いていない。
自分たちがどれだけ危うい立ち居地に生きているのか。
世界がどうして成り立っていられるのか
客観的にこの世界を鑑みたものは思うだろう。
破綻していると
こんな世界が成り立つわけがないと
それは事実だろう。
だが、世界はここにある。
それは何者かの意思なのか……
そんな世界。
時代は西暦1999年
世紀末と呼ばれ世界が滅亡すると予言されていた年。
我々とは異なる歴史を歩むこの世界で大きな事件が起きる。
終末の予言が齎すものは何なのか?
激動となる時代を人々は思い思いに生き抜いていく
数多なる思想の中で螺旋と網が形成される。
危ういバランスの上で広がる広大なる世界。
英雄となることを運命づけられた者達の戦いが始まる。
5月
陽気な太陽の下。少年は歩く。
手には木刀。
丹念に手入れはされているものの使い込まれているのは一目で分かる。
そんなものを街中で持っていれば自然と人の視線を誘う。
だが、その奇妙な人をまともに相手しようとするものはおらず
興味本位で向けた視線はすぐさま、他へと映っていった。
ここでいきなり、振り回して暴れるなどとは思わない。
少しは妄想するだろうが現実に起こるなどとは思わない。
まぁ、そんな一般人たちの願いでもなんでもない考えどおりに
世は事も無げに進んでいく。
その木刀を手にした少年。
年齢は12〜14ぐらいだろうか。
幼さを残す顔立ちだが目つきが悪い。
まるで何かを常に睨んでいるような目だ。
それがまた、大きいものだから異様に迫力はあるのだが
背も低く、華奢という体型の為に恐さは感じられない。
むしろ、可愛いという感想すらもらってしまいそうである。
服装としてはやたらと胸がはだけているという点を抜かせば普通だ。
ただ、胸をはだけているというだけで普通ではないだろう。
それでも木刀や目つきに比べて視線がいかないのは妙にマッチしているからだろうか。
彼は前を見据え歩き続ける。
その瞳は前しか見ておらず、周囲に広がる風景、人物なにもかもにも興味を示さない。
全く目は泳がずただ、前だけを向いている。
彼にとってこの世界に広がる現象全てが興味の対象外とでも言うかのような淡白さ。
彼は何を目指す。
彼の心が求めるものとはなんなのか……
それはこの先が示している。
ANOTHER PLAYER…
LogNo001 <<無の剣>>
大都会とはいかないがそれなりに栄える一地方都市
銀成市
不思議な名前を持つその町は穏やかだった。
そう……それはもう過去のことだ。
既に今年に入り例年を遥かに上回る行方不明者。
夜な夜な不気味な声と破壊音が響く。
何かがこの町の夜に潜んでいる。
誰かがこの町の夜を駆けている。
そこは表裏一体の世界。
日の照らすこの表とは何もかもが異なる異世界。
無知なる表からの来訪者は無情なる裏の手で命をむしられる。
だが、誰も気付けない。
自分達の営みに闇が潜んでいるなど思いもしない。
絶対安全だという勘違い。
だが、それゆえに表面上、この町は静かであり。
故に尊き笑顔を写すのだろう。
「こんな町に本当に奴がいるのか……?」
一人の少年がひとりごちる。
場所はファーストフード店。
名はロッテリや。
気の利いた接客から評判が良い店である。
少年は穏やかな昼下がりを楽しむ主婦達の喧騒の中、
ポテトを一つつまむ。
少し冷めたそれを租借し喉に流し込む。
ガラス張りの壁の向こうでは人々は日常を歩く。
天気は快晴。
暑くも寒くもない過ごしやすい気温。
何処かに出かけるにはこれほど適した日もない。
そんな中、少年は一人でため息を吐く。
黒く男としては少々、眺めの髪。
量が多く、顔立ちのせいもあって一見すると少女と見間違えてしまうほどだ。
服装は至ってシンプル。
何処にでもいる普通の高校生の私服。
そんな容姿の中で最も目を引くのはその赤い瞳だろう。
何処か焦燥と憂いを帯びたその瞳は芯に強い炎を宿している。
彼は紙包みをくしゃくしゃに丸めるとトレーに乗せ、それをもって席をたった。
トレーを片付け店外へ。
店員の明るい声を背中に受けながら日の光を浴びる。
「一体……何処を探せって言うんだよ」
小声で呟く愚痴。
彼は誰かを探している。
その目的は明白であり彼がこの町を訪れたただ一つの理由だ。
そう、彼はこの町の住人ではない。
そして、旅行者でもない。
観光をするつもりなど毛頭ない。
ある人物の捜索。それが彼に課せられた任務であり彼自身の目的。
少年は横断歩道を渡ろうとする。
まだ、赤から青に切り替わるほんの手前。
既に車道の信号は赤であり執拗にマナーを守るような人でなければ
咎めもしないタイミング。
その時、凄まじい唸りと共に何かが近づいてくる。
いや、音はそこまで酷くは無い。
ただ、威圧感にも似たものが少年にかかる。
危険を察知し後方へと飛ぶ。
その服をかすめて凄まじいスピードで一台のバイクが走り去った。
「うわっ!」
まるで自分の体がえぐりとられたかのうな感覚。
無論、服をかすった程度なので体に衝撃はない。
だが、圧倒的なスピードが錯覚を覚えさせた。
「……危ないじゃないか!」
既に遠くにさったバイクを睨みはき捨てるように叫ぶ。
別に怪我もしてないから敵意もないがそれでもむかつく。
あぁ言うライダーは実際の性格も悪いと彼は心で思った。
青を基調とした塗装の改造バイク。
フルフェイスメットで顔も分からないが
あんなバイク、一度見れば忘れもしない。
次に会ったときは覚えて置けよと心に刻んだ。
夕暮れ時
既に日も落ちかけ、さすがに肌寒くなってきている。
「はぁ〜、疲れた……」
青を基調とした塗装の改造バイクを押して青年が帰路を行く。
その顔は疲労の色が浮かぶがそれでもまだまだ、体力はありそうだ。
明るめの髪は少し長い。
端正な顔立ちであり中々のイケメンである。
背が非常に高く日本人の一般的身長と比べれば頭一つ飛び出しそうだ。
だが、体は細く一見するとヒョロイという印象を受ける。
それでも大地をしっかり踏みつけ歩く姿はどこか力強い。
「そういえば、向かう途中にひきそうになっちゃったけど大丈夫だったかな?」
青年は今日の自分の行いを思い出し呟く。
一瞬の交差の瞬間、彼はこちらの眼を睨んでいた。
赤い瞳。
それはまるでこちらを射抜くかのような眼光を放っていた。
それに別に駆け出すでもなく自然と前に出た体は予想以上に車道に出ており
一瞬、引いてしまうかと焦ったが
即座に反応し飛ぶのを見た瞬間にブレーキをかけずにかわすことにした。
急いでいたこともあったがあの身のこなしなら大丈夫だという確信があった。
身体能力、反射神経、更に動体視力。
どれをとっても一般的な学生を遥かに凌駕している。
「まぁ、問題もなかったようだし。いいか」
青年は楽観的に考える。
そこでようやく自分のアパートへと戻ってこれたのだが……
「え……?」
そこには自分の家の家具がトラックに乗せられている光景があった。
「ちょ……ちょっと!!」
青年は大慌てで家具の運び出し作業の指示を出す大家さんに駆け寄る。
「あぁ、剣崎さんじゃない」
大家さんは至って普通の対応を返してきた。
「ちょっとこれ、どういうことですか!?何でオレの部屋の荷物が運び出されてるんです!?」
何が起こったのかわからない。
久しぶりに家に帰ってきてみれば何故か自分の私物が運び出されている。
しかも無許可だ。
こんなこと一切、許可したこともなければ申請されたこともない。
「何でってあんた。ろくに家にも帰ってこないし。家賃もずっと滞納してるじゃない」
「だから、それは研修で……」
「そんなの知らないわよ。もう、次の入居者決まってるから」
完全なる拒否。
話を聞こうともしない。
どれだけ剣崎が必死に弁解しようとも大家は結局、頑なな心を解かなかった。
闇を何かが駆ける。
月と星だけが映し出される黒きスクリーンを飛ぶ。
それは巨大なイナゴだった。
獰猛なる牙を持ったそれは何かを探す。
複眼に映し出されるは一人、道を歩く女性。
格好の獲物だ。
人間などこの虫とも呼べぬ化け物に掛かれば捕食対象でしかない。
羽根を震わせ急降下する。
獲物に向かって一直線に……
だが、その勢いは何かに断たれた。
困惑し巨大なイナゴは鳴く。
腹部に違和感……それはナイフだった。
深く突き刺さり緑色の体液が滴る。
それが最後の光景だった。
夜に煌く赤き火花
硬い外骨格と超振動を発する刃物が接触した証拠。
そのナイフは易々と巨大イナゴの首を切り裂き絶命させた。
地面に着地するのは赤き瞳が印象的な少年。
その服装は昼間と違い赤い何かの制服を着ていた。
その制服に描かれた紋章を見るものが見れば即座に分かるだろう。
ザフト……
かつて、コーディネイターの自治権獲得の為に地球連合軍と戦争を起した軍隊。
厳密に言えば軍隊とも多少違うのだが。
彼が身につけているのはザフトのアカデミーをTOP10内で卒業した者のみが
身に包むことを許される赤服であった。
何故、ザフトのそれもエリートと言われる赤服を纏う人間が
この銀成市にいるのか。
ザフトを知るものなら誰でも困惑するだろう。
日本にザフトの基地があるわけが無い。
更にこの銀成市は自衛隊とも一切関係が無い都市だ。
目的が不明だ。
だが、彼は誰かを探していたはず……
それがザフトの命令なのだろうか。
「全く何が起こってるんだ……?」
少年は巨大なイナゴの絶命を確認すると駆け出す。
つい、先ほど彼はある一つの施設に向かっていた。
人類基盤史研究所……
そこは人類が進化し繁栄した謎を研究する組織である。
学会でもかなり有名であり
既に何かしらの成果を上げていると噂されるほどである。
彼は何かしらの目的があってそこに向かい。
先ほどの巨大なイナゴを目撃した。
あんな化け物を見過ごせる程に彼は無感情に出来ていない。
追いかけてみれば案の定、人間を襲おうとしていた。
そこを撃退した訳だが……
人類基盤史研究所……そこで何かが起こっていることは明白だ。
嫌な予感がする。
何かよくないことが起きている。
それは脚が進むにつれ確信へと変わっていった。
人類基盤史研究所
所内に広がる庭は無惨な状態だった。
転がる大量の巨大イナゴ。
所々に白衣を……と思わしきものを着ていた人間だったものが転がる。
それらは無惨にも食い破られ原型を留めていないものもあった。
赤き瞳でその惨状を見つめる。
脳裏に浮かび上がる一つの惨状。
燃え上がる炎。砕け散る大地。無惨に転がる肉親……
「くそっ!何が起こってるっていうんだよ。一体!?」
少年は叫ぶ。
理不尽なる光景に。
何も出来なかった自分の無力さに。
もしかしたら生存者がいるかも知れない。
それにとてもじゃないが武装してるとは思えない研究所で
巨大イナゴも死んでいる。
死因としては何かに斬られた、撃たれたが大多数だった。
その中に何体か……肉片を粉々にされた個体も混ざっている。
弾痕も巨大で肉体を抉ってはいるがこの傷は違う。
何かに凄い力で殴打され肉片が飛び散ったとしか考えられない。
巨大なハンマーか何かで思い切り叩いたような……
「!」
少年は迫り来る殺気を感じ空を見上げた。
月が照らし出す闇の世界から誰かが落下してくる。
それは真っ直ぐに少年に向かってきた。
「うわっ!!」
それは何かを振り下ろし少年に殴りかかる。
少年はそれを間一髪で回避するが驚愕する。
爆ぜる地面。
何をどれぐらいの力で叩けば地面が抉れて吹き飛ぶというのだ。
あんなものをまともに頭に喰らったなら中身が四散する。
「なんなんだ。お前は!?」
少年はナイフを両手に構え叫ぶ。
超振動する刃はどんなに硬い装甲だろうと切り裂く。
だが、薄暗い灯の中、浮かび上がったのは姿は自分よりも幼い少年だった。
手には木刀。目つきは悪く。
刃のような瞳で彼を睨む。
「……」
無言にて木刀を構える。
赤き瞳の少年は驚愕した。
先ほどの一撃はあの木刀によるものだというのか。
いくら、落下の勢いがあるとはいえどれだけの力で振るったというのだ。
そもそも、アレだけの力で繰り出せばそもそも、木刀自体が粉砕されるはず。
「お前が……この化け物を操ってるのか?」
赤き瞳の少年は尋ねる。
いきなり、襲い掛かってきたことを考えれば敵なのだろう。
だが、この化け物を操っているとは思えなかった。
この少年と虫に共通点が浮かばない。
「……人にものを尋ねるなら名を名乗れ」
木刀を持った少年は切っ先を赤き瞳の少年に向ける。
「何を偉そうに……」
赤き瞳の少年はその言葉に怒りを募らせるが
相手は無言でこちらを睨んだままだ。
このまま、殺しあっても仕方がないと折れることにする。
「俺はシン=アスカだ」
赤き瞳の少年の言葉に木刀が下ろされる。
だが、瞳はシンを睨んだまま、外れない。
「俺は天翔。この虫を操ってる奴じゃなさそうだな」
翔と名乗った少年は何かに納得すると振り向き去っていこうとする。
「待てよ!お前は一体、何者なんだ!?」
勝手に納得して帰られてもシンには納得できない。
この光景でこの少年は明らかに不自然だ。
何故、この場にいるのか理由が分からない。
「分からない」
「はぁ!?」
少年の言葉にシンは更に怒りを募らせた。
こけにされているように感じたのだ」
「記憶がないんだ」
付け足された言葉にシンは言葉を失った。
別に馬鹿にしていたわけではない。
本当にそう思って口にしただけなのだ。
自分が何者かなんて口で定義できないんだ。
「じゃあ、何でこんなところにいるんだ?」
だが、それはシンが求めた答えではない。
記憶が無くともここに来た理由はあるだろう。
まさか、ここで記憶を失ったというなら別だが。
「聖杯を探してる」
「聖杯……?」
訳が分からない。
この研究所とそれが何の関係にあるというのだ。
「別にお前には関係ないだろ」
「それはそうだけど……って違う!あぁ、もう。お前は何でここがこんな風になったか知ってるのか!?」
シンは単刀直入に尋ねる。
最初からこうしておけばよかった。
「知らん。俺が来たときからこんな状況だ」
翔は振り向きもせず歩きながら答える。
シンは自然とその後を追う形となった。
「何も知らないのか?」
「知らない。そんなに知りたいならここの奴らに聞けばいいだろ」
「生存者がいればそうするよ」
「生存者か……だったら向こうにいるぞ」
翔は研究所の中庭の方を指差す。
シンはそちらに意識を集中させた。
確かに何かがいる気配はするが。
「知ってるんだったらなんで助けないんだ!?」
「俺には関係ない」
「関係ないだってお前はこの惨状を見てもなんとも思わないのかよ!?」
「別に」
「人が死んでるんだぞ」
「俺には関係ない奴らだ」
シンの拳が翔の頬にめり込んだ。
瞬間的な動作だった。
翔は全く反応も出来ずに弾かれ地面に倒れる。
「アレだけの力を持ちながら……サイテーな奴だな!」
シンは赤き眼で睨みながら叫ぶ。
そして、彼が生存者がいると指差した方向へと走り出した。
「……アレが怒り……か」
翔は起き上がるとポツリと呟いた。
「何故、何故見てるんです!橘さん!!」
紫紺の鎧に身を包みし剣士が叫ぶ。
いや、それは鎧などという生易しいものではない。
全身を包む甲冑。顔もフルフェイスヘルメットで覆われている。
赤き巨大な複眼。
手には銀色に輝く巨大な刃。
それは異質なものだった。
一見、すればそれがただの鎧ではないことは分かる。
そして、人々はその姿を見て一つの伝説を思い出すであろう。
仮面ライダーという名の伝説を
彼は巨大なイナゴと戦っていた。
だが、そこらへんを飛び交っていたものとは全く違う。
人と同じ形、大きさ。
だが、その姿は正しくイナゴであった。
怪人……
人の姿と動物を掛け合わせし生体兵器。
かつて、ショッカーが用い世界に恐怖をもたらした存在。
人々に本能的な恐怖を与える容貌。
そして、人間など軽くくびき殺す力。
それは人間にとって害悪でしかない。
相容れぬ存在。拒絶すべき対象。
間違う事なき人類の天敵。
そんな化け物と紫紺の戦士は戦い続ける。
その身を鎧に包めど敵は強大。
何度と無くその体を打ち付けられ地面に伏す。
だが、それでも彼は立ち上がり続けた。
どんなに相手が強大であっても逃げ出すことは許されない。
彼はこの世界の命運を背負って戦っているのだ。
「くそ……何故だ……」
戦士は視線を送る。
その先には先ほどまで赤き鎧に身を包んだ仲間がいた。
頼れる先輩がいた。
だが、その姿はもうない。
再び、前を見る。
イナゴの化け物は羽を広げ襲い掛かる。
そして、自身の肉体を遥か上空に飛び上がらせるほどの脚力を持って戦士をけりつけた。
凄まじい衝撃が走る。
鋼鉄の壁さえも貫く圧倒的な一撃。
だが、それを喰らってもその鎧にヒビすら入らない。
それでもその衝撃は命を削る。
苦しそうに息を吐き彼は立ち上がろうとした。
そこに追い討ちをかけるように怪人が襲い掛かる。
その体にナイフが突き刺さった。
「大丈夫か!?」
シンはナイフを構え突撃する。
相手は巨大な化け物。
だが、そんなことは気にしていられない。
目の前で誰かが倒されているのを黙って見ていられない。
連続して繰り出されるナイフの斬撃。
その刃は確実にその化け物の皮膚を傷つける。
はずだが……
「くそ、利いてないのか!?」
いくら、傷をつけても相手は動じない。
更にその傷もそんなに深くなかった。
いや、見る見るうちに再生していく。
イナゴの怪人は驚愕するシンに向かい拳を振るった。
弾き飛ばされる肉体。
凄まじい衝撃がシンを駆け抜ける。
体は宙に飛ばされ、勢い良く転がっていく。
意識が混濁した。
何とか一命をとりとめているがあんなものを何度も喰らったら確実に死ぬ。
受身をとったはずなのに体がバラバラになりそうな衝撃だった。
いや、まともに喰らえば確実にバラバラになっていただろう。
そして、地面を伝わり足音が近づく。
その命を絶つ為に
「バカな奴だ……」
翔は物陰からその光景を眺めていた。
見ず知らず誰かを助けに飛び出してそして、死ぬ。
そこに何の意味がある。
あんなものに立ち向かう理由などないだろうに。
あの鎧の戦士もあそこまでボロボロになるぐらいなら逃げれば良いのに。
自分の力で立ち向かいきれないものと対峙する意味。
そんなものがあるというのか。
翔は興味をなくし立ち去ろうとする。
だが、その視界の端で戦士が立ち上がった。
「待て……貴様の相手はオレだ!」
剣を杖代わりに立ち上がる。
脚がフラフラしている。
立っている感覚もつかめない。
意識も朦朧とし何時、失っても可笑しくない状況だ。
だけど、寝ているわけにはいかない。
目の前で誰かが殺されようとしている。
それも自分を助けようと勇敢に立ち向かったものだ。
力を振り絞らない理由が何処にある。
そして、自分は唯一あの化け物を倒せる存在なのだから。
敵はこちらの動きに気付き方向を転換する。
倒れた相手は何時でも始末できると踏んでいるのだろう。
好都合だ。
もはや、こちらから向かっていく力さえ残っていない。
だが、奴を倒す力だけなら存在する。
剣のカードホルスターを展開しそこから一枚のカードをひいた。
スペードの2
それはトランプのカード
だが、この世で唯一にして無二のその原型。
それには力が宿っている。
この世界を繁栄させる命の力が
人類に襲い掛かる毒牙を砕く力が
カードを刀身のスリットに通過させる。
―――スラッシュ―――
剣から鳴り響く電子音声。
空中に展開されし青き力の象徴は剣の中に吸い込まれていった。
青き力の波動を放つ刃。
それは邪悪を撃つ破邪の剣。
トドメをさそうと再び襲い掛かる
ローカストアンデットに
仮面ライダーブレイドはその刃を突き立てた。
刃は相手の勢いを持ってその体に深々と突き刺さる。
そして、渾身の力で振りぬいた。
切断される肉体。
断末魔を上げ不死生命体は沈黙する。
開かれるバックル。
ブレイドは一枚のカードを取り出すとそれを投げつけた。
回転するカードは一直線にローカストアンデットに吸い込まれ突き刺さる。
カードが刺さったローカストアンデットはその体を光へと変え、
カードへと吸い込まれていった。
そして、ブレイドへと戻っていく。
だが、それを受け取る力さえ残っていなかった。
地面に落ちるカード。
そこにはローカストアンデットの姿が刻まれていた。
「……なんだろう」
翔はその光景を終始見入ってしまっていた。
倒れるシンと剣崎。
何でこんなに一生懸命になれるんだろう。
何であの二人の姿が心から離れないのだろう。
雨が大地を濡らしていく。
悲しみを忘れる涙のように降り注ぐ。
雨にうたれながら呟く。
「彼らが……」