朝
士郎、シン、翔はTVでニュースを見ていた。
桜や大河はそれぞれの事情で既に登校している。
「……剣崎さんは大丈夫なのか?」
士郎はシンに尋ねた。
剣崎は昨日、帰ってきてから部屋から出ようとしない。
シンも少し話して何時も通り怒声を放って部屋を出ていた。
あの二人がヒステリックに叫ぶのは何時ものことだが
出てこないというのは初めてなので心配している。
「さぁね。大丈夫なんじゃないの?」
シンはその話題と同時に何時も通り不機嫌な表情を浮かべる。
これ以上、この会話を続けて機嫌を損ねてもしょうがないので放っておくことにした。
士郎は視線をTVの画面に集中する。
今はニュースで一晩にして大きな屋敷から住人が全員行方不明になるという事件を扱っている。
しかも、その場所は銀成市であった。
士郎もその話は聞いたことがあった。
大体、先週ぐらいから学校で噂となっていた話だ。
TVのキャスターは銀成市では今年に入り既に100人近い数の人が行方不明になっているという。
それは極めて異常な数字であり、世紀末の話題も絡めて学者が何か言っていた。
そんな話を流して見ていると場面がその事件が起こった屋敷へと移り変わる。
そして、キャスターが話を始めると画面に大きく4人の高校生ほどの男女の顔が映し出された。
「ぶっ!」
士郎はその顔を見て御茶を噴出した。
そのリアクションに驚いてシンと翔が士郎を凝視しているが気にしない。
「全く……あいつらは……」
士郎は苦笑いを浮かべた。
そのニュースに乱入する人物達は知り合いだった。
そもそも、男のほうはクラスメイトだ。
女のほうも友人の妹だったりする。
色々なバカなことをやっては注目されている集団なので知ってるほうの身ともなれば
当たり前といえば当たり前のことなのだが。
そういえばその筆頭格とも言うべき人物が怪我で休んでいることを思い出す。
何でも車に轢かれたらしいがそれにしては可笑しな傷だったと記憶している。
とにかく、通常なら全治一ヶ月ぐらいはするだろう大怪我を負った友人。
それがいきなり、目の前のTVに大きく映し出されれば誰だって驚くということだ。
「カズキ!?」
シンと翔もそのTVに映し出された少年の顔を凝視した。
いたって普通の男子高校生だ。
特に人をひきつける容貌をしている訳ではない。
シンはバカなことをやってるなという冷めた目で彼を見つめていた。
だが、翔はその瞳の輝きが気になってしょうがなかった。
底抜けに明るく……ただ、何処かに憂いを帯びたその輝きが……
ANOTHER PLAYER…
LogNo004 <<日常の定理>>
銀成学園
これといった特色は無い普通の高校である。
学力レベルも平均的であり銀成市に住んでいる高校生達は
大抵、この高校に通っている。
また、寄宿舎も用意されており遠方からやってきた者や
何らかの理由で親元を離れねばならない者などはそこから通っていた。
朝のHR
担任の藤原大河は大慌てで教室へと駆け込んできた。
「みんな、おはよう〜」
そんな、あわただしさにはもう、既に全員、なじんでいて特に気にしない。
慌てものだが明るく良い人なので大抵の生徒が好感を抱いていた。
「それでは出席を……」
大河は出席簿を持ち教室を見渡す。
そこで少し止まった。
過ぎた視線を少し戻し止る。
「おりょ……武藤くん、もう怪我治ったの!?」
「えぇ、バッチリと全快してます」
カズキはポーズを決めてアピールする。
「でも、武藤くんのことだから無理してない?」
一年のときから色々と彼のことを知ってる身ともなれば
カズキの無茶は結構、知られている。
何があろうとも何時も周囲に笑顔を振りまく男なのだ。
一見、大丈夫そうでも実は結構、大きい怪我をしていたこともある。
「大丈夫です。何を隠そう俺は健康の達人。青汁を飲んで鍛えた肉体は
医療の常識を超越する!」
「むむむ!流石は武藤くん。何だか分からないけど説得力あるわ」
普通に納得している。
士郎は呆れているが確かにカズキ自身は元気そうだ。
友人達の反応から見ても特に問題があるとも思えなかった。
休み時間
カズキの久しぶりの登校に彼の机の周りに多くの人が集まっていた。
全員、彼の復帰を喜んでいる。
男子も女子も同じぐらい彼の周りに集まってるのは彼の人徳といったところだろう。
とにかく、彼は周囲からの評判はすこぶる良い。
明るくバカでお人好し。
それが周囲の評価であった。
困ってることがあれば手伝ってくれるし、何事にも全力であたる。
それに四馬鹿と呼ばれる彼のグループは去年の行事で誰も予想だにしなかったことをやらかしていた。
この学校で四馬鹿と言って知らない二年生はいないだろう。
「流石は武藤だな。奴ほど人に好かれる奴も珍しい」
士郎の横でカズキを取り囲む人の群れを見守る一成が呟いた。
彼は士郎の友人で生徒会の副会長もやってる真面目な人間だ。
カズキのようにバカをやったりする人間とは異なる性格をしているが
何故かカズキに対する評価は高かった。
「そうだな」
士郎は頷いた。
熱狂的なファンがいるという訳ではないが
自然とカズキを慕う人は多い。
別に一目をひきつける容姿をしている訳ではないし
噂もバカなことが多数な為に良く知らない人はあまり関わろうとはしない。
ただ、彼を知ったもののほとんどは彼をしたい仲良くなっていた。
そんなカズキとは士郎は一年の頃から同じクラスだった。
クラスの誰もが嫌がるような仕事を率先して引き受ける士郎だったが
カズキは何時もそれを手伝ってくれた。
気付けばもう既に友人になっていた。
「はっ、ただ少し長く休んで目立ってるだけだろ。僕が同じ状況だったら全校中から生徒がやってくるよ」
一成とは士郎を挟んで反対側に立つ慎二がすかした調子で言う。
「確かにそうかも知れないがお前の場合は女子ばかりだろう」
「それが。別に僕は武藤みたいに男に囲まれてヘラヘラ笑えないしね」
あくまでカズキよりも自分は優位に立ちたいようだ。
「全くお前は……男子の中でお前を友人として接してくれる数少ないカズキに対する言葉か?」
一成は慎二の物言いに呆れていた。
「別にカズキが勝手になれなれしく話しかけてくるだけだろ。こっちから頼んでないって」
「そうやって親しくしてくれるものすらないがしろにするから孤立するんだ」
「はいはい。これだから優等生は」
慎二は鼻で笑ってそのまま席へと戻っていった。
「一成も言いすぎだぞ」
士郎は攻撃的な言動に注意する。
「あいつは厳しいぐらいで丁度良いんだ。世の中、衛宮や武藤のような人格者だけではないからな」
「別に俺はカズキみたいな人格者じゃないよ」
「何を言ってるんだ。俺はむしろ武藤よりもお前のほうをかってるんだぞ。
武藤も素晴らしいが少し度が過ぎる部分があるからな。その点、お前はそういう部分をわきまえている」
一成はうんうんと頷いている。
何故かこの親友は士郎のことを随分とかっていた。
士郎自身はそこまで尊敬される理由が分からないので少し困惑するが
素直に嬉しかったりもする。
時は流れて放課後
「疲れたぁ〜……」
カズキは机に突っ伏する。
休み時間ごとに色々な人がカズキの顔を見に来るので
カズキにとって休まる時間は余り無かった。
皆、復帰してきたことを喜んでくれてるので嬉しいのだが体力的に辛い。
そんなカズキを彼をひっくるめた四馬鹿と呼ばれる六桝、岡倉、大浜が笑ってみている。
「あぁ、大変やったね」
その様子を見てショートヘアの女子生徒が話しかけた。
「あぁ、由崎さん。皆、心配してくれて凄く嬉しいんだけどさ」
カズキが顔を上げて答える。
「まぁ、あれだけ騒がれれば誰だって疲れるわな」
由崎の後ろから別の女生徒が声をかける。
ストレートの長い髪で眼鏡をかけている。
「おっ、七瀬姉妹のお出ましか」
リーゼントが特長の岡倉が女生徒たちを見る。
最初にカズキを声をかけたのが由崎多汰美。
次に声をかけたのが青野真紀子。
それに後に続く背が小さく髪が凄く多いのが七瀬八重。
ツインテールのが潦景子。
彼女達は何時も四人で行動しており七瀬姉妹などと呼ばれていた。
四馬鹿のように何かをしでかすわけではない普通の生徒である。
「だから、その姉妹って言うのは止めてくださいよ」
八重が岡倉に講義する。
「だけどなぁ。家の表札にあんなこと書いてちゃな。四女の八重ちゃん」
「あああああ……」
八重は頭を抱えて小さくなってしまった。
多汰美が彼女の頭をなでて慰めている。
八重が小さいので本当に姉妹のようだ。同い年だけど。
「以前、七瀬家の表札に居候の由崎多汰美女史、青野真紀子女史の名前が次女、長女として記載されているところを
丁度、近所に住む生徒が目撃し、口コミにより広まっていた。
その際、記載されていなかった潦景子女史だが学校での友好関係から把握するに姉妹と括っても問題ないと
判断されたために現在ではこの三人を一まとめにして七瀬姉妹と呼んでいる。
ただ、本来の七瀬家の長女である七瀬八重はその容姿と身長の為に末っ子としてみるのが基本的な見解となっている」
六桝が息継ぎもせずに早口で説明した。
その言葉に八重は更にショックを受けてしまった。
「六桝くん。全く間違ってはないんやけど……なんで質問を?」
真紀子が超絶的な早口にツッコムどころか素で質問していた。
だが、六桝は答えない。
「まぁ、あんまり深く考えないほうが良いぞ」
岡倉がアドバイスを送る。大浜も頷いていた。
「そ……そうやね。うん。まぁ。武藤くんも元気なのを確認したことやし帰ることにするわ」
流石は四馬鹿。
常識では測れないのだと思った真紀子だった。
七瀬姉妹を見送りそろそろ、帰ろうかと大浜が提案する。
「あっ、ごめん。オレ、用事あるから先に帰ってて」
「またか?なんか知らんがあんま無茶すんなよ」
「うん。大丈夫」
カズキは笑顔で頷いた。
商店街へと続く道の途中
そこに小さな公園がある。
シンが小さな少女達を救うためにプラントアンデットと戦った場所でもある。
そこのベンチで剣崎とシンが座っていた。
剣崎は悩んでいた。
橘の言葉は剣崎の心に確実な動揺を与えていた。
いずれ、ライダーシステムは剣崎の体を破滅させる。
このまま、アンデットと戦うということは勝っても負けても死が訪れるということだ。
シンは彼にその話を聞かされたときに戦えば良いと答えた。
その時点で話がこじれてしまった。
落ち着いた剣崎は再びシンと話し合おうと思った。
「ライダーシステムってのが本当にあんたを破滅させるかなんて分からないんだろ。
その橘って人が嘘を吐いてるだけかもしれない。
開発者自身の言葉を聞くまで本当のことなんて分からないんだ」
「そうかもしれない……でも、橘さんは何の根拠も無く嘘を吐く人じゃないし
仲間を裏切ったりするような人じゃない」
「あんたがそう信じるならそれで良いさ。なら、アンタはアンデットとの戦いを止めるのか。
アンデットってのを封印できる数少ないその力を捨てるっていうのか!?」
「それは……」
重要なのはその部分だ。
他の何かで代用が聞くというならシンもここまで引き止めないだろう。
自分の命がかかっているのだ。
だが、現在アンデットを封印できるのはギャレンとあの謎の黒い戦士カリスだけだ。
どちらも何を考えているのか分からない。
そんなのを頼りにして良いほどアンデットは甘いものじゃない。
放っておくとどれだけの人が犠牲になるのか。
「オレ……戦うよ。やっぱり、誰かがアンデットの犠牲になるかもしれないなんて嫌なんだ」
剣崎の言葉にシンは笑顔を浮かべる。
それは本当に無邪気な笑顔だった。
仲間が、同士がいてくれるという純粋な喜びだ。
そんな二人を見つめるものがいた。
白銀の髪、白い肌、赤い瞳。
人形のように美しい小さな少女は彼らを見つめる。
明らかに日本人ではない。年齢は千佳や美羽と同じぐらいだろうか。
シンと剣崎はその視線に気付いて彼女を見る。
「どうしたんだい。君?」
剣崎は立ち上がり少女に尋ねる。
少女は剣崎の顔を興味深げに眺める。
「近所の子供じゃないんですか?珍しい顔だから見てただけですよ」
シンはあまり関心が無い様子だった。
次に少女はシンの顔をマジマジと見る。
「な、なんだよ」
シンは凝視されてたじろいだ。
不思議な空気を持つ少女だ。
普通の子供ではない。
だが、シンも剣崎も何も気付いていない。
「ふ〜ん……貴方が仮面ライダーなのね」
「オレの正体を知ってるのか!?」
剣崎は身構える。
一応、自分が仮面ライダーであることは秘密だ。
基本的にむやみやたらに正体を明かしていない。
だから、居候先の士郎ですら何も話していないのだ。
「それにコーディネイター……しかも、ガンダム持ち」
「お前……何が目的だ!?」
自分達の秘密を知るもの。
どう考えても一般人ではない。
剣崎が仮面ライダーなのは変身するのを見ていれば分かるが
シンがガンダムの力を持つことなど見破ることは不可能。
あの時の機動でガンダムを持つと分かるものはガンダムに精通する者だけである。
少女は焦るシンと剣崎を見て微笑を浮かべる。
その笑顔は小悪魔的で不思議な魅力を帯びていた。
あの赤い瞳を見つめていると吸い込まれてしまいそうになる。
「仮面ライダーっていうのを見にきたんだけよ。貴方はただ、一緒にいただけ……
でも、どっちもたいしたことなさそうだね」
少女は無邪気に言い放った。
仮面ライダーにガンダム……
どちらも一般的に知られるほどに脅威の力としての象徴。
それを持ちし者を見下す言葉を彼女は放つ。
虚言や虚勢などでは断じてない。
彼女は確信していた。
「なにぃ!」
二人はその言葉に怒りをともす。
普通に言われるより笑顔で言われると余計に頭にくるものだ。
それもこんな子供などに。
大人気ないとわかっていても二人ともそんな大人じゃなかった。
「お〜い、何してんの?」
その入り辛い空気に何も考えていないような声が割って入る。
三人がその方向に視線を移すとそこには美羽が立っていた。
その後ろから千佳たちも歩いてきている。
「美羽!また、来てたのか!」
「きてちゃ悪いのか?あたしが何処で遊ぼうとあたしの勝手だろ」
美羽は声を荒げるシンを冷ややかな目で見る。
「こらっ!年上の人にそんな口聞くな。失礼でしょ」
後から追いついた千佳が美羽に説教をくれるが
美羽はあからさまに不満な表情を浮かべた。
「別にシン兄ちゃんなら問題ないよ」
「どうして?」
「あっちも礼儀をわきまえ無さそうだし」
美羽はシンを指差した。
本当のことなので何も言い返せない。
「だからって真似しちゃダメでしょ。反面教師にしないと」
千佳の一撃がシンの胸に突き刺さった。
ガクリとその場に手を着く。
「何、ショックを受けてるんだ。本当のことじゃないか」
剣崎が慰めるつもりで肩を叩くが明らかに逆効果だ。
「だぁ!アンタに言われたくない!あんたにだけはぁ!!」
剣崎の手を払いのけシンが吼える。
「なにぃ!」
今度は二人で険悪な空気を作り出してしまう。
二人とも何時、手が出ても可笑しくない。
「おい、子供の前でみっともないぞ」
「お前が言うな。お前が」
美羽と千佳が水を指し、二人は冷静になる。
こんな子供に見られている前で些細なことで起こって喧嘩を始めたのが恥ずかしくなり。
二人は互いにそっぽを向いて落ちついた。
「……それだけ強大な力を持ってるくせに随分と精神的に未熟なのね」
銀髪の少女は呆れた様子で呟いた。
その表情は明らかな失望の色を持っている。
だが、こうも醜態を晒していては言い返せるわけも無かった。
「この子、誰?」
「見かけない子だね」
「綺麗な子だね……」
「何処の国の人かしら?」
小学生たちは見知らぬ同い年ぐらいの少女に興味を示す。
「まさかっ!!」
美羽は何かを思いつき驚く。
そんな彼女に皆の視線が集中した。
「シン兄ちゃんが誘拐してきた!?」
「って、なんでそうなるんだよっ!!」
何故、自分だと叫びを上げる。
怒るというよりも驚きというかツッコミだ。
「だって、やりそうな感じがする」
「確かに最初に私達を見てたときも尋常じゃない目をしてましたわ」
「……恐いよぉ」
千佳を除いた小学生達は恐れおののいた。
まさか、こんな近くに変質者がいたなんて。
「納得するな!別に俺はそんな特殊な性癖はない!!」
シンは断言するが何故か疑いの眼差しを向けられる。
「シン、そういうのは個人個人の自由だと思う」
「あんたも何、便乗してんだよ!」
剣崎に対しては真剣に吼えた。
どうしてこう、シンを変質者にしたいのか。
もしくは本当にそう見えるのか。
恐らく……後者なのだろう。
「俺は無実だ!」
シンは何だか逆に段々と悲しくなってきた。
どうして、自分はこんなところに居るんだろう。
そもそも、極秘任務のはずなのに。
何でかアンデット退治を手伝うことになって。
それで協力者とはゴタゴタするし……
「こらっ!皆、悪ふざけしすぎ。シンさん、泣きそうじゃない」
見かねた千佳がシンの援護にまわる。
この場は自分が納めなければいけないというツッコミとして感覚の行動だが。
その姿はシンには天使に見えた。
「千佳……お前だけだ。お前だけがオレの味方だ」
シンは千佳の小さな手をとり感動する。
流石に涙を流すような醜態は晒さないが幼女の手を持って感動してる時点で醜態だ。
「ちょっ……シンさん……」
千佳もこの反応に戸惑い焦る。
それに異性に手を握られるなんてことなれてない年頃だ。
意思に反して顔が赤らんでいた。
「ちぃちゃん……シン兄ちゃんみたいなのが好みなの?」
美羽の言葉に千佳は慌ててシンの手を振り解いた。
「断じて違う!!」
その拒絶にシンはショックを隠せない。
やはり、そのままうな垂れた。
「シン、人生。失恋の一つや二つ当たり前だぞ」
「だから、違う!!」
やはり、剣崎の余計な一言でシンの怒りメーターが振り切れた。
でも、元気を出させるには案外、この方法も打倒かもしれない。
銀髪の少女は離れた位置でそのやり取りを見守る。
その表情は退屈だと描いているかのようだ。
「あの……」
恐る恐るという口調で茉莉が少女に話しかける。
少女は今、気付いたという様子で彼女に向き直った。
「何か用?」
「あの……私、茉莉っていうの。貴方の名前は?」
茉莉は若干、震えながら名前を尋ねる。
友好を結ぼうというのか。
その割には及び腰だが。
後ろでアナが急かしている様子をみるとそちらのほうが友好を結びたいようだった。
「私はイリヤスフィール=フォン=アインツベルン……私が気になるなら。友達を盾にしないで
自分で話しかけたらどう?」
イリヤの視線はアナに移る。
赤い瞳は妖しい輝きを放っていた。
その異様な空気にアナは怯え茉莉の影に隠れる。
「えっ、ちょっと、アナちゃん。どうしたの?」
茉莉はアナが自分に隠れて驚いている。
何時もなら立ち居地が逆だというのに。
「イリヤ、こんなところにいたのか」
そこに一人の青年がやってくる。
全身に無愛想というか……何か違和感を感じさせる青年だ。
明らかに普通ではない。
その存在に茉莉は驚き、震えだす。
「この子たちは?」
「近所の子供よ。公園に遊びにきたんでしょ」
「そうか……」
「いきましょう……始。ここにいても時間の無駄だもの」
「そのお兄ちゃんというのはあの二人のどちらかなのか?」
始と呼ばれた青年はシンと剣崎の方を見る。
未だに二人とも険悪な空気をかもしだしていた。
始は二人を見ると顔をしかめる。
不愉快だと物語っていた。
「違うわ。あの二人は珍しかったから少し声をかけたんだけど……
ダメね。未熟も未熟。そこらへんの子供のほうがまだ、大人よ」
「……そうか」
「気になるの?」
「いや……ただ、いづれ邪魔になるかもしれん」
「だったら問題ないわ。始のほうが全然、強いもの」
「そうか。イリヤがそういってくれるならそうなんだろう」
「そう……お兄ちゃんとはまた、別の日にするわ。出来るだけ印象的な出会いにしたいもの」
「そうか……なら、帰ろう。リズとセラも待っている」
始はイリヤから差し出された手を握りそのまま、去っていた。
茉莉とアナは二人の会話を前にしただ、震えていた。
何かが恐かった。
誰かに怒鳴られたりするときの恐さとは違う。
もっと、芯からジワジワとこみ上げる嫌な恐さ。
目の前にいるのに違う場所にいるような……
日常は次第に侵食されていく……
影を潜めていた闇は次第に大きくなっていった。
シンも剣崎も……それに気付かない。
ただ……
「なんだ……?」
翔は何かの破片を拾い上げる。
それは機械のようだった。
だが、これほどまでに精巧に作られている機械が存在するというのだろうか。
それはまるで金属で生物を模しているかのようだ。
「それはホムンクルスの破片……人が作り出した化け物の破片だ」
黒いコートにサングラスをした明らかに妖しげな男。
見た目だけで妖しいがその雰囲気はそれを超えて怪しい。
人間の皮を被った化け物とはこういうものを言うのだろう。
「アンデットか」
「ほぉ……一目で見破るとはな。だが、俺にはお前が何者かわからない。
お前は誰だ?人間でもコーディネイターでもアンデットでもホムンクルスでもない……
ましてサーヴァントなどではありえない」
男の問いかけに翔は答えない。
ほぼ、ノーアクションから破片を男へと投げつけた。
その速度は時速300kを超える。
構えも無しにこの速度。
人間なら間違いなく直撃を喰らい、その体が吹き飛ばされるだろう。
だが、男は苦もなくそれを回避した。
「……逃げたか……良い判断だな」
既にその場に翔の姿はない。
彼の立っていた場所には何かに抉られたような後だけが残されていた。
「まぁ良い。まずは伝説のアンデットからだ……」
男は歩き出す。
日常は次第に闇に飲まれていた……