暗い暗い闇の中を一人ぼっちの少女が泣いていた。

「なんで泣いているの?」

赤い髪の少女がその少女に話しかけた。

紫色の髪のセミショートの女の子。

前髪が長く瞳を覆い隠しているように見える。

「・・一人なんです・・・ずっとずっと一人なんです」

シクシクと少女は涙を流しながら呟いた。

「そうなんだ・・・悲しいね。私もよく分かるよ」

赤い髪のツインテールの少女は同意を見せる。

こんな暗い中で一人はとても恐い。

気が狂ってしまいそうだ。

「それに嫌な人たちがいるんです」

同意を示されたのが嬉しいのか、人と話せるのが嬉しいのか

少し表情をやわらかくした少女が赤い髪の少女にすがりつく。

「私の周りにもいるよ。でも、その人、最初は凄く嫌な人なんじゃないかなって思ったら違ったんだ。

本当はとても優しくてそれでいて面白くって可笑しい人。

青い髪のきれいな人でまるで空みたいなんだよ」

嬉しそうな表情で赤い髪の少女が語る。

その嬉々とした表情を見て紫の髪の少女は少し距離を置いた。

違う、この人は一人じゃない。

誰かが傍にいるんだ・・・

「どうしたの?」

理由が分からないのか赤い髪の少女が尋ねる。

「やっぱり、一人です」

「そんなこと無いよ。私がいるよ。それに君の周りにもいるはずだよ。大切な人が」

「いませんよ」

「いるはずだよ。絶対。だって、感じるもん。君に向けられる優しい笑顔を、優しい言葉を、

ほら、目をこらしてよく見て、耳を済ませてよく聞いて。

君のそこにある瞳は飾りじゃないよ。君のそこにある耳は飾りじゃないよ」

赤い髪の少女に言われ紫の少女は意識を集中させ記憶を探った。

ふと、優しい笑顔が蘇る。ふと、心地よい声が蘇る。

その瞬間、少女の瞳から先ほどまでとは違った。

輝きに満ちる雫が一つ、二つと零れ落ちていく。

「分かったんだね。よかったね、私はそういう人はいないから・・・

私の隣にいる人も他の人のものだから。赤い糸で結ばれて無い人。いずれは別れる人だから」

今度は赤い髪の少女が悲しそうな顔を浮かべる。

その顔に小さな手がそえられた。

「その人は空なんですよね。だったら大丈夫ですよ。空の青さは誰にでも平等ですから」

紫の少女のその言葉に赤の少女はふと微笑を見せる。

「そうだね・・・あっ、光がさしてきた」

赤の少女が上を向くと闇の世界に光が差し込んで二人を照らし出そうとする。

その瞬間、自分たちがどれだけ離れた場所で会話していたのかが分かった。

その距離はあまりにも遠く顔なんて見えるはずも無い距離。

だが、お互いはお互いにそれを認識しあっていた。

「お別れですね・・・」

「大丈夫だよ。また、会える。その時はもっとお話ししよう」

「そうですわね」

「うん、その時は空に会わせてあげるよ」

「お願いしますわ・・・そういえば名前いってませんでしたね」

「だね、私の名前はシャサって言うんだよ」

「私の名前はメルといいます。メル=シャ・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機 鋼 神 王

第一章

〜戦士、立つ〜

第二話

二人の皇女

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝日が窓から差し込んでいた。

開け放たれたカーテンからガラス越しに全てを照らし出すそれは赤い髪の少女を映し出す。

温もりと安らぎの象徴を抱えた小さなその体は必死にそれから逃れようとしていた。

全てを目覚めへといざなう理はその小さな反抗を意に返さずに降り注ぐ。

ふと、青い瞳が開け放たれた。

焦点のあっていないそれはまだまだ、開けていない空の色、そのもののように感じられる。

だが、現在の空は完全なる青さと清潔さを伴っていた。

「ふわぁ・・・」

青い髪の青年・・・トールは大きく口を開けると目を二、三回こすった。

そして、真正面に映る物を真剣に眺めていた。

そして、再び二、三回、目をこする。

それが幻や蜃気楼ではないことは直ぐに分かっていた。

「なんで、オレの横にこいつが寝てるんだ」

確かに眠るときはベッドの上にいたはずだが・・・

トールは完全に動作していない脳を急いで立ち上げて思い起こした。

まず、間違いない。一緒に寝る理由が思いつかないからだ。

「てて・・・なんか、妙に体が痛いが・・・」

脇腹をさすりながらトールは立ち上がる掛け布団を跳ね除け横に飛ばした。

部屋の空気がこもった体温を取り除き急速に目覚めへといざなう。

「・・・もしかして・・・こいつ、俺の脇腹に落ちたのか・・?」

トールはどうにも痛む脇腹にそう推理した。

寝相が悪くて堕ちたのだろう。

来ていたYシャツもはだけて小さな胸や細い足が根元から見えている。

「起きたら五月蝿そうだな」

トールはそう呟くと横に転がってた掛け布団を持ち上げてそのままかけなおしてあげた。

下手に直そうとして起きられて痛い目にあいたくない。

なんとなくそういうお約束をしそうだとトールの本能は告げていた。

それは当たっていただろう。

次の瞬間には掛け布団が勢いよく跳ね上げられる。

「あれ・・・?」

思い切り足を真上に突き出した状態でシャサは目を覚ました。

はっきりいってとんでもない格好である。

何せYシャツしか着ていないのに足を思い切り上げているのだから。

「起きたのか」

「えうぅ・・・こっち見ないでぇ」

朝だからテンションが低いのか、自分でやったからなのかはわからないが

シャサは怒鳴らずにそのまま足を下げて恥ずかしそうにYシャツのすそをひっぱている。

そんなことせずとももう、見えてない。

「寝相悪いなぁ。オレを見習え。俺は全く動いてなかったぞ」

おそらく脇腹を打ったショックで少し前かがみになっていただけだ。

トールは寝ているときにほとんど動かない。

「意外だね。全てのものを蹴り倒しそうな見た目だよ」

「そりゃ、すばらしい見た目だな」

どんな見た目だよと内心でツッコミをいれながらトールは呟いた。

朝だというのにすでに結構にぎやかだ。

「別にやることもないし、もう少し寝ててもいいぞ」

トールはまだ、完全に覚醒しきっていないのか欠伸をした。

だが、再び眠るには少し眠気が足りない。

ただ単に寝起きで気だるいだけなのだろう。

「ううん、良いよ。眠くないから・・・そうだ。変な夢見たんだ」

シャサは思い出したようにトールに話しかけた。

トールはほぉと相槌を打つとベッドの上に座る。

シャサも続いてその横に座った。

「私と同じぐらいの紫色の髪の女の子が暗闇の中でずっと泣いてるの。

なんで泣いてるのって聞いたら一人ぼっちだからって答えたんだ。

でも、私が一人じゃないよって言うと笑って友達になったの」

「ほぉ、いい夢ジャン」

トールは素直にそういうとシャサは何かを付け足そうとするが顔を赤くしてやめた。

トールは気になったが言いたくなさそうなので追求をやめる。

「でも、なんか不思議な夢だったよ。本当にあって話してる感じがしたんだよ。

でも、二人の距離はとっても遠くて普通、声も届かないし顔も見えないくらい」

「夢、だからな」

「でも、実際にあってるって感じだったんだ」

「夢、だからな」

「夢だからなの一言で片付けないでよ!」

シャサは適当にこたえられてる気がして頭にきているらしい。

だが、トール自身は別に適当という気はないようだ。

「夢ってのはその人が持つ願望や意識のそこで感じているもの。またはあったら嫌なことを映し出すらしい。

だけど、中には夢の中で他人と会話することも出来るらしい」

「へぇ、それじゃあ、夢の中の女の子は実際にいるんだ」

「かもなぁ、ただの幻想かも知れないし。いても会えるとも限らんがな」

トールは思わせぶりなことを吐いておきながら現実的な意見を述べる。

ちなみにこれは彼が昔読んだ、漫画の話だ。

「絶対会えるよ!だって、約束したもん。会おうって」

「じゃあ、会えるんじゃねえか?想えばかなう何事もってね」

トールはそういうと立ち上がった。

「どこか行くの?」

「いや、泊めて貰った訳ジャン。だったら挨拶でもしてこようかなって。後、出来れば朝飯」

トールは軽い運動をしながら答えた。

考えて見れば昨日は夕食はおろか昼飯も食っていない。

途中でクレープを食ったきりだ。

相当、腹が減っているのだろう。

お腹が鳴った。

それも二人同時に。

 

食卓は畳張りの部屋にちゃぶ台という昭和な構成になっていた。

テレビが一台備え付けられておりそれもなぜかチャンネルを回す式だ。

それもこれも全てここの主バトォの趣味なのだから誰も文句は言えない。

「昨夜は突然、お邪魔してしまってすいません」

バトォと向かい合う形で座っているトールが深々と頭を下げた。

「ふぉふぉふぉ、なぁに、ラスクの親友なのじゃから当然じゃわい。弟子の客はわしの客でもあるのじゃからな」

バトォは豪快にそう笑うと蓄えた白髪の髭を丹念になでている。

「それに朝飯までご馳走になって」

トールの目の前には白米に味噌汁、焼き魚、それに漬物が並べられていた。

こういう純和風な料理はここらへんの地方に昔から伝わるものだ。

トールが挨拶をしている横でシャサはすでに朝飯をいただいていた。

だが、箸が使い慣れないのか握りこぶしで持ってご飯をかき出すように食べている。

「・・・本当にガキだな」

そんな様子を見てトールがぼそりと呟いた。

「なんだよ!こんな棒二本で食べろってほうが無理な話だよ!」

シャサはトールに箸を突き出して叫んだ。

箸を使ったことが無いのだろう。

ここら辺に住んでいるならとても珍しい。

「箸はこうやって持つんだよ」

トールは正しい箸の持ち方を実践してシャサに見せてやった。

「・・こう?」

「違う!やり直し。型が出来たらまずは素振りからだ。1000回、それが出来るまで実践は程遠いと思えよ」

「じゃあ、いいよ」

シャサは直ぐに箸の持ち方を諦めるとそのまま握って焼き魚を串刺しにして口に運んだ。

「おい・・・魚を頭ごと食っても上手くないぞ」

トールは小さな口に思いっきり魚の頭を咥えているシャサを見て忠告した。

ギャリッという音を出した後、シャサは固まっている。

「魚とのディープキスはおいしいか?」

トールが尋ねるとシャサはフルフルと首を横に振った。

「ふぉふぉふぉ、かわいいお嬢ちゃんじゃのう。おぬしの妹かなにかか?」

「いえ、道中拾ってきたんです。ダンボールに捨てられてたので」

「私はネコじゃないよ」

むすっとした様子でシャサが文句を言っている。

「魚を頭からかぶりついておいてよく言うな」

「ただの勢いだよ!」

シャサはそういうと尻尾のほうからかぶりついた。

尻尾のほうもあまりおいしくないぞと思いながらトールは目線をバトォへと向ける。

「ふむ・・捨て子か・・・この年でかわいそうに」

「いえ、本気にしないでください」

トールは真剣に悩んでいるバトォに焦りを覚える。

冗談が通じない人か。

「バトォ先生、トールは冗談の塊のような人なんですから一々、まじめに反応してちゃダメですよ」

そこにラスクがやってきて声をかけた。

白衣を着てすでに仕事に入っているようである。

「どういう意味だ。ボケの塊のラスク君」

「ひどいなぁ、僕は真剣と誠実の塊のような人間だよ」

「すでにその時点で真剣さも誠実さも微塵に感じられんがな」

トールは呆れた顔で焼き魚の身を解して口に運んだ。

その動作をシャサは感心した様子で眺めている。

ちなみに尻尾から食べ始めたときは尾は食べたものの背骨につかえて吐き出していた。

「それよりも二人ともよく寝れた?それとも今夜は寝かせないぜなんてほざいて明け方まで・・・」

「お前と違って俺たちには目の下にクマは出来てないな」

「まぁ、二人とも若いし」

「いやいや・・・お前はどうしてもオレをロリコンにしたいのか?」

「当たり前じゃないか」

トールは瞳をキラキラと輝かせて嬉しそうな笑みを浮かべている親友の顔面に味噌汁をぶっかけてやりたいのを

我慢しながら八つ当たりと言わんばかりにご飯にそれをかけた。

「えうぅ、いらないなら私が食べたよ」

それを見てたシャサがもったいないと言わんばかりに茶碗を見つめている。

「こうするとうまいんだ。お前もやって見ればわかる」

トールはそういうとご飯をかき混ぜて口に運んだ。

「トール好きだね。その食べ方。意地汚いって怒られてたのに」

「そのくせ、目の前で同じことしてたな怒った奴は」

トールは漬物を口に放り込んだ。

そして、何気にテレビの画面の目を向ける。

チャンネルの切り替え方は旧式だが画面はブラウン管ではなく最新の液晶だ。

見事なまでに平面・・・おかしな時代に迷い込んだ気分だ。

その画面には朝のニュースが特番を組んでやっていた。

「昨日、午後12時から意識不明の重体に陥っていた第二皇女メル様が今朝方、意識を取り戻しになられました。

これは皇室側の公式発表であり、メル様の命に別状は無いようです」

この国の第二皇女メル=シャトレーゼ。

生まれたときより病弱でメディアの前に姿を見せたことが一度も無い

幻の皇女と呼ばれる少女。

現在では11歳になるはずだがその容姿を目撃した一般人はいない。

本当は存在しないとか、実は既に死んでいるなどという噂も流れているが

どれもこれも確証はない。こうして、時々体を壊したと報告されては直ったと報道されている。

トールは興味なさげに目線を横の少女に変えた。

少女は何を勘違いしたのかご飯に味噌汁をかけた後に魚の背骨を突き刺していた。

 

シャトレーゼ皇城

この国の政治と軍務を取り仕切る国の中枢機関である。

それと同時にシャトレーゼの皇王とその一族の住居であり中に大量の使用人も暮らしていた。

そこの一部屋

第二皇女メル=シャトレーゼ。

幻の皇女と呼ばれる人物の部屋の前で一人の老人が慌てふためいていた。

紫の髪を肩まで伸ばし、首を覆い隠すほどの髭を伸ばしている。

その頭上にはこの国の皇の証である皇冠が輝いていた。

「それでメルの容態は大丈夫なんだろうな?」

男はその威厳高き皇冠も、服装も、顔もかすんでしまうほどにうろたえている。

その目の前に立っている白衣の男が頷いた。

その男は医者なのだろうがその容姿はあまりにもやぶっぽく闇っぽい。

虚ろな瞳に無精ひげを生やし、体は細くひょろりとしている。

更に顔に生気が感じられない。

そんな男とこの国の皇王が話しているところを普通の人が見たらなにかの密談かと思ってしまうほどだ。

「そうか・・・お主がそういうのなら間違いないのであろうな」

皇王はその白衣の男を信頼しているのか安心したように落ち着きを取り戻した。

なんだかこの国の行く末が心配になってしまう・・

「お父様、ビーン先生!メルは無事なのですか!?」

そこに侍女を一人、引き連れてドレスに身を包んだ紫色の髪の女性が髪を振り上げ、

荒々しくスカートを翻しながらつっぱしてっくる。

「おぉ、レイ。久しぶりだのう!」

皇王はその女性・・第一皇女レイに抱擁しようとする。

「邪魔ですわ、お父様!」

レイは握りこぶしを一発ぶち込むと皇王を廊下の壁に叩きつけて白衣の男の前に走っていった。

「ビーン先生、メルの容態はどうなんですの!ことと次第では城の上から落ちてもらいますよ」

危険な発言をしながらレイはその優雅な容姿とは裏腹に白衣の襟をしぼりあげて叫んだ。

「・・・問題ない」

ビーンはそう呟くとレイはその手を離した。

「そうですか・・・彼方がそういうのならそうなのでしょうね」

レイもビーンの言葉を一言で信じてしまった。

本当にこの国の行く末が気になってしまう。

「レイ様、お茶会の時間が迫っております」

そばに付き従っている侍女がスケジュール表を片手に言った。

「もう、そんな時間ですか・・・それではビーン先生。くれぐれもあのこのことは頼みましたよ。

まぁ、彼方のことですから何の心配もないと思いますが・・・」

レイはそういうが後ろ髪が引かれるのかその場から動こうとしない。

幾ら相手が信頼する医者だとしても自分の妹のことが心配なのだろう。

今すぐにでもあって抱きしめたい気分にかられながらレイは動けずにいた。

「レイ様、遅刻は厳禁ですよ」

侍女はそういうとレイの後ろ首襟を掴んでそのまま引きずっていった。

「ビーン先生、メルのことは頼みましたわよぉ〜」

レイは侍女に引きずられながら叫ぶと消えていった。

ビーンはコクリと一度頷く。

そのころ、この国の一番偉い人は壁に頭をめり込ませたまま眠っていた。

 

部屋の中では紫色の髪の少女がベッドの中で眠っていた。

顔のほとんどは前髪で覆い隠されてよく見えないがその表情は苦しそうで顔は青かった。

ここに眠る少女こそがこの国の第二皇女にして幻の皇女メル=シャトレーゼである。

ビーンはその顔を覗き込むとメルの前髪をどけて顔色を伺った。

その様子を見たビーンは頷くと後ろにある棚からいくつかの薬を取り出す。

完全な静寂が部屋を支配していた。聞こえるのはメルの苦しそうな息遣いだけ。

後は薬を取り出すビーンの動作音だけだった。

「・・・ビーン先生・・・」

メルの瞳が不意に開けられた。

まだ、完全に意識が覚醒していない虚ろな瞳は横に立つ白衣を眺めていた。

「メル・・・生きてるんですね」

メルは自分がそこに存在しているのだと認識すると呟いた。

昨日、突然の咳き込んで血を吐いてからの記憶がメルにはなかった。

慌てふためく誰かの声が聞こえ、その後に誰かが一言も口に出さずに黙々と治療してくれたのは感じている。

それはビーンなのは明白だった。慌ててたのはそばに居合わせたメイドだろう。

その後、深い眠りについて一年ぐらい眠っていた気分だった。

「ビーン先生・・・私、夢を見たんです」

メルはそのとき、見た不思議な夢のことを話し始めた。

もう、諦めよう。このままみんなに迷惑をかけ続けるぐらいなら死んでしまおう。

精神だけの虚ろな状況でメルの思考はどんどんとマイナスへと向かっていっていた。

果たすべき役割も果たせず、ただ、寝てすごすだけの日々。

直ぐ隣には何時も死が横たわっていて不意に触れてしまいそうになる。

そんな毎日が恐くて・・・でも、誰にもいえなかった。

言ったらまた、みんなに心配をかけてしまうから・・・

幼い心は限界に達していたのだろう。

きっかけがあればそれは直ぐに壊れてしまいそうなほどにひび割れていた。

だが、夢の中で一人の少女と出会った。

自分と同じぐらいの年の少女。

彼女もまた、一人ぼっちだった。

何処にいるかは分からないが確実にそこに存在していた少女は自分に勇気をくれた。

幸せはこの世界のどこかに必ずあって何時かは拾えるものだと。

この青い空が続く限りはそれが理なのだと・・・

そして、自分もその一つで、メルもその一つなのだと・・・

だから、生きて見ようと思った。

せめて、その少女と出会う日までは・・・

「夢の中で赤い髪の女の子とあって友達なったんです。今は会えないけど何時か会おうって。

それまでに元気になっていけませんね。そうじゃなきゃお話しできないですから」

メルがそういうとビーンは優しい微笑を浮かべ頷いた。

そして、手に持った薬と水を差し出した。

メルはそれを受け取ると飲み干しベッドの上に横たわった。

ビーンはシーツをかけ直すと横にある椅子の上に座り少女の顔をじっと見ている。

メルはふと、瞳を落とすとそのまま寝息を立てた。

その様子をビーンはじっと眺め続けていた。

まるで懐かしむように・・・そして、どこか悲しそうな表情で・・・

 

 

「よぉし、張り切ってくぞぉ!!」

公園の噴水の前でトールは気合十分という表情で叫んでいる。

その横でシャサもつられて片手を上げてオーと叫んでいた。

「で、何をがんばるの?」

シャサは片手を上げたままトールに尋ねた。

「ほぉ、それを聞くか?聞きたいか?」

トールは不敵な笑みを浮かべるとガシッとシャサの腕を掴んだ。

「えうぅ・・・遠慮しとこうかなぁ・・」

「ダメだ」

「じゃあ、聞かないでよ」

「俺たちはこれからアルバイト先を探すことになる。これはとても過酷で大変なミッションだ。

なんたって俺たちは住所不定無職。さらには幼女が一人だからな」

シャサのぼやきを無視して話を進めていく。

「アルバイト・・・?」

「まさか、アルバイトという単語を知らないのか!?」

「・・・うん」

「アルバイトというのはな。一時的に働いて金をもらうことをいうのだ。

就職じゃないからさほど縛られない。変わりに給料は安いけどな」

「えうぅ・・・何で私たちアルバイトするの?」

「ふははは・・・お前がオレに金を返すためだよ!」

トールは指をビシッとさして高々と叫んだ。

そう、全ては昨日貸した一万ギラを返金するため、己のため。

親や親戚の所へ連れて行かないのならと最後の強硬手段に打って出たのである。

これ以上の最後の手段はあることにあるがトールは流石にとそれをするつもりが無いのでこれが最後の手段だ。

「いいか、お前はオレに金を返すまで例え泣こうがわめこうが苦しもうが死のうが離れることはゆるさん。

全ては金。オレの一万ギラのため、汗水血流して根性と気合で働くんだぁ」

「あっ、ちょうちょだ」

暑苦しい位に叫んでいるトールを無視してシャサはフラフラと離れていこうとする。

「待てやぁ!」

トールはそんなシャサの頭をガシッとわしづかみにした。

「えうぅ、鬼畜だ極道だ。か弱い少女に無理無謀無茶をさせようとしてるよぉ」

「昨日言っただろ、地獄を見せるとな」

「えうぅ・・・・」

開き直ったトールの変なベクトルに突っ走るパワーにシャサはおされ気味だ。

仕方なく頷いて二人は商店街のほうへと歩いていく。

 

コンビニエンスストア

コンビニの略称で慕われ正式名称が忘れ去られて久しいお店。

24時間開いていて大抵のものが揃っている便利なお店だ。

その中でもこの711(セブンワンワン)は大陸規模のチェーン店でどの国のどんな小さな町にも一店は

あるとさえ言われるほどである。

その為、国の最高権力者の名前は知らなくてもこの711の名前は知っているという人が続出していた。

その最強のお店711シャトレーゼ店の事務所の中の椅子にトールとシャサが座っていた。

「履歴書を拝見させてもらいましたが・・・」

この店の店長らしき人物が二人の履歴書を見て渋い顔をしていた。

トールの履歴書

大陸暦1112年3月11日生まれ

学歴、無し

職歴、実家の農業手伝い

特技、農作業、家畜育成

趣味、特に無し

現住所シャトレーゼ六番街七丁目バトォMR研究所(仮)

連絡先上記と同じ

シャサの履歴書

大陸暦1120年5月9日生まれ

学歴、無し

職歴、無し

特技、物を壊すこと

趣味、動物と遊ぶこと

現住所シャトレーゼ六番街七丁目バトォMR研究所(仮)

連絡先上記と同じ

 

「この住所の(仮)はなんなんですか?」

店長が眉毛を引きつらせながら尋ねる。

「そこに居候してるからです」

「だったら別に仮をつけなくても・・・」

「いえ、出てくきなんで」

「それまでならそこが現住所なんですから良いですよ」

「あっそうなんですか」

トールはなるほどと頷いている。

その横でシャサはものめずらしそうに辺りをキョロキョロを見回していた。

「それでなんでここでアルバイトしたかったの?」

「金がほしいからです」

「そう・・・ところでそっちのお嬢さんの分も履歴書があるのはなにかの冗談かね?」

「本気ですが」

「そう・・・・それじゃあ、仕事の邪魔だからでてってくれるかな」

 

「う〜ん、心が狭いな」

「狭いねぇ」

トールとシャサはベンチに座りながら呟いた。

冷やかしと思われて帰らされたらしい。

トールは完全に本気だが、それもそれで困るだろう。

こんな子供を雇う気は無いだろうし。

「考えて見ればシャサを雇うところなんてあるのか?」

それもそうだがトールも雇うところがあるかどうか微妙だ。

なんせ学歴が一切無いのだから。

それに特技も街中では使わないようなものばかり。

後一つ特技があるのだがトールはそれを使っての仕事は考えたくなかった。

「ねぇ、どこか面白いところいこうよ」

暇になってきたらしいシャサはベンチから足をぶらぶらと揺らしながら言った。

「あぁ!?まだ、地獄ロードは始まったばかりだぞ。こんぐらいでへこたれるんじゃねぇ」

トールは何とかやる気を振り絞ると無意味な努力を続けようとしていた。

それにシャサはあからさまに嫌そうな顔をする。

「何で私がそこまでしてトールにお金を返さなくちゃならいんだよぉ」

シャサがそういった瞬間、トールはその口に指を突っ込んで横に広げた。

「お前がこうして笑って街を歩いていられるのは誰のおかげだと思ってんだ。

オレが助けなきゃお前は今頃、薄暗い倉庫の中で薬うたれて仮面かぶった変なおっさんたちに散々、まわされた挙句に

裏オークションに売られてもっと遠いどこかの国へ行ってた所なんだぞ」

いつの間にかバスの運転手さんは極悪人されていた。

「えうぅ・・・ごへぇんなしゃい、みょういわにゃいからゆしてぇ〜」

シャサは口をゴムのように何回も広げられながら謝っていた。

「分かればいい。んじゃ、さっさと次いくぞ」

トールはシャサの唾液の付いた指をシャサの服でぬぐうと歩いていった。

「本当に助けられてよかったのかなぁ・・?」

シャサはトールのひどい仕打ちに次第に後悔し始めていた。

 

「あんたふざけてるのかい?」

「ダメダメ、子供が子供の面倒見られるわけないでしょ」

「すみません、高校卒業ぐらいの学歴がないと雇えないんですよ」

「死ぬ可能性がありますよ」

「そんなツルペタな体じゃうちの店じゃ雇えないわよ。専用の店があるけど紹介してあげようか?」

「ねぇ、君。女装してうちの店に来ない?」

 

「だぁ!!また、無意味に一日が過ぎるぞゴルァ!!」

トールは芝生の上に寝転がると両手両足を広げて大空に向かって叫んだ。

太陽はかなり傾いてきている。

「えぇ、でも結構面白かったよ」

シャサはトールのおなかに座って微笑を浮かべていた。

「乗るなよ・・」

「面白いよ」

「オレは面白くもなんとも無い」

「えうぅ・・・男の人は女の人に上に乗られると嬉しいんじゃないの」

「誰の入れ知恵だよ・・・」

トールは顔を引きつらせながらシャサをどかし上半身を起こした。

「でも、結局、仕事見つからなかったね」

「だぁかぁらぁ、うなだれてんじゃねぇかよ。あぁ、助けるんじゃなかったな」

トールは頬杖を付きながら呟いた。

「ごめんなさい」

「・・・・・・・」

トールはシャサのその言葉に驚いて体を固めた。

「今、信じられない言葉を聞いた」

「何が?」

「だって、お前が謝る?何か悪いもんでも食ったか?」

昨日から罵られはしたが謝られたことは一度も無かった。

「別に・・・でも、私のせいなのは本当のことだし・・・」

シャサは申し訳なさそうな表情で呟いた。

あえてそういうことを言ってたことはあったが本当にそういっているのは初めてだ。

「なぁに言ってんだよ」

トールはそういうと後ろからシャサの体を羽交い絞めにすると脇とおなかをくすぐった。

「あははは!いきなりにゃにすんにょぉ!やめてよぉ」

シャサは笑い転げながら逃れようとする。

だが、トールはそれを逃さず抱き寄せる。

「ほらほら、昨日、散々痛めつけられた仕返しだ」

「ひゃはは、やぁ、やめてよぉ・・・死ぬ、しんじゃうよぉ」

トールはくすぐるのをやめるとシャサの小さな体を抱き寄せて胸の中に収めた。

「ったく、ふざけてんじゃねぇよ」

「ふざけてんのはどっちだよ!」

シャサはトールの腕に羽交い絞めされて顔を真っ赤にして叫んだ。

「確かにお前のせいで苦労してるけどなぁ。結局は自分のためだしお前も巻き込んでんだ。

お前が心すり減らすのはお門違いというか・・・とにかく、気にする必要性は皆無なんだぜ」

「えうぅ・・・そうなのかな・・・」

「そうそう、だからさっさと仕事を見つけて金を返してもらうぞ」

「結局・・・そうなんだよね」

トールにとっては金のほうが大事なんだとシャサは思った。

だが、こうして包まれていることは幸せだしそれでもいいかと思っていもいた。

 

トールとシャサはもうひとがんばりしようと街を歩いている。

小腹が好いたのでアイスを露店で買って食っているがシャサの動きが危なっかしくて

トールはじっとその姿を追っていた。

だから、自分の注意が怠ってしまったのだろう。

それでは本末転倒である。

「うわぁ!」

トールは前から歩いてくる人に気づかずぶつかりそうになった。

何とかギリギリで回避するも思い切り横を歩いていたシャサの足を払ってしまう。

「えぅ!!」

シャサはそのまますっ転んでトールにぶつかりそうになった人にぶつかった。

アイスを突き出したまま。

「えうぅ・・トール!折角のアイスが台無しになっちゃったよ!!」

シャサは転ばされたことよりもぶつかったことよりもアイスが台無しになったことに怒っている。

「すまん、だが、いまのは可抗力だ」

不ではないらしい。

「それではわざとやったことになりますよ」

そんなトールにぶつかってしまった人がつっこみをいれた。

シャサはよく意味が分かっていなかったのでちょうど良かったところだ。

「まぁ、わざとではないが・・・すまなかったな。服」

トールはそういうとアイスの直撃を受けた服を指差した。

見事なまでにアイスがこびりついている。

「いえいえ、いいんですよ」

そういうと男はかぶっていた帽子をはずしてそういった。

流れるような長い金髪の美形の青年。

街ですれ違えば女性はみんな、振り向くような色香を持っていた。

だが、男には気に入られないだろう。

「それは助かった。何せ、金が無いからな」

トールはえばりながら言い放った。

なぜ、そこまで堂々としているのか不思議なぐらい。

「・・・・・」

青年は呆然としている。

「トール・・・アイスかってよ」

シャサはコーンをトールに向けておねだりしてる。

「これで我慢しろ」

トールは自分の食いかけのアイスをそのコーンに突き刺した。

「えぇ、トールの食べかけ!?」

「嫌だったら返せや」

「うん、いや」

シャサはそういいながらもそのアイスをなめ始めた。

「でも、もったいないから食べるよ。でも、新しく買ってよ」

そんなシャサの姿を見ながらため息を吐いた。

今回は精神的に負けたらしい。

「あの・・・」

青年は勝手に話を進めてる二人に声をかけた。

「あぁ、まだいたんだ。別に金を払わなくても良いんだろ。さっさと行っても良いぞ」

トールはもはや、許された瞬間にこの目の前の青年がどうでもいい存在となっていた。

「はは・・・君、私の顔を見て何も思わないのかい?」

青年はそういうと自分の顔を指差して尋ねた。

「・・・ナルシスト?」

トールは少し距離を開けて尋ねた。

ついでにシャサを自分の後ろに下げている。

確かに青年は美形だ。かっこいいのだろう。

だが、トールは男だ。男に興味は無い。

更にトールも美形だ。どちらが人気が出るかではタイプが違うから分からないが。

「いや・・・君は私のこと知らないのかい?」

青年は本当に不思議そうな顔をして尋ねてくる。

「知らん」

「私も知らない」

トールとシャサは即答した。

「貴方様は英雄のシャルドゥ様!!」

突然、トールとシャサの後ろから声が聞こえた。

その瞬間から周囲の人々がざわめきだす。

「!!??」

事態の変化についていけないトールとシャサは困惑するばかりだった。

その様子にその青年・・シャルドゥと呼ばれた者は誇らしげな顔をしている。

「やれやれ、正体がばれてしまいましたね」

自分で思いっきりばらしておきながらシャルドゥは困った表情を浮かべている。

「・・・誰だ?それ」

トールはいまだに困惑の表情がとれないでいた。

聞いたこともなければ見たこともない。

「あんたら竜殺しの英雄シャルドゥ様を知らないのか?」

そばにいた男が信じられないという表情で尋ねてきた。

その問いにトールは即座に首を縦に振る。

「二年前、凶悪な竜がシャトレーゼのはずれに突然、現れたのを退治したのがこの英雄さ。

この国では右に出るものはいないと言われるほどの英雄なんだぜ」

もう片方にいた男が説明をしてくれた。

トールはその言葉を頼りに記憶をたどって見る。

「あぁ、そういえばなんか竜が出たとかなんか騒いでたっけな・・・そうか、

それを止めたのこいつなんだ・・・」

トールは凄く疑わしそうな目でシャルドゥのことを見つめた。

「なんだい・・?」

「いや、なんでも。それよりも俺たち用事があるんだ」

「あぁ、すまなかったね。そうだ、君。仕事を探しているのだろう?」

「!」

トールは驚愕した。

何で、そのことをこの男が知っているんだ?

「目立ってたよ君たち。昨日も街中を走り回った挙句に海に飛び込んだらしいね」

「なっ!なんであんたがそのことを知ってるんだ」

トールは困惑しながら距離を開けた。

まさか、つけられていた?

だが、理由が思いつかない。

「あぁ、そういえば昨日の騒がしい奴らか」

「えぇ、あの少女誘拐犯?」

「あの!格闘幼女か!」

「あれは無呼吸で3時間走るという生命体か」

「バカ、多分魔法使いなんだよ」

「あの子、かわいいなぁ・・・」

「あの人、ちょっとかっこよくない?」

「えぇ、シャルドゥさまの方が断然かっこいいよ」

どうやら、街中に広まっていたらしい。

確かにここは田舎だ。だが、たった一日でそこまで広まるほどのド田舎だったか?

「みんな、知ってるみたいだね」

「だけど、なんでオレが仕事探してること・・・」

「真剣な表情で求人広告眺めてたのを見かけてね。小さな女の子を連れて何店も回ってたみたいだね。

そうだ、私が君にいい仕事を紹介してあげよう」

シャルドゥは突然、何か言い出した。

仕事を紹介する?

「何で、あんたが?」

「困ったときはお互い様さ。君、意外と逞しい体みたいだし、その有り余る若さを国の為にささげて見ないか?」

「はっ?」

「今度の日曜日に皇国軍入隊試験があるんだが君も参加しないか?」

「はっ!?」

「一般公募で試験内容も国内に放送される盛大なイベントなんだけど。そこに君を推薦してあげるよ。

もし、受かればかなりの額の給料が支給される。断る理由もないと思うが?」

シャルドゥはそういった。

不敵な笑みを浮かべている。その腹のうちに何を企んでいるのか分からない。

いきなり、見ず知らずの人物を推薦する理由が分からなかった。

皇国軍・・それは国の為に外敵より民を王を護るものたち。

それが行使する力は世界最強の力、メタルレプリカ。

メタルレプリカはそれ相応の訓練をつまなければ動かすことも出来ない代物だ。

そこら辺の一般人が動かせるわけが無い。

思えば、それはほんの冗談だったのかもしれない。

無視されバカにされた腹いせの少しの悪戯だったのかもしれない。

もしくは周囲の人々に自分の優しさを見せるための事だったのかもしれない。

だが・・・ふと、トールは答えてしまった。

「それじゃあ、お言葉に甘えさせていただきましょうかね」

なんとなくその目の前の男がむかついていたのだろう。

はなを明かしてやりたかったのだろう。

別に国の為に働く気も、命をかける気もない。

だが、目の前の男が非常にむかついた。

親父が言っていた。なっちゃいけない男bPそんな気がしたから。

「・・・そうかい。それじゃあ、将軍にそういって置いてあげよう」

シャルドゥは一瞬、驚いた表情を見せたがいつもの聖人君子顔に戻り頷いた。

それに周囲は騒然とし始める。

いきなり、国の英雄に指名されて皇国軍入隊試験に受ける男。

興味を抱かないはずも無い。

「その試験、一番になって通ってやるよ」

トールは一言、そういい残すとシャサを連れて去っていった。

辺りの人々は呆然としその様子を見守っていた。

一人、シャルドゥは微笑を浮かべながらギリッと奥歯をかみ締めた。

 

「あぁ・・・暇ですね。暇すぎます」

体調も回復してきたメルはくれていく夕日を眺めながら呟いた。

その横でビーンも同意しながら頷いた。

「ビーン先生もそう思うなら何かしてください」

そういわれビーンは立ち上がるとすぐさま椅子に座った。

そして、一瞬の間が流れる。

「・・・・ビーン先生に何かを期待したのが間違いです」

メルはそう呟くとベッドの中にその体を深くうずめた。

先ほどまで散々、眠っていたため、今は一切、眠気が無い。

眠気が無い中でのベッドの中ほど拷問な場所はないだろう。

「お姉さま、来てくれないかな・・・」

メルはぼそりとそう呟くと瞳を閉じた。

その瞳にはうっすらと輝くものが流れる。

「メル様」

突然、部屋のドアが開け放たれ一人の女性が部屋の中に入ってきた。

「侍女王様」

「その呼び方はやめてくださいませと散々、申し上げたでしょうに」

その女性は何時もレイにつき従う侍女であった。

何時もレイの後ろに付き添い、どんな事態が起ころうとも冷静に最善な手段を講じるこの女性のことを

影の支配者と呼称するものも多い。

実際はフォローに回るだけでレイが無能なわけではない。

ただ、レイの新の姿を知るものだけはこう思う。

完全にレイを支配、管理できるのはこの女性しかないと。

「それで侍女王様はメルの暇を潰しにやってきてくださったのですか?」

メルはとても嬉しそうな表情で尋ねた。

その侍女王は頭を抱えるが立ち直り口を開いた。

「実は先ほど、シャルドゥ様が起こしになられました」

「まぁ、それは本当ですか。そういえば式も近かったですものね」

メルは嬉しそうな表情を浮かべるとぽんと両手を合わせた。

メルの姉であり第一皇女レイと国の英雄シャルドゥは婚約関係にあった。

断固として父親であり皇王であるゼンは反対していたが周囲の大臣達になだめられしぶしぶと承諾した。

国の英雄と第一皇女との結婚はそれだけの利益があり、話題性も十分だった。

そのニュースは瞬く間にシャトレーゼ中に広まり近隣諸国にも通達がなされた。

式も近づいておりニュース番組もそれ一色に染まりつつある。

そのことは当然、妹であるメルも喜んでいた。

大好きな姉の幸せである。それは自分の幸せでもあった。

「ですが・・・本当に良いものなのかと・・・」

「どうしたんですか?」

「いえ・・・どうも、私はシャルドゥ様のことが好きになれません」

「どうしてです?とても良いお方ではありませんか」

「ですが・・・」

「あぁ、分かりました。侍女王さまはお姉さまが取られちゃうのが寂しいんですね」

「なっ!何を言うのですか?」

「そうですよね。侍女王様とお姉さまは小さいときからの付き合いだったとか。

今もお姉さまは二人きりで会いたいからと追い出されたのでしょう」

メルにそういわれると侍女王は何も反論できずに口をパクパクとさせていた。

図星だったらしい。

「えぇ〜こほん。ですが、あのシャルドゥという男・・・邪な気を感じます」

「それは魔術師の勘ですか?」

「いえ、女の勘です」

「女の・・・ですか」

メルはなんとなく感心した様子で呟いた。

 

「それにしても今回の旅は長かったですわね」

レイはワイングラスを傾けながらシャルドゥに尋ねた。

「えぇ、独り身最後の旅路でしたからね。少し感慨深くなってしまい長旅になってしまいました」

「そうですか。今宵もその旅路の話、聞かせてくださいませね」

「えぇ、ごゆるりと・・・ですが、仕事のほうはよろしいので?」

「シャルドゥ様は来るとなれば貴族のものは自ずから身を引いていきましたわよ。

流石は英雄。身にまとうオーラが違いますね」

「いえ、私などまだまだでございます」

「そうですか」

「それよりも妹姫のご容態は大丈夫なのですか?聞くところによれば一時は心臓が停止したとか」

「大丈夫でございます。あの子のそばにビーン先生がついていらすもの。どんな病でもたちどころに元気になれますわ」

「そうですか・・・ですが、あのビーンという男。本当に信用しても宜しいのですか?」

「どうしてです?」

「突然、この国に流れ着いた不明のもの。それを腕がいいの一言で第二皇女の主治医にするなど・・・」

「腕が良くなければ助かるものも助かりません。この国の医者はあらかた当たりましたが・・・彼しかいないのです。

メルを生きながらえさせられるのは・・・」

レイは深刻そうな面持ちで語った。

今まで幾度、メルが命を落としかけただろうか?

その度に思った。医者のあまりにも不甲斐ないさまをみて、その首をひねり潰してやろうかと。

だが、それでも医者はよくやっていたあれだけ、しょっちゅう病気になるメル。

その病種は既に数百種類にも上っていた。

それだけたくさんの病気をいつ発祥するか分からない状態で診るのはつらいものだ。

何度かあまりにも報告例の少ない病気にかかっては医者は心と体をすり減らせて言った。

だが、それでもレイの心配は尽きなかった。

いつでも有能な医者を探しては連れてきて主治医にしていた。

勝手に連れてきて勝手にやめさせてきたのだあまりにも勝手な行いだ。

そのために医療界でのシャトレーゼの評判はかなり悪い。

レイはそれでもメルの為に努力を惜しまなかった。

自分自身も暇なときさえあれば医療書を紐解きなにかの役に立とうと努力した。

一度、メルに悪戯しようとした不埒な医者の体を麻酔なしで解剖しかけたこともあった。

狂気的なまでにレイはメルを愛していた。

メルだけが唯一の生きがいであり安らぎであった。

「そう、思いつめないでください。私も力になります。どれほどのものかは分かりませんが」

シャルドゥはレイの手をとりささやきかけた。

その声は心身ともに付かれきったレイの溝の隙間を埋めようと入り込んでくる。

そして、レイはそれを受け入れていった。

自然と二人の唇が重なり合っていく・・・

 

 

「おぉ、トール聞いたぞ」

ラスクが帰ってきた途端にトールに話しかけてきた。

「何を聞いたんだ?」

「お前、皇国軍の入隊試験、受けるんだろ」

「何で知ってるの?」

「街中に広まっているぞ。謎の少年、英雄シャルドゥの指名を受けるってな」

「嘘・・・」

間違いなくここはド田舎だとトールは確信した。

「ねぇ、ラスク。皇国軍入隊試験って何するの?」

シャサは興味心身にラスクに尋ねた。

「えっ・・・うぅ〜ん・・・・・」

ラスクは頭を抱えて悩み始めた。

「えっ、ラスクも知らないの?」

「いや、あいつの場合はボケるかそれとも普通に教えるかで悩んでるんだ」

呆れた表情でトールがシャサに説明した。

「まぁ、いいや。皇国軍入隊試験は基本的に筆記試験と実技試験の二つを行うんだ。

トールは筆記はパスだから、実技だけだね」

「実技は何をするんですか?」

「各自、用意したメタルレプリカによる実戦」

ラスクがそう説明するとシャサは驚いた。

「メタルレプリカってあのメタルレプリカ!?」

「アレ以外にないっての」

「トールが乗れるのぉ?」

シャサは凄くバカにしたような表情で尋ねた。

先ほども述べたようにメタルレプリカはいきなり乗り込んだところで使える代物ではない。

まともに動かすには一年間は必要だとも言われている。

そして、まっとうな市民に乗る機会があるとも思えなかった。

「もしかして知らないで受けちゃったとか?」

シャサは凄く嬉しそうな表情でバカにしてくる。

それほどまでにトールが憎いのか?

「バカにすんな!・・乗れるよ」

トールは何処となくやる気のなさそうに答えた。

「そんなこと言って、本当は動かすぐらいしかできないんじゃない」

それでもシャサはさほど信じていないようだ。

「いやいや、メタルレプリカに乗せたらこの国でトールの右に出るものはいないと思うよ」

「嘘だよ。親友だからってかばったって直ぐにぼろ出るよ」

「だから、嘘じゃないってトールは五歳からメタルレプリカに乗ってるからな」

「えっ!?そんなに小さい頃から?」

「そうそう・・・僕の研究につき合わさせてね」

ラスクの口元がにやりと開け放たれた。

「うわぁ・・・思い出しただけでもおぞましい・・・」

トールは顔を青くしながら呟いた。

「・・・トールも大変だね。普通の血筋なのに・・」

「はっ、何か言ったか?」

「ううん。なんでもないよ」

シャサはそういうとそのまま畳部屋へとあがっていった。

「それにしてもこうやってメタルレプリカが並んでる部屋の直ぐ隣がふすま越しに畳部屋はどうだろうよ」

「いいじゃん。僕は好きだよ。縁側から見えるメタルレプリカの姿は壮観だね。

そこから飲むお茶は最高なんだよ」

「へぇへぇ、そういう奴だよ。お前はさ・・」

トールは呆れた表情で呟いた。

「にしても、嬉しいよ、僕は。トールがまた、メタルレプリカに乗ってくれるなんてさ」

本当に、心のそこから嬉しそうな表情でその少女のような少年は呟いた。

満面の笑みというのはこういうときに使うんだろう。

「・・まぁ、成り行きだしな。それにオレはメタルレプリカが嫌いなわけじゃない」

トールも畳部屋に入ろうと腕を伸ばしながら歩いていった。

「良かったよ。おかげでトール用に作ってたメタルレプリカが無駄にならずにすむ」

「・・・なにぃ!」

トールは勢いよく振り向くと大声を上げる。

そして、ラスクの元へと詰め寄っていった。

「お前・・・こんなところに弟子入りまでしといて・・何してんだ?」

「やだなぁ、自分が作ったメタルレプリカはなるべく上手な人に扱ってもらいたいじゃないか。

知り合いに最高クラスのメタルドライバーがいるのに乗ってもらわない手は無いだろ?」

「・・・無駄にならなかったって・・・お前、最初から乗せる気だったな!!」

「あたりまえじゃないか。僕は君の幼馴染のラスクだよ」

トールの脳裏に旋律が映し出される。

幼い日々、息も絶え絶えの日々、生と死を垣間見た日々。

懐かしくおぞましいそんな日々。

「うわぁ!やめてくれ、頼むから半壊しかけて爆発しかけのMRにオレを押し詰めるのだけはやめてくれ」

トールは恐慌状態に陥りながら叫び声を上げる。

もはや、トラウマと化してるみたいだ。

「懐かしいねぇ。あの時は最終的に崖から落ちたんだっけ?」

「あぁ、脱出装置のありがたみを知った瞬間だったな」

トールの脳裏には崖からパラシュートで落下しかける途中に爆発炎上するMRの姿が映し出されていた。

もし、一歩でも遅れていれば自分もあの中に・・・

「今でもよく、オレはメタルレプリカに乗れるもんだと驚いてるよ」

トールは自分の神経の図太さに感心していた。

「大丈夫大丈夫。僕が設計したんだよ。二度とあんなことは起こらないよ」

「起こってたまるか!」

「だよね。大丈夫だよ。今回のメタルレプリカはトールも凄く気に入ってくれると思うよ」

ラスクは自信満々といったご様子で腕を組んで胸を張った。

トールはその様子に興味を引かれ始める。

なんだかんだ言ってもラスクは妥協をしない男だった。

どれだけ、滅茶苦茶なことをしようが自信の無いメタルレプリカを褒めたりはしない。

その代わり褒めもしないメタルレプリカに乗せられるときは戦慄ものだが。

「どんなのなんだ?」

「えっ?それは明日のお楽しみってことで」

「明日?」

「そう、明日。自分の乗る機体にはなれないとね。実働段階までにもっていけてるからさ。

本当は今すぐにでも動くところがみたいけど・・・フフフ」

ラスクは口元をにやりと広げ不吉な笑みを浮かべる。

その笑みはまさしく悪魔の笑みと呼ぶにふさわしいものであった。

「はぁ・・・」

トールはそんなラスクに呆れながら畳部屋へと入っていった。

 

畳部屋のテレビには夕方のニュースが流れていた。

それには興味が無いのかシャサはバトォにお手玉の手ほどきをしてもらっている。

「(おじいちゃんと孫だな。まさしく)」

トールは微笑ましいその情景を見て微笑みを浮かべながら腰をつくと暇つぶしに画面を見入る。

そこにはレイ皇女とシャルドゥの結婚情報が流れていた。

 

 



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