メタルレプリカ・・・

それは人がもちたる最強の力。

それは人が焦がれる雄雄しき巨体。

鋼の四肢と鋼の心を持ち、大地を蹴り岩すらも砕く。

全長8mほどのそれは脆弱なる人はひとたび見れば眼にその勇士を焼き付ける。

それは子供たちの憧れ、それは大人たちの憧れ。

メタルレプリカと戦えるのは同じメタルレプリカだけ。

それが戦場での絶対の理であり唯一の真実となっていた。

それは兵器、それは武器。

どんなに威厳雄雄しく、尊厳高きものとしてもそれは人に操られるもの。

敵を倒し、鋼を切り裂き、血に塗れる。

戦場に木霊する断末魔を、怨念を一身に受けながらもそれでも戦うもの。

それはかつて、この大地を支配した最強種族の模造品・・・

メタルドライバー・・・

それは人のもちたる最強の力を駆るもの。

それは人としての極限の高みへと向かうもの。

数多の知識により、鋼鉄の四肢を操り鋼の心を操るもの。

戦場において決定権をもつ存在たち・・・

どんなに脆弱な肉体であろうとも最強の肉体を借りて戦えるもの。

戦場において、借り物の体において敵を砕き、血を汚し、圧倒的な死と歩むもの。

それは血に汚されず怨念にも祟られず、良心も痛まずに人が殺せるもの。

 

この世界にはそんな力が溢れていた。

どんなに名高い騎士も魔術師も、必ず専用のメタルレプリカを持っていた。

むしろ、それこそが証であり強さの証明でもあった。

人は人として強くなれない、人として戦えない。

この大地には存在しないものの複製品。

この大地はまだ、機鋼の支配から逃れられてはいなかった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機 鋼 神 王

第一章

〜戦士、立つ〜

第三話

機鋼の複製

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いまだに眠気眼のトールは大きくあくびをしながらバトォMR研究所の庭で朝日を浴びていた。

朝の柔らかくも冷たい空気は急速に彼の目覚めを促していった。

「うぅ・・・眠いよ」

その横でそんな清清しい朝を迎えているトールとは対照的にシャサは今にも眠りに落ちかけている。

研究員の誰かが買ってきたピンク色のパジャマに身を包みながらフラフラとしながら立っていた。

小さな四肢がゆらゆらと風になびかれるように揺れている。

「あっトールおはよう」

既に絶好調という感じのラスクが庭の先に止められたトラックの荷台から降りてきた。

「早いねぇ。まだ、起こしてないのに」

「いや、朝からあんだけ音を出されりゃ起きるぞ」

トールは明け方から聞こえてきた作業音に目を覚ましたのだ。

シャサも同様だが、こっちはまだ、半分寝ている。

「丁度良いから着替えてくれ」

ラスクはそういうといきなり、服を渡してきた。

「はっ、いきなりだな」

トールはそれを受け取りながら答える。

その服はドライバースーツ(メタルレプリカに乗るパイロットが着る安全性を高めた服)であった。

「これさぁ・・・ぱっつんぱっつんで嫌なんだよな」

完全に体に密着するタイプでほとんど全身タイツのようなものである。

それでも耐弾性、耐刃性、耐火性、耐寒性など様々な物理的要因に対する防御力に優れ。

更には魔法や邪術に対する防御力にも優れている。

「文句を言わない。それにちゃんとジャケットとズボンがあるんだから問題ないよ」

「いや、オレはそのアンダーウェアの着心地とかがだな」

どうも、トールは体に何かが密着するとかそういう感覚が嫌らしい。

「文句を言わない。これがあるだけでどれだけ死傷率が下がるか知ってるよね」

このドライバースーツの信頼性は相当高い。

メタルレプリカの誕生とほぼ同時に出来たとされており完成されたと言っても

可笑しくは無かった。

「分かってるよ。着ないとは言ってないだろ」

トールはしぶしぶ、それを受け取ると研究所内へと入っていった。

「シャサ」

トールは何かを思い出すと立ち止まって振り向いていまだに眠そうにしてる少女を呼んだ。

シャサはほとんど音に反応しているだけという状態で首を上げる。

「覗くなよ」

「・・!!普通、逆だよ!!」

シャサは今の言葉に過敏に反応すると完全に目を覚ましたようだ。

ほほを膨らませて怒っている。

トールはそんなシャサの顔を見て笑いながら中に入っていった。

「シャサちゃんは本当にトールに気に入られてるね」

「いじめて楽しんでるだけだよ。ひどいよ、本当」

シャサは大きく息を吐いて呟いた。

「本当に嫌がることはしてないよね」

「・・うん。トールと一緒にいると楽しいよ」

シャサは本当に嬉しそうな表情を浮かべて肯定した。

完全にトールになついているようだ。

優しいお兄ちゃんとでも思っているのだろう。

「僕もトールも年下の女の子と遊んだことが無いんだよね。村には僕たちより年下はいなかったしね。

トールも妹が出来たみたいでうれしいんだよ」

「それじゃあ、トールとラスクはお兄ちゃんだね。あっ、でもラスクはお姉ちゃんのほうがしっくりくるよ」

シャサは悪意の無い笑みを浮かべながら言った。

「ははは・・・出来れば僕を女の子扱いするのはやめてくれないかな・・・トラウマなんだ」

ラスクは普段の元気な姿が想像できないほどに落ち込んでいる。

過去に何があったのかは分からない・・・ただ、美しき思い出ではないことは確かだ。

「えうぅ・・・・分かったよ」

その物凄く暗い顔にシャサは恐怖すら覚えていた。

暗い過去は人をここまで恐ろしく出来るのか・・・

「おう、着替え終わったぞ・・・って、何やってんだ?」

ドライバースーツに着替えてきたトールはどんよりとした空気を身にまとったラスクと

それを郵便受けの裏側に隠れながら見ているシャサをみて困惑した。

「別になんでもないよ」

二人は同時にトールに笑顔を向けて答えた。

なんだかトールは良く分からなかったが納得することにした。

「まぁ、それじゃあ、早速、出発だぁ」

ラスクはテンションを切り替えるとトラックへと走っていた。

MR運搬用トラック。

一機分のメタルレプリカを輸送するのに使われるものだ。

あくまで運搬用のため、整備や修理を行うことは出来ない。

「朝から元気だなぁ」

トールはさほどやる気が出ていなかった。

朝だからということもあるがあまり、乗り気ではないようだった。

そんなトールの顔をシャサは見上げている。

それに気づいたトールはシャサの頭を軽くなでると歩き始めた。

「さっさと部屋に戻ってろ」

「えっ!私もついていくよ」

「ついていくって・・・お前、パジャマのまんまじゃん」

トールはピンク色の生地にクマさんのプリントが施されたそれを指差した。

「しまったよぉ!」

シャサは自分の姿を再認識して驚きの声を上げている。

ぜんぜん、気づいてなかったみたいだ。

「その姿で付いていく気か?」

「えうぅ、着替えてくるからちょっと待っててよ」

シャサはそういうとドタドタと走りながら部屋へと向かっていく。

やれやれと言ったご様子でトールはトラックの運転席へと歩いていった。

「おい、シャサが付いてきたがってるから、着替え・・・おわるまで・・・・・・・・・・待っていて頂けませんか?」

運転席のドアを開けた瞬間、そこは異様なオーラに包まれていた。

それは人が人たる象徴。

何かを求めるものだけがもつ想い。

欲・・・欲望、欲求と称されるそれは時に人を人ならざるものへと変化させる。

何が彼をそうさせるのか・・・そうさせているのか・・・

トールは気づいていた。

だが、忘れていた・・・

二年ぶりの再会が、彼の和やかな笑みがそれを忘れさせていた。

自分はとんでもないものに触れてしまったんだろう。

恐怖という名の見えない悪魔がトールの体を羽交い絞めにしていく。

それは圧倒的な力、それは絶望の象徴・・・

ドアの向こう・・そこには・・・

凄まじい形相と共に奥歯をギリギリと噛み締め、ハンドルを壊れんばかりに叩き、世界を揺るがさんばかりの

貧乏ゆすりをするかつての親友の姿だった。

「僕がどれだけ、メタルレプリカを愛してるか知ってるよね!?」

「はい、知ってます」

「僕がどれだけ、自分の愛機が動くところが見るのが好きなのか知ってるよね!?」

「はい、知ってます」

「僕がどれだけ、時間通りに進まないことが嫌いか知ってるよね!?」

「はい、知ってます」

「僕がどれだけ、この日を待ちわびていたか分かってるの!」

「すいません、忘れてました」

その目は狩人だ。獲物を追い詰める絶対的な支配者の目だ。

トールはそう思った。いや、思い出した。

彼がどれだけ自分の欲求に忠実なのかを・・・

このメカフェチという名の病気に犯されている親友の発作がどれほど恐ろしいものかを。

「と、とにかく落ち着け。話し合おう。話せば分か・・・!」

トールの口を華奢な腕から伸びる手が掴む。

その細い指は何処からそれほどまでの力を発しているのか分からないほどにトールの口を圧迫した。

「話す時間がもったいない」

ラスクは何時ものを笑顔は地獄のそこに捨ててきたと言わんばかりの怒顔で言い放った。

それは抗えない力・・・今のこいつは神にも勝てる・・・トールはそう思うことしか出来なかった。

「おまたせぇ」

そこに何も知らない小さく無邪気な少女が駆け寄ってきた。

この世の怒り悲しみ欲望、負の世界とは無縁そうなオーラをかもし出しながらその幼女はトールの足元へとやってきた。

そこで疑問に思う、なぜ、彼の足は浮いているのだろうと

「トー・・・」

シャサが驚いて上を見上げた瞬間、トールは大地へと戻ってきた。

このまま、本当に空の上へと上りかねない気分にかられながら急激にトールは意識を戻す。

今、自分が最優先すべきことはなんだ?

トールの脳は今、完全に作動した。

そして、何千分の一秒という速度で答えがはじき出される。

「のれぇ!シャサぁ!」

トールはシャサの腕を掴むと跳躍した。

そして、ラスクの頭上を飛び越え、天井スレスレを通り助手席へと飛び乗った。

後からついでに飛んできたシャサをキャッチして自分の膝元へと座らせる。

ドアはトールが跳躍中に既に閉じられていた。

そして、エンジンは今にも火を上げんぐらいにたぎり燃えている。

「GO!!」

ラスクの怒号と共にアクセルが解き放たれた。

エンジンがフル稼働しシャフトが回転しタイヤがそのエネルギーを大地へと伝える。

十何tもするメタルレプリカを載せたそのトラックは凶悪なまでの物理エネルギーを秘め、

そして、今、爆発的な加速エネルギーがプラスされた。

それは動く弾丸と化し、レンガ造りの道路を爆走し建物を尻目に突っ走る。

「トール、トール!建物あっという間に流れてくよぉ!」

「しゃべるな。舌をかむぞ」

トールはシャサの口を押さえながら呟いた。

二人の顔は恐怖で青ざめている。

一体、何回壁にぶつかりそうになった?車にぶつかりそうになった?人を轢きそうになった?

かわせてはいるがどれもスレスレ、コンマ数ミリでもずれたら大惨事をもたらしかねないものばかりだ。

トールは必死に天に祈りながら前を見据えている。

シャサはあまりの恐怖に目をつぶりがしりとトールの腕にしがみついていた。

一方、ラスクは狂気の笑みを浮かべながら夢見心地という表情で前を向いている。

「ははは、遂に僕のバーンが動くんだ。ふはははははははぁ!!」

ラスクの高笑いがいつまでもトールの耳からは離れなかった。

 

 

このホライゾンにはモンスターと呼ばれる種族がいる。

人ほどの知能を持たないもので平均体長が5m以上のもの。

そして、人を捕食し、なおかつ獰猛なものがこのカテゴリーに入れられる。

人は気づいたころからこの種族と生存競争を繰り広げていた。

それは人の天敵であり、人の繁栄を脅かすものである。

だが、人には力があった。

この大地でもっとも強いものより授かりし力は今も人を護り続けている。

だが、それでも人はモンスターによる恐怖を克服したわけではない。

大陸全土、世界全体を見れば一日に一人は確実にモンスターに殺されている。

不用意に街の外より出ればそこはモンスターの支配する世界・・・

更にはモンスターと呼称される生物以外にも獰猛な動物は多い。

人など・・・文化というぬるま湯に浸かり続ける動物など灼熱のような世界を生きる野性に触れれば

それは火傷ではすまないということだ。

故に人は街を離れない。街間を移動する場合はバスなどに乗る。

人は鋼の力に護られた内側でしか暮らすことの出来ない脆弱な存在でしかないのだから。

 

このサラマンダー台地はそんなモンスターが頻繁に出没する地域だ。

もちろん、出現するモンスターはサラマンダーである。

サラマンダーは巨大なトカゲの姿をしたモンスターであり体内に灼熱の炉を持っている。

そこから生成され口から噴出される炎は一瞬にして人を消し炭にする威力をもっている。

その牙も爪も人を一撃で切り裂くだけの力を有し、走行速度にいたってはどんなに優れたアスリートだろうが

絶対に逃げ切ることは不可能だ。

そこが群雄闊歩する台地に一つのトラックがそのタイヤを止める。

ブレーキ音がかき鳴らし、そこから一人の少年が降りてきた。

「おぉし、やるぞぉ!」

ラスクは両腕を上げて元気よく天を仰いだ。

ラスクのやる気は空へと注がれそれでもなお燃え続けている。

そんなラスクとは対照的に完全にやつれきったご様子でトールとシャサが降りてきた。

二人は大地を仰ぎ、自分たちが再びそこに立てたことに喜びを抱いている。

「トール!何時までもそんな調子だとアレ・・やるよ」

ラスクはまるで暗闇に光る狼のように目をぎらぎらと輝かせ、大地を闘気だけで震わせながら呟いた。

それを聴いた瞬間、トールの曲がっていた腰は真っ直ぐに伸びた。

冷や汗がだらだらと流れ出し大地を濡らさんばかりだ。

シャサもその闘気に当てられトールの後ろでガタガタと震えている。

「分かりました。ラスク殿」

トールは敬礼すると胸をはりそう答えた。

暴走モードと化したラスクにはトールなど勝ち目があるわけが無い。

「それではトールには早速、これに乗ってもらおう」

ラスクがそういうとトラックの二台が開き中から一体の鋼の巨人が姿を現した。

青い空より降り注がれる陽光に照らし出されるそれは青い鋼。

獰猛なる竜のようなフェイス、風を切るように流すように打ち出された流線型のボディ。

通常のMRよりも軽量かつ洗練されたそのボディは機動性重視したものだと一目で分かるものであった。

だが、それにしてはバーニアなどの加速器があまり見当たらない。

「これが・・・」

トールはその姿を見た瞬間から硬直していた。

人は何かしらに出会うと胸の奥底から衝動に駆られ、頭が呆然とする。

そして、脳がそれを認識すると同時に魂が燃えるものを感じる。

それは出会い、真の出会い。出会うべくして出会ったもの・・・運命なのだろう。

「これが僕の自信作にしてトールの愛機・・・バーンだ」

「バーン・・」

その言葉を反芻するだけで心の何かが弾けてしまいそうになる。

「青い色・・・まるでトールみたいだね」

シャサはその機体とそのドライバーを見比べて呟いた。

この二つは本当に似てると感じた。

ラスクが何を考えて作ったのかが一目瞭然である。

「さぁ、トール。これに乗るのだぁ!」

ラスクは指をビッと指して叫んだ。

「おっしゃ、任せろ」

トールは先ほどまでのやる気の無さが嘘のように瞳を燃え上がらせ走っていった。

「はは・・ようやく、何時ものトールに戻ったね」

「そういえば、トール元気なかったけど、何でだよ?」

シャサもトールが乗り気でなかったのは分かっていた。

それが今ではまるで子供のようにはしゃいでいる。

「さぁね、他人の考えなんて分からないよ。でも、トールだったらこのバーンを見たらやる気出してくれるんだろうなって

思ってたんだ。だって、トールは本当にメタルレプリカのことが好きだから」

分からないなんて言って置きながら全部、お見通しみたいな微笑でラスクは説明した。

本当は何で乗り気でなかったのかも分かっているのだろう。

やる気が無いのに場当たり的な発言をしてことが進んでもやっぱりやる気になれず。

でも、やらなきゃならないために元気が無かったのだろう。

だが、今のトールは違う。

水を得た魚、剣を持った騎士のごとくトールにはMRが必要だったのだろう。

生粋のドライバーではないとラスクも思う。

素質で言えば並み程度しかなかった。

だが、彼は毎日のように死に物狂いで練習をしていた。

それは親友に頼まれてではなく自分の意思で行っていたことだった。

きっかけはどうあれ、トールにとってそれは生きがいになってもいた。

だが、平穏たる生活を望み皇国軍に入隊することを断念しなるがままに生きていたトール。

それも今日限りだろう。目標は見つかった・・・

いや、見つけていたのをちゃんと認識したのだ。

何をなすべきかと思った人間ほど強いものはいない。

 

「起動キー!」

トールはシートに座るとベルトを締め起動キーを差込、回転させた。

その瞬間にトールの体内に宿る魔力が光となりてバーンの中に注ぎ込まれていく。

「魔力認識・・・搭乗者トールと確認・・・システム起動」

機会音声と共にハッチが閉まり内部の機器に光がともっていく。

メタルレプリカは他人に操縦させないために魔力照合が行われている者がキーを差し込まないと使えないようになっている。

セーフティの意味合いと搭乗者の魔力レベルを図る意味合いでもあった。

ちなみにトールの魔力はジャスト平均点で一般市民レベルといわれる領域にある。

従来、魔力が高ければ高いほどにメタルレプリカの魔力機関の稼働率が変わり性能に変化が現れる。

通常なら劇的な変化は現れないものだ。

「鋼力エンジン始動確認、補助ジェネレーター、各部モーター順調稼動。

対魔術術式展開、精霊圧正常・・・」

順調にバーンのシステムは立ち上がっていく。

鋼力エンジンとはメタルレプリカの心臓にあたり魔鋼と呼ばれる特殊な鉱石を炉で高熱に熱し

そこから吐き出されるエネルギーを体全体に送る役目を果たしていた。

そして、そこから出されるエネルギーは鋼力と呼ばれ人間の持つ魔力に極めて近い性質を持ちつつも

それを遥かに凌駕する力を持っている。

それは起動時からほとばしっている余剰エネルギーだけで人の使う魔法を完全に相殺し受けきるほどであった。

鋼力は各部に循環し、その循環圧により鋼鉄の四肢を突き動かしていく。

補助ジェネレーターは緊急時のバッテリーでモーターは各部間接のアクチュエーターの事を指す。

対魔術術式はメタルレプリカを媒介に使われる邪術に対してドライバーの身を護るセイフティであり、

同時に爆発や衝撃、Gからパイロットを護る効果まで持っている。

精霊圧は外気から精霊を取り込みドライバーとMRの魔力を持って魔法を行使するための力。

魔法の使えないトールには意味の無いものだが癖で確認してしまっている。

「カメラアイ起動」

トールの叫び声と同時にバーンの二つの眼に光がともった。

同時にコックピット内のディスプレイにバーンの見る世界が映し出された。

ディスプレイが青一面に染まっていく。

その瞬間、トールとバーンは完全に一つなっていたのだろう。

感覚は別物、トールはレバーとフットペダル、各種タッチパネルで動かすのだが

それでも視線が同一となれば変わってくる。

それにこの中には自分の命の輝きが宿っているのだ。

一心同体・・・その精神はメタルレプリカに新たなる輝きを持たせる。

「立ち上がれ・・そして、見せてくれ。お前の可能性、オレの可能性を」

トールがレバーを前にいれフットペダルを押すとバーンは上半身を起こし足をトラックの荷台からはずし

大地へと降り立った。

そして、重心を移動させもう一つの足を大地へと下ろす。

二つの鋼鉄の脚は大地に根付きこの世の支えに降り立った。

そして、腰が浮き上がりその巨大なる威容は青空の下、堂々と立ち上がる。

全てを包み込むような青。トールと同じ色をしたメタルレプリカ。

バーン・・・燃えると名づけられたそれはトールの心を確実に燃え上がらせていた。

 

「・・・・やった・・立った・・・バーンがたったぞぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

ラスクは感無量という様子で涙をドバドバと流しながら万歳と両手を挙げている。

「やったぁ!」

シャサもつられてその両手を上空へと掲げる。

そして、見上げた。

小さなその体がもっと小さくなるように感じた。

それはそれほどまでに大きく高く勇ましかった。

たかだか、鋼の塊なのに命を持つかのような鼓動を感じる。

それを心無い学者はMRの放つ鋼力を受けてそう感じるだけだと言うだろう。

だが、それこそが生きている証ではないのか?

そして、それが生きている証でなければ人が生きている証を証明できるのか?

そんな疑問すら今の彼らには愚問でしかないだろう。

「バーンは今、誕生した。トールという最後の体の一部を取り込んでここに完成したんだ。

新たなる命の誕生。僕はこれに勝る瞬間を知らないよ」

完全に人とMRを同義にとっているラスクにとってはこの状態は新生児が誕生したのも同等だった。

そこには神秘が満ちていた。そこには暖かさが満ちていた。

「で、どうすんだ?」

外部スピーカーからトールの声が聞こえてくる。

たったはいいが何をすればいいのか分からないのだろう。

基本としてはここである程度の基本動作を行いバグがないかを点検するのがベストだ。

それに各部はメッセージ上は正常に作動しているがどこかに致命的なバグがあるかもしれない。

特に対魔術術式は下手すると反発作用でコックピットを吹き飛ばしかねない危険なものだ。

防御力があるということはその分、攻撃力があるということでもある。

高エネルギーが満ちているのなら人の身にはどちらも危険なものでしかなかった。

だが、あのラスクはそんなまどろっこしい事はしない。

「じゃあ、ちょっと待ってて」

ラスクはそういうとこぶし大のカプセルと取り出すと先端を押して思い切り遠くへと投げた。

それはピンク色の煙を吐き出しながら弧を描いて落下していく。

そして、それは落地と同時に勢いよく煙を噴出させた。

そう、基本の動作テストぐらいなら庭でも出来る。

では、なぜあえてこんな危険な場所まで赴いたのか・・・

それは当然・・・

「!!なんか・・・大きなトカゲが・・・」

シャサは目を見開き口をぱくぱくとさせながらピンク色の煙に群がっていく巨大な怪物を指差した。

そう、それこそがここに根付いているといわれるサラマンダーだ。

その力は上記に記したとおり、人に勝ち目など無い。

人ならば・・・

「というわけで任せたぞ」

ラスクはそういうと固まっているシャサを抱えてさっさとトラックの中へと引っ込んでいった。

残ったのはバーンとトールのみ・・

「はいはい、どうせお前はそういう奴だよ。全く無茶ばかり・・・まぁ、今回はさほど無茶じゃないかな」

トールは次々と群がっていくサラマンダーの群れを見下ろしながら呟いた。

いくら、巨体といえども全高においてはバーンのほうが高い。

四足歩行で地べたを這いずり回っているトカゲどもとはその威容は遥かに違った。

流石に実寸大の人とトカゲの大きさとはいかないが。

サラマンダーは煙がやむと正気に戻ったように辺りを見回した。

そして、ひときわ大きく異形なものを見つける。

そのサラマンダーの数は11・・・単純計算なら11倍の戦力を相手にしないと行けないわけだが

トールは完全に落ち着いていた。

トールには分かっていた。この機体から流れるこれの力はあの程度のトカゲに遅れをとるものではないと。

「さぁて・・・先に仕掛けるぜ。怨むならラスクを怨めよ!」

トールはそう叫ぶとサブウィンドウに表示された武器一覧を閲覧した。

「固定型機関銃にチェーンダガー・・・武装は少ないけど・・・いくぜ。チェーンダガー」

トールがウィンドウに触れるとバーンは腰に装着された小ぶりな刃を取り出した。

その刃は人の目には見えないほど細かい凹凸が存在する。

そして、それはMR本体からの鋼力を受け高速回転を開始した。

くぐもった高い音が静寂の大地に響き渡る。

それに警戒したサラマンダーが数匹一斉に口から炎を吐き出した。

空気と大地を焦がし弾丸とかした炎は真っ直ぐにバーンへと向かってくる。

だが、既にその場にバーンの姿は無かった。

炎が吐き出された瞬間、バーンは残像が残りかけるほどの速さで前に飛び出していた。

大地が砂埃を上げ、軋みを上げる。

鋼鉄の咆哮が空を木霊した。

バーンは軽々と炎を飛び越えると次の瞬間にはサラマンダーの群れの目の前まで迫っていた。

「!!」

トールの反応が一瞬遅れた。

ただ、それだけのことだった。

それだけでバーンはサラマンダーを一匹を道連れにそのまますっ転んでいった。

その後を猛烈な風が通り抜けサラマンダーたちは大地に爪を立たせて必死に耐えている。

「たぁっ!何つう加速力だ・・・あの距離を一瞬だと・・その割にはGがほとんどないなんて・・・

何つうもん、作ってんだよあいつは・・・」

順調に対魔術術式の展開しているコックピット内はさほどの衝撃を受けずにいた。

だから、トールも意識を保てているのであって先ほどの加速力でぶつかったのなら

とてつもないGと衝撃により常人なら一瞬にしてブラックアウトしているところだろう。

「折角、チェーンダガー構えてもあたらないし・・・」

あまりにも唐突の為にトールは完全にチェーンダガーを振るうのを忘れていた。

それでは意味が無い。

だが、バーンの目の前には腸をぶちまけ大地を真っ赤に濡らしながら白目をむいてぴくぴくとしている

半生命体が目に映った。

もろにバーンと衝突したせいでかなりのダメージを食らっているようだ。

いくら人が傷一つつけられないものでもメタルレプリカにとってそれは紙にも等しい。

真正面から衝突すればそれはトラックに轢かれる人よりもグロいことになるだろう。

強さからして次元が違うのだ。モンスターとMRでは。

「思わず一体・・・さぁて、次はどいつだよ!」

トールはすぐさまフットペダルを踏むとバーンは前に跳躍し身を翻し後ろを向いた。

そこには牙をむき出しに怒りを見せるサラマンダーの姿が見えた。

仲間の死を怒っているのか・・・それとも、殺らなければ殺られると本能が訴えているのか・・・

おそらくは後者だろう。

恐怖にあおられ死に物狂いで残った十匹が襲い掛かってくる。

「無駄な殺生だよな・・・だけど、だからって命を投げ出すほどにオレは聖人じゃないんでな」

トールはそういいながら固定式機関銃を選択しトリガーを引いた。

バーンの腰部に取り付けられた二門の機関銃が火を噴いた。

嵐のように弾丸が吐き出されサラマンダーの皮膚を突き破り、肉を抉り取り、骨を砕いていく。

秒間数百発と弾を吐き出すそれはMR戦ではけん制にしかならない武器だが対モンスター戦では

それだけで必殺の威力を誇る。

ただ、トールにとってはトリガーを引くだけの行為でサラマンダー二匹は赤い塊に変貌した。

だが、その二匹を盾にした残りが火を吹き、牙をむき出しにし襲い掛かる。

「バーンの力がどれほどのものか・・ためさせてもらうぜ」

バーンは腕を内側に横へと伸ばすと前へと振りぬき炎をその勢いで吹き飛ばした。

人を消し炭にする程度の威力ではMRにとって脅威にもならない。

「唸れ!チェーンダガー!」

そして、返す刃でチェーンダガーを振りぬき、同時に前方へと突進する。

高速回転する微小なる鋸状の刃はMRの装甲すらも切り裂く威力を持っている。

サラマンダーの肉体などまるで何も無いも同然だった。

勢いの余波で刃渡りよりも長いサラマンダーの胴体を両断しバーンは一気に向かい側へと駆け抜ける。

そして、ある程度、距離をとって向き直った。

残ったサラマンダーは七匹・・だが、バーンはその全力をほとんど見せてはいなかった。

 

「おぉ、流石だバーン。机上の性能をきちんと発揮している」

ラスクは嬉々とした表情でモニターにかぶりついている。

バーンのステータスとリンクしたそのコンピューター画面にはバーンに損傷はなかった。

「強い・・・凄い、ラスクもトールも凄いよ」

シャサは完全にバーンの戦いぶりに見入っていた。

それを操るトールも、それを作ったラスクも信じられないくらい凄い。

何時もの状態があんなだから余計に感心してしまった。

「違う、あれはバーンが凄いんだ。本来ならあんなの瞬殺できるんだけど・・・それじゃあ、

面白くないね。それじゃあ、とっておきいってみようか?」

ラスクがシャサに尋ねるとシャサはキラキラと輝く表情を浮かべた。

「まだ、凄いのがあるの!?」

「もちろんだとも・・・偶々、手に入ってバトォ先生にもらったんだけどね。

魔術回路と機体重量に余裕があるバーンだから使いこなせるんだけど・・」

「どうでもいいから早く見ようよ」

バーンの戦闘にエキサイティングしているシャサはそのようなうんちくはどうでも良かった。

やはり、実物を見なければ始まらない。

「それもそうだ。トール」

ラスクはマイクを使ってトールに話しかけた。

 

「何だ?どうせならいっそのこと切り刻んで刺身してもいいぞ」

相当、細かい動作が必要になるだろうがトールにとってはさほど苦でもなかった。

どれだけ、MRに乗っただろうか?

もはや、目をつぶってでも動かせるのではないかというほどに体に染み付いている。

ある程度、動作がパターン化されているMRと言えどもそれを扱うにはかなりの技量を必要とする。

さらに高度な動きをさせようとすれば各部の出力から装甲にかかる圧力まで全てを計算していかなければならない。

下手に動かせば降りかかる圧力にMR自体が自壊し欠けないのだ。

トールはそれを感覚だけで動かすことが出来る。

それはあくなき努力の賜物、努力を努力で終わらせず、石を磨きあげ玉としたもの。

それは天才や神童よりも気高くすばらしく貴重な存在なのかもしれない。

だが、戦闘に関しては幾分、実践を行ったことがないので素人なのが問題なのだが。

「いや、無駄に技を披露しなくてもいいから・・・それよりも秘密兵器があるんだ」

「秘密兵器・・・!!」

その言葉にトールの顔が変わる。

秘密兵器・・それは心をくすぐる言葉・・

秘密なものほど人は使いたくなるものだ。

そして、それが兵器であれば人は使わざるを得ないだろう。

「よっしゃ!乗った」

トールのテンションは最高潮に達した。

バーンの驚異的なスペックにまだみぬ、ポテンシャル。

更には秘密兵器、これで燃えねば漢じゃない。

トールはトラックの荷台に乗っている巨大な砲身に手をかけた。

バーンの全長ほどもある大型の大砲。

それがバーンの秘密兵器であり最終兵器である。

「大砲・・・?オレはどっちかというと剣とかのほうがいいな」

そうは言いつつも内心ではきちんと喜んでいる。

「大砲じゃないよ。それは電磁砲・・・リニアキャノンだ」

「リニアキャノン・・・?」

トールは聞きなれない単語に困惑の表情を浮かべた。

そうは言われても妙に根元の部分が機械的な以外は普通に大砲に見える。

「大砲が火薬で弾丸を飛ばすのに対して、リニアキャノンはバレル内に発生させる電磁レールで

弾丸を加速させて打ち出す兵器だ。実弾兵器としては最強クラスの威力を保障するよ」

ラスクの言葉をトールは良く理解できなかったが一つだけ分かった。

「大砲よりも凶悪なんだろ・・・いいねぇ。絶対火力・・バーンのコンセプトとは合わない気がするが」

バーンはその巨大な砲身をサラマンダーに向けた。

サラマンダーは警戒し身動きが取れない様子だ。

それに先ほど別れ際に放った疾風でダメージを受けているのも関係してるらしい。

狙いを定めるには丁度良かった。

トールは射撃の経験がほとんどない。

とまっている的を使って練習したことはあるが動いてる的に当てたことは無い。

「いくぜ・・・」

トールはリニアキャノンを構える。

腕から伝わる鋼力が銃身へと伝わっていく。

リニアキャノンのジェネレーターから大量に電圧が発生する。

それは電流となりてコイルへと流れていった。

電磁力が発生し内部の弾丸が浮かび上がる。

凶悪なまでの威力が弾丸に内包されていった。

周囲の大気が震えていく、自然の摂理に反した磁界が辺りを包み込みまるで異世界を作り出していった。

「せめて、苦しまずにいってくれ・・・つらぬけぇ!ドラゴンキラー!!」

トールの叫び声と共にトリガーが引かれた。

ドラゴンキラーと名づけられたリニアキャノン。

竜の皮膚すらも突き破り一撃の下に葬り去れる威力から名づけられたそれは竜の出来損ないともいえる

サラマンダーなど完全に射抜くことが出来るだろう。

電磁力の反発を受けて爆発的に加速していく弾丸。

それは物質の耐久限界を超え赤熱化していった。

そして、外界にはじき出された瞬間、それは溶解し光となる。

物質としての楔を引き違ったそれは光の矢となりて周囲の空間をゆがませるほどの熱を帯びながら

飛んでいく。

それは光速、それは高熱。

それは目標に瞬時に着弾しその存在を根こそぎ消し去っていった。

そのエネルギーは大地すらも受け止めきれずに衝突エネルギーは巨大な爆発を引き起こす。

大地を砕き、光を放ち、音を破裂させ、サラマンダーたちを消し去っていった。

その余波はバーンの四肢すらも震わせ硬直させた。

実際にはトールを硬直させたのだがその意義は同じだった。

 

 

帰りのトラックの中

寝息を立てているシャサを抱えながらトールは先ほどのことを思い出していた。

ドラゴンキラーの威力・・・あれは完全にトールの予想以上だった。

世界中を探せばあれ以上の威力はあるのだろう・・・

だが、あれは今の時代に持つ必要性がないものだった。

この小さな平和な国ではバーンですら異端の力となるだろう。

それに加えドラゴンキラーはMRですらも問答無用で叩き潰す威力があった。

「はぁ・・・」

「トール」

ラスクが行きとは違い落ち着いた様子で運転している彼がトールに話しかけた。

「なんだ・・」

ぼんやりとした様子でトールはシャサの頭をなで続けている。

ほとんど、飼い猫状態だ。

縁側でネコをなでてるおばあさんみたいな状況になっている。

「シャサがかわいくてしょうがなくて欲情してるけど世間にロリコンだとかペドだとか罵られる未来を考えると

手が出せなくて。でも、こんなに触れ合っていると自分で自分が保てなくなる・・・

なんて、顔するなよ。お前はお前らしく生きてくれよ。僕は何時までも君の敵だから」

生暖かい微笑をトールに向けている。

「あぁ、この包み込めてしまうほどの小さな体というかつるつるのボディとか無邪気な仕草だとか

直ぐに感情を表に出して殴ってくるところとかがたまらなんだ」

「そうか・・・昔から危険な奴だと思ってたけど・・・本当に危ない奴だったんだな。

友として一言だけ言わせてもらうよ・・・テレビのインタビューがきたら。

いやぁ、いつか絶対やると思ってましたよ。捕まってせいせいしましたね・・・

って言っておくよ」

ラスクは満面の笑みを浮かべている。

「うぅ・・・せめて、一通り楽しんで・・・って、違う。俺は真面目な話がしたい」

トールは真剣な表情でラスクのほうを向いた。

ラスクの表情も自然と真剣みを帯びてくる。

そこまで言われてギャグを始めるほどひどい奴ではない。

「ドラゴンキラー・・・やりすぎなんじゃないのか?」

「そうだね・・・僕もそう思うよ」

「だったら、なんでつけたんだ。バーンならあんなの無くても・・・むしろ、ないほうが」

「備えあれば憂い無し。世界は広いからバーンの攻撃力が通用しない敵とかが出てくると思うんだ。

その時、あれは有効な手段になると思うから・・」

「備えあればって・・・オレはそんな化け物と戦う気は無いぞ」

「そう思うよ。でも、長い人生に一度でもそういうのに出会ってその為に死なれたらやるせないから。

一番大切な親友を僕の先読みの甘さで殺されたくは無いから」

それは真剣な言葉だった。

メタルドライバーはメタルレプリカに全ての命を託す。

それはそれを作った研究者に全ての命を託すも同意義だ。

だったら、ラスクは妥協などしたくなかった。

詰め込めるものは積み込みたかった。

限りなく100%に生存率を高めたかった。

それはMRを作るもの全ての願いであり想いでもある。

「それにトールならドラゴンキラーだって使いこなせるよ」

「そうかな・・・オレはそんなに優しくもなければ強くも無いぜ」

トールはそう呟くとシャサの頭をなでていた手をはずし自分の頭に回す。

それを枕代わりに目を閉じた。

「トールなら大丈夫だよ。この僕が言うんだからね」

ラスクは自分が今まで付き合ってきた親友が信じられないほどにすれてはいない。

トールは普通の人よりも熱心で優しいことは知っている。

だから、見ず知らずの女の子を助けるし面倒だと思いつつも面倒を見ている。

そして、証拠に好かれてさえいる。

「トール・・僕は君がこんなところで終わるようには思えないんだよ」

それは親友からみたひいきなのかもしれない。

世間を知らない少年のたわごとなのかもしれない。

夢想・・・だが、ラスクにとってその直感は何より信じられるものだった。

研究者らしく長年の研究の成果に裏打ちされたものだから・・・

 

 

トールはバトォと一緒にテレビを見て茶をすすっていた。

夕食も済ませて研究者たちは各々の作業へと移っていた。

どうやら、ここの研究者たちは皇国軍入隊試験を受ける人たちにMRを提供するらしく

ラスクと一緒に最後の調整などを行っているのだろう。

皆、地下の工房に降りたまま戻ってこない。

時々、シャサにお菓子を上げているのを見かけるが。

「シャサ・・・このままほうっておくと太るな」

トールは夕食後だというのに寝ながらチョコレートを食べているシャサをみて呟いた。

「えうぅ!私は太らない体質だよ」

シャサはそういう割には食べかけていたチョコレートを口から話して悩んでいる。

「それよりもバトォ先生。ラスクってどうですか?」

トールは不意にバトォに話しをふった。

「ほぉ、気になるかの」

「そりゃ、あのラスクの動向を客観的に聞いて見たいと思うのは人の常ですよ」

「そうじゃのう・・・あやつは天才じゃな」

「はぁ・・・そんなことは知ってるんですが。どうしてたのか聞きたいんで」

「まぁ、良く聞け、少しはわしの弟子自慢に付き合わんかい。

ラスクは・・あやつは間違いなく天才じゃ、あの年であそこまでMRのことを理解しているものはそうはおらん。

間違いなくわしは始めて見たわい。独自の理論に基づきMRを構成する物理力学、魔術力学の把握はほぼ完璧。

解析の難しい鋼力エンジンをあそこまで理解しているのも驚かされたがの。

わしのところへ来ずともに十二分にプロとして王宮づとめも出来たじゃろう。

そこでやめないのがあ奴のいいところだ。常に上を目指し精進し続けている。

今回、あやつが作ったバーン・・・あれは流石と言ったところじゃな、弟子を差別したくないので

順位付けはせんが・・・とにかく、文句なしに合格を出せるレベルではある」

バトォは饒舌にラスクのことを褒めちぎっている。

「天才・・ね。確かに天才だよな。あの年であれだけMRのことが分かったんだから・・・

でも、天才って言葉で片付けないでくださいね。あいつは13年間ずっとMRのことだけを見て頑張ってきたんだ。

その努力は天から与えられたもので済まされるものじゃない」

それはトールも同じだった。

ずっと、一緒にがんばってきたのだ。

それは全ては定められていたからとか神から与えられたで済まされてはたまらない。

MRの事に関して一度も楽をしたことはなかった。

常に精進した。騎士が剣を磨くように魔術師が魔法を磨くように。

「わかっておるわ。このバトォ、どれだけ生き足掻いておると思っておる。

人がどれほどのものであるかなど一目見れば分かる。どれだけの苦労を重ねたのかなどな。

じゃが、ラスクは天才といっても差し支えの無いほどの力を持っておる。

世界にどれだけの天才がいるかは知らぬがあやつはその中には間違いなく入る。

むしろ、何もしない天才など凌駕するほどの実力を持っておるわ。

まぁ、それはお主が一番、よく分かっているじゃろうな。

世界レベルのメタルドライバー殿」

「あいつ・・・そんなこと、言ってやがったのか」

世界レベルのメタルドライバー・・世界を見たこともないのにどんな自信だよ。

トールはそう思いながらも悪くは思わなかった。

褒められる気分は良い。自分がどれくらいかは知らないがそれなりには凄いはずだという自負もある。

「そうだよね。トールもラスクもとっても凄いよ」

シャサはトールの背中に飛びついた。

「何だよ。ほめても何もやらないぞ」

「ううん、むしろ、私が上げる〜」

シャサはそういうとチョコレートをトールの口の中に放り込んだ。

「む・・・・気になるんだが・・お前の食べかけじゃなかったか?」

「気にしないよ。気にしないぃ〜」

シャサはそういうとたったったと走って離れていった。

「ったく、結局、太りたくは無いということか・・・お前は痩せすぎだと思うがな」

トールは以前、風呂場で見たシャサの裸体を思い起こした。

まるで折れそうな手足、無駄な肉は一切ありませんといっているみたいだった。

そのわりにはふんわりと柔らかく・・・

「骨が極少!?」

トールはなんとなく不吉な想像を思い浮かべた。

「いや、むしろ・・・骨が無い」

トールはさらに不吉な想像を張り巡らせて行く。

それでは化け物だ。

そんなトールの姿を見てシャサは不思議そうな表情を浮かべている。

「トールとラスクは本当に凄いよ・・・何の力も無いのに・・・それに比べて私は・・・卑怯だよ」

シャサは自分の小さな手のひらを眺め呟いた。

その手に何があるかは知らない。

だが、その呟きは不思議と悲しみに満ちていた。

トールはそんなシャサには気づかずにいまだに不吉な妄想を膨らませている。

「もしかしたら・・・妖怪?」

トールはシャサの姿を見ながらぼんやりと妄想する。

あのツインテールは動くんだろうな。変に長いし。

あの赤い目は暗闇では光るんだ。

腕はまるでダ○シムやル○ィのように伸びてくるんだな。

あぁ、あのバカ力はその力の断片か・・・

トールは一人、納得していく。

 

そんな、二人とは対照的に地下は死闘が繰り広げられていた。

出来る限りの知識と技術をつぎ込み鋼の巨人を完成させていく。

一つ完成させれば何か問題が出るのが常だ。

停滞したと言われて久しいMR開発競争。

それは遥か人類の歴史初期へと遡る。

過去から伝わるプレミアと称されるレアなMRを凌ぐほどの性能のMRはほとんどいない。

技術不足か知識不足かどうしても越えられない壁であった。

プレミアを元にもたらされる技術を消化することが出来ないのだ。

何がいけないのかは分からないがそれは研究員最大の敵だった。

そのためにいまだにMR開発者はプレミアを研究することしか出来ないから研究者と呼ばれる。

職業名は実は最大の卑下であった。

ラスクはその状況をどうしても打開したかった。

過去から伝わりし者を昇華し更に伝えるのが代を重ねるというのなら自分たちは長らく出来ていない。

「僕は・・・君を超えるよ」

ラスクはバーンの指に触れながら呟いた。

青い巨体は赤を落とされ生まれたままの状態に戻っている。

その瞳に光はなく永い眠りについていた。

だが、その眼は既に映し出しているのかもしれない。

これから広がる壮大なる戦いを・・・

 




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