自分たちが過ごしていた日々はまるで幻のようで不確かなものだったのかもしれない・・・
過ぎ去った果てに振り返る過去はあまりにも鮮やかで綺麗だった。
時のフィルター越しの世界はもう、二度と手に入らないけど・・・
それでも求めていく。
それが一番の居場所だと思っていたからだろうか・・・
それとも悔しかったからだろうか・・
突然の来訪者の企みに翻弄されて全てを手放してしまったあの日・・・
あの日が変わっていれば今の自分たちがいないとしても
それでも変えたいと願ってしまうのか・・・
一人の少女の悲しみの嘆きだけがあの日の記憶であり
青い空のような青年の決意の横顔は何時までも残る事実として焼きつくだろう。
優しかった日々は許されざる日々だったのか
ふと、頭を過ぎることがある
でも・・・あの日々は今の自分の生きがいであり求めるものであり・・・
そして、あの日に続くための力になるのだから・・・
つらい日々が日常になってしまったら
あの日々は可笑しくて変なのかもしれない。
でも、求めてしまうのはやはりつらい日々がただのつらい日々だからだろう。
共に良く仲間たちはとても好きでも
あの日々を・・・
いや、だからこそ彼らと共にあの日々に帰りたいと願ってしまう。
自分は・・・絶対にあの日々に帰れないと知りつつも・・・・・
少しだけ期待してしまう・・・
横にいる青い青年は自分の運命を変えてくれるんじゃないかって・・・
機 鋼 神 王
第一章
戦士、立つ
第七話
幸福の崩壊
外に出ると二機のメタルレプリカの反応を発見する。
通信機から命令は来るが肉声は無く。
ただ、その二機を撃破せよとだけだった。
識別信号的にはそれは味方のものでトールは再度、確認するが返答もただ。
撃破せよ
とだけだった。
なんとな無く疑問が残り、しっくりとこないが
初の戦闘任務だ。こんなものかもしれないと思いトールはその二機の反応へと向かった。
装備は腰に装備された二つのチェーンダガーと特別に弾が装填されている二門の固定式機関銃。
本来、皇国軍は飛び道具が基本的に禁止であり使用できないのだが。
ラスクが内緒で弾を補充していたらしい。
まぁ、牽制ぐらいにしか効果はないし射撃よりも格闘を好むトールにとってはあれば助かる程度の
ものでしかないのだが。
バーンは大地を蹴り上げつつバーニアをふかし目的地に急いだ。
大した距離は無い。
バーンのスピードなら後数秒で視界に入るはずだ。
そうトールが思っていると既にそれは視界に移り始めた。
皇国軍主力メタルレプリカ、コモナイト。
接近戦用のメタルレプリカで基本武装がチェーンソード一本という前時代的にもほどがある
メタルレプリカである。
それしか武器が無い割には機動性が高いとは言えず
装甲はそれなりなのだが遠くから狙い撃ちされたらすぐにおしまいだ。
そんなこんなでラスクが騒いでいたのを聴いた記憶がある。
「ってことは少し離れた位置から機関銃撃ってれば反撃食らわないんじゃないか?」
流石にこっちに向かってきて攻撃するだろう。
なら、一気に決めるのが得策というものだ。
相手もこちらに気づいたらしくそれぞれチェーンソードを抜いた。
「このテロリストが覚悟しろよ!」
バーンはチェーンダガーを抜くと一気に加速した。
一瞬にしてコモナイトとの間合いがほぼ0となる。
あまりの素早さに全く反応できずにコモナイトはその腕をチェーンソードごと落とすこととなる。
直ぐにもう一機のバーンに斬りかかってくるがバーンはバックステップでそれをかわす。
「とろいぜ!」
バーンはチェーンダガーで袈裟斬りを食らわせる。
装甲が火花を放ち一直線に切り裂かれる。
コモナイト程度の装甲ならばバーンのチェーンダガーの前では紙にカッターと同じようなものだ。
高速回転する鋭利な刃物は圧倒的な威力を秘めている。
「手前ら何が目的だ!返答次第ではあばら二、三本は覚悟しろ!!」
それはドライバーに対して言っているのだろうか。
ともかく、トールが叫ぶが返答は帰ってこなかった。
というか通信機がノイズだらけで使用できないのだ。
「・・・どうなってるんだ?」
トールは言い知れぬ不安を覚える。
完全に目の前の二機は沈黙しており動く気配は無い。
だが、それは可笑しい。
トールは確かに攻撃を加えたが完全に沈黙などさせていない。
動かそうと思えばまだまだ、動くはずだ。
その証拠にほとんど損傷など見られないし鋼力も漏れていない。
トールは悪寒を感じる。
なぜか薄ら寒い感じを受ける。
今日は何かが違う。
ようやく胸騒ぎが起こり始める。
だが、全ては遅かった。
城の電気が一斉に落ちる。
世界が暗転し漆黒が世界を支配した。
それは当然、メルの部屋でも起こっている。
「きゃっ・・・停電。でも、雷落ちてないですし・・・」
メルは窓の外を見るが月の光がぼんやりとだが城の輪郭をうっすらと写している。
人は暗闇を酷く恐怖する。
五感のうちの一つを強制的に使用できなくするのだから当然だろう。
それが一番頼っている視覚なのだから当たり前だ。
嗅覚が閉じてもさほど苦ではないのに大してここが閉じられるのは精神的に酷く痛い。
普段、自分の感じている世界の半分以上が強制的になくなってしまうのだ。
変わりに嫌でも次に頼る聴覚が発達してくる。
少しの物音だけでメルはびくついていた。
遠くのほうで突然、爆発音が鳴り響く。
メルは驚いて心臓が止まりそうになるがお気に入りのウサギのぬいぐるみを抱きかかえて目をつぶった。
自ら視界を閉じているほうが幾分かはマシだった。
まだ、自分の意思が働いているからだ。
これは自分が作り出した暗闇だと思えるならまだ平気だ。
続いて何かが倒れる音がする。
それと金属と金属がぶつかり合う音が鳴り響いた。
それもこの部屋で
メルは恐怖で心臓が嫌なぐらいに加速して音を立てているのが分かった。
耳も閉じているから仕方ない。
何が起こっているのか気になったが視界が閉ざされている上に音が聞こえるだけでは恐いだけだ。
だったら何も聞きたくも無かったのだろう。
ぬいぐるみだけがここにあるものだと信じ外の世界からの干渉を拒み続けた。
「・・・メル」
一つの声が聞こえたのが分かった。
その声の主もはっきり分かっていた。
「・・・ビーン先生?」
メルは恐る恐ると聞き返すとそうだと小さな声が返ってきた。
「・・ここは危険だ。外へ出るぞ」
「危険って・・・どういうことですか?」
「後で説明する・・・トールとシャサがいそうな場所は分かるか?」
「分かりますけど・・・なんでですか?」
「オレにとってこの城内でレイとシェルの次に信頼できるのはあいつらだ」
ビーン先生がそういうとメルは疑問に思った。
レイと侍女王さまを信頼しているのならそちらに向かったほうが良いのではないだろうか?
トールとシャサには失礼だが流石にあの二人のほうが頼りになる。
それにシェルは魔法の使い手でありそこら辺の兵士よりもよっぽど強い。
「急げ、時間が無い」
ビーン先生はそういうとメルを抱き上げ窓から外へと飛び出した。
「きゃぁ!!」
突然の浮遊感にメルは驚くがビーン先生にしっかりと抱き上げられていると不思議と恐くは無かった。
明かりが付いた頃
メルの部屋には頚動脈を切られて死んでいる謎の黒ずくめの男たちの死体が転がっていた。
トールは不安だったがコックピットを開けて外へと出た。
そして、コモナイトの解除コードを入力しコックピットを開く。
開放時のエアでトールの髪が揺れる。そして、その中を覗き込んだ。
「・・・!」
トールは息を呑んだ。
コックピット内は空っぽで変わりになんか黒くて大きなモノが横たわっている。
そして、デジタル数字がカウントダウンを開始していた。
「・・・・・・・・」
なんとなく嫌な予感がしたトールはそのまま急いでバーンのコックピットへ急いだ。
そして、ハッチを閉めると一気にバーンを遠ざけた。
その時、いきなり城内の明かりという明かりが急に消える。
突然の暗闇に驚くがバーンのカメラアイで城のほうを照らす。
ただの停電らしいが・・・原因が分からない。
胸騒ぎにとうとう盛大なものになっていく。
シャサとメルのことが非常に心配になってきた。
ラスクは別に自力でどうにかしそうなので心配しない。
「一旦、戻るか」
トールがそう呟くと同時に先ほどのコモナイトが二機一斉に爆発を起こした。
停電中の格納庫内でラスクとシャサは懐中電灯であたりを照らしている。
「うぅ〜む・・・何が起こってるんだ城で」
流石に楽観視できなくなってきた現状にラスクは微妙にワクワクしていた。
不謹慎だがどうにもこうスリルが付いて回るものには血が騒ぐらしい。
そこら辺はトールのほうが好きそうだが何げにラスクのほうが好きだ。
「声が弾んでるよ」
それはシャサにも見透かされてしまったようである。
シャサはシャサで不安を覚えている。
特にメルのことが心配だった。
テロとかの場合は皇族を狙うのは当然だろうしメルが突然、発作など起こしたら大変なことになる。
「僕はちょっとそこらへん見てくるからそこでじっとしてて」
ラスクはそういうとドアを開いて外へ出ようとした。
「あっちょっと待って私もいくよ」
そんなラスクの腕を引っ張ってシャサが止める。
「ダメだって。暗くて危ないよ」
「メルが心配なんだよ。だって、トールが出撃するような事態が起きてるんだよね。
だったら何か変な人が城に侵入してるかも」
シャサの言うことは一理ある。
だからこそにシャサは連れて行けない。
「ダメだって僕は別に強いわけじゃないから自分の身だって護れないんだよ。
はっきり言って君の面倒までは見れない」
ラスクはきっぱりと言い切った。
だが、それは事実だ。
普段、無茶をしてるからといってラスクは別に強くは無い。
腕力だって普通だし格闘をやってたわけでもない。
トールは我流でそれなりに戦えるがラスクはダメだ。
ケンカは弱い。
「でも・・・」
「それに僕も本当にそこらへんしか見てこないし」
「う・・・ん・・・」
シャサは渋々、ラスクの手を放した。
「いい子だね。それじゃあ、ちゃんと留守番するんだよ」
ラスクはそういうとドアを開けて外へと出て行った。
一人取り残されたシャサは開け放たれたままの格納庫の隔壁を見る。
城内は完全に真っ暗だった。
元々、あまり窓がない作りになっているせいもありほとんど月光も入ってきていない。
それに何故か城内に兵士もメイドの姿も無かった。
普通、停電といっても廊下にこれまで人がいないのは可笑しい。
言い知れぬ不安を覚えながらもラスクは懐中電灯の光を頼りに歩いていた。
格納庫は城内でもかなり離れた位置に存在する。
ラスクはあんなことを言いながらもその辺をうろついて終わる気は無かった。
城内に何かが潜入したと考えるのが妥当だろう。
停電もその仕業に違いない。
少し恐いが電力室まで赴いて停電を止めようと思っていた。
誰かがいる可能性は高いが何とかなるだろうと思う。
楽観ではない。懐に入った拳銃がその証拠だ。
冗談で撃ったりもしてたが実際に威力もある。
急所さえ狙えば人を殺すことだって出来るだろうし牽制にも役に立つはずだ。
まぁ、この暗闇で狙い打つことが出来るのかといわれれば無理だとしか答えようが無いが。
ラスクはそれを確認すると歩いていった。
「あたたた・・・」
バーンは爆発の衝撃に巻き込まれて城壁に激突していた。
破片を振りほどきながらバーンは立ち上がる。
咄嗟に回避行動をとったおかげでほとんど無傷だが少々内部でエラーが走っている。
「右腕の回路でエラーが走ってるよ・・・まっこれぐらいなら自己修復で直るだろう」
突発的なショックで回路が一時的に混乱しているに過ぎない。
コンピューターが自己診断してれば直ぐにでも直るだろう。
それよりも考えなければならないことがある。
「最初っから無人だった・・・とするとこれを奪った奴がどこかにいるはずだが・・・」
トールはバーンの策的モードを広げる。
だが、妨害電波が出ているらしくレーダーに反応が映らない。
「・・・城が攻められるなんて相当な事態だぞ・・・敵は相当手ごわいに違いない・・・」
ここまで妨害が酷ければ後は自己の判断で行動するしかない。
この行動一つで下手すれば最悪なケースへと行き着いてしまうかもしれない。
だが、言ってしまえば自分さえ動けばそれが回避できる可能性もあるというわけだ。
何を優先するべきか・・・皇王ゼンの場所へと急行すべきか・・・兵士待機所へ赴き合流するべきか・・・
それともメルやシャサたちを護るべきか・・・・
トールは焦っていた。
こう思案している間も誰かの命が亡くなってしまっているのではないか
どうしようもない焦りが彼の心に決断を遅らせる。
ほんの数秒の出来事かもしれないがトールにとってその時間はあまりにも長く
自分の不甲斐なさを噛み締めさせていた。
「ぐおおおおおおお!」
この国の全てを治めるものの断末魔が部屋にこだまする。
血飛沫が赤い絨毯にまきちり赤い泉を作り出していく。
その光景をまるでなにかのショーを楽しむかのように血塗られた剣を持った男が笑っていた。
龍殺しの英雄と呼ばれこの国で最も人気があるもの。
次期皇王の座が約束されレイ皇女と今日、婚姻の儀を交わしたもの。
全ての幸福を約束されたものは・・・その欲望をそこで留めさせることはしなかった。
いや、今までのことなどこれからの為に予め計画されていたもの・・・
この血は今から始まる自分の栄光への道を飾るために色彩だ。
そして、光が差し込みその景色をこの世界に解き放った。
「おい、シャルドゥ。こんなところに呼び出して・・・」
オレンジ髪の目つきの悪い男が一人、玉座の間へと現れた。
その腰に差されている刀は一本だけである。
彼は突然、シャルドゥに呼び出されここに来たわけだが
その表情が周囲に漂う匂いに気づいたときに一変する。
まるで親の敵を見るかのように獰猛な目つきで目の前の男をにらみつけた。
「シャルドゥ!てめえ・・・皇王を殺したのか!!」
ラルフはその腰に差してある一本の刀を抜き出した。
ギラリと光るそれは主の意思と同調するかのように目の前の獲物の血を求めて餓えているかのようだった。
シャルドゥは怒りに燃えるその殺気を涼しげな表情で流すと手に持っていた刀をラルフに向かって投げつけた。
血の軌跡を残して飛んでくる刀をラルフは掴んだ。
それは不思議なほどにラルフの手にフィットする。
驚いて見るとその刀は紛れも無くラルフ愛用の刀の一本だった。
「これは・・・どおりで見つからないと思ったら・・・」
ラルフは刀を結婚式の時に持ち込み禁止ということで外してその後から行方不明だった。
誰かに盗まれたと騒いでいたが・・・
「まさか・・・こんなところにあるとはな」
ラルフは両の刀を上段と下段に構え突撃の体制をとる。
それはラルフがもっとも得意とする構えで敵を確実に殺すときに用いるものだ。
それだけに本気だということだが・・・
「ふふふっ・・・」
「!何が可笑しい!逃げ場はないぜ!!」
ラルフはその涼しげな笑みが癪に障った。
何で人を殺してそんな顔が出来るんだ。
理解できない・・・それは怒りに変わるほどに。
「貴方がバカでよかった。えぇ、本当に。今日だけ貴方のその頭の悪さを褒めてあげますよ」
「・・・ぶっ殺す!」
ラルフは一気に足を踏み出しシャルドゥに突っ込んで。
そして、上段、下段から一気に斬りかかる。
シャルドゥはそれを腰にかけていた自分の愛剣で受け止め横にその力を受け流した。
そして、流れるようにラルフの後方へと回り込む。
だが、ラルフは刀を返すと体をひねり後ろに振りぬいた。
シャルドゥはバックステップでそれをかわすとそのまま距離をとる。
「どうした!?手前の剣は逃げるだけか!?気合が伝わってこないぜ。さぁ、オレを殺す気できな!!
返り討ちにしてやるからよぉ!!」
ラルフは笑っていた。
燃え上がる闘志に表情筋が反応する。
嬉しい・・これほど嬉しいことは無い・・・
シャルドゥと死合える。
今まで散々、稽古はしてきたが本気で殺しあうのは初めてだ。
目の前の奴の強さは良く分かっている。
武人としての血が・・・そして、奴を憎く思う気持ちが溢れる奔流となり彼を燃やしているかのようだ。
刀で床を削りながらシャルドゥに迫るその鬼気とした表情。
まさしく鬼としか言いようが無い。
「相変わらず野蛮な奴だ・・・我らが王を殺しただけでは飽き足らずに・・・私すらもその刃にかけるか?」
シャルドゥはそういうと剣を構えなおした。
ラルフはその言葉に表情を変える。
どういうことだ・・・
皇王を・・ゼンを殺したのはシャルドゥだ・・・
だが・・・
「ラルフ大佐・・・貴方は・・・」
ラルフの目にレイが映る。
その表情は恐怖と困惑と・・・怒りがにじり混じっていた。
そして・・・見る見るうちにそれは怒り一色に染まっていく。
「なっ!違う!俺じゃない!」
「見苦しいぞラルフ。その刀についた血が唯一無二の証拠だ」
ラルフは剣でラルフの刀を指した。
確かにこの刀にはゼンの血がこびりついている・・・だが
「お前がオレの刀を盗んでつかったんじゃねぇか!」
「何をほざくか・・・武人が聞いて呆れる・・・自分のした罪は自分で償うんだな!」
シャルドゥはそう叫ぶと剣を構えラルフに斬りかかる。
「くっ!」
ラルフはその一撃を刀を交差させ受ける。
強力な一撃だがラルフの力をもってすればさほど苦ではない。
「っそぉ!」
ラルフはシャルドゥを弾き飛ばすと怒りに任せ両の刀で空気を切る。
うちから溢れ出る怒りが止まらない・・・
だが、ここで暴れまわっては逆に奴の思うつぼだ。
その自制心が彼の暴力に抑制をかける。
「オレをはめやがったな!」
「何を言う・・・私にはゼンさまを殺す理由など無い」
「くっ・・・」
事情を何も知らないラルフには返す言葉が無い。
ヴェルフォースのこと、エンシェントのこと・・・
ラルフは何も知らない。知らされていない。
だが、力を持ちシャトレーゼではある程度の権力を持ち・・・そして、シャルドゥに敵意をむき出しにしていた。
犯人に仕立て上げるには絶好の相手だった。
むしろ、ラルフ以外に罠にはめられる奴がいない。
後は罪を着せるだけ。
それだけですむ・・・
「っざけんな!オレが大人しく捕まるかよ!絶対に無罪を証明する!」
ラルフが天井に向かって叫んだ。
もはや雄たけびにもちかいそれは一瞬、その場にいた者たちをすくませる。
それをチャンスと感じラルフは全力で唯一の出口であるシャルドゥたちの方向へと駆け出した。
「・・・貴方は・・・許しません」
シェルは両手を突き出すとその体のうちから光が流れ出す。
「両極に宿りし雷よ・・・一つになり敵を打ち砕く槍となれ!ヴィヴァレス!!」
シェルは両手に電撃を溜めると一つにあわせて打ち出した。
それは真っ直ぐラルフに向かっていく。
「この程度の初歩魔法で・・・オレがとめられるかぁ!!」
ラルフは刀を一つは前へと一つは床へと突きつけそのまま躊躇わず走り続ける。
電撃は刀へと吸い込まれそして、そのまま刀を通し床へと流れていった。
電気を受け流したのだ。刀をアースがわりにして・・・
だが、それでも細胞はその電撃の熱を受け死ぬはずである。
普通の人間では動けなくなるはずだ。
だが、ラルフはそのまま歩みを止めずに走り続ける。
「いかせない」
「うぜぇよ!」
目の前に立ちはだかるシャルドゥは一喝の元に体ごとの体当たりで吹き飛ばすとそのまま駆ける。
「いかせない・・・」
「オレよりもこいつのことを信じるのか?シェル!?」
「!!」
シェルはその言葉に両手に流れる魔力を寸断してしまう。
一瞬の迷いが魔法の構成を瓦解させた。
その隙にラルフはそのままシェルとレイの横を通り廊下へと逃げ出していた。
「シェル!?」
「・・・すみません・・・レイ様・・・ですが・・・」
シェルは泣き出しそうな表情でレイを見つめる。
レイはそんなシェルの顔を見るのが初めてだった。
「・・・今はいいわ・・・後で聞く。それよりも」
レイは小型の無線機を取り出した。
それは王族が持つ緊急用の無線機だ。
城の全兵士、全部署・・・そして、国の全公立機関に通じる最優先の。
「シャトレーゼ第一皇女レイとして命じます。皇国軍大隊長ラルフ=ウォーデンを指名手配。即刻拘束しなさい」
レイは一気に叫ぶようにして命令を伝える。
皇族は絶対的な権利を有している。
それを行使する日が来たのだ。
そして、付け加え
「ただし!絶対に生かして捕まえること。決して殺してはダメです!」
と、念を押すように強く言った。
そして、無線を切るとシェルの顔を見る。
「お優しいですね流石はレイだ」
シャルドゥは剣をしまい歩み寄る。
「優しくないわ・・・今すぐにも殺してやりたい・・・だけど、私もあの人がお父様を殺したとは思いたくない」
「残念ですが・・・私は目撃してしまったのですよ」
「えぇ。貴方を疑ってるわけじゃないの・・・でも、シェルの・・・私の親友のこの顔を見たら・・・」
レイはまるで怯えるように震えているシェルを見つめ呟いた。
まるで何かを信じ込もうとしているかのようにぶつぶつと何かを呟いている。
そして、その瞳は一切、前を見ていなかった。
それよりも少し前・・・
ラスクは電源室の前まで来ていた。
城の電力は外の発電所とは完全に独立している。
もし、発電所で事故や故障が起きたり、敵に壊されたりしても独自に動くためである。
だが、そこが乗っ取られては本末転倒だが・・・
ラスクは聞き耳を立てて中の様子を確認する。
この静寂の中で一切の音が聞こえなかった。
どうやら誰もいないようである。
となれば事故か・・・
だが、逆に誰もいないというのは可笑しいのではないか・・・?
停電になれば普通はここまで誰かが来るはずだ・・・
だが、誰も来ていない。
手探りでここまで来たラスクよりも遅いわけが無い。
おかしい!
ラスクはそう感じると一気にその場から飛びのいた。
それと同時に突然、ドアを蹴り開け中から何かが現れた。
ラスクは躊躇わず手に握っていた小銃を照準もつけずにぶっ放した。
現れた何かはそのいきなりの不意打ちに完全に反応できずに体に直撃する。
だが、それは全て表面のスーツで受け止められている。
しかし、あまりの出来事に完全に反応が遅れている。
変わりにラスクは普通に自分の手持ちの武器が聞かないのを判断すると突っ込んでいた。
腕力で勝てるかは分からない。
だが、逃げても逃げ切る気がしない。
しかし・・・
「トールならなぁ!真正面からでもクマに喧嘩売ってたんだぞ!!」
かつて、親友と二人で山を歩いているときにクマと出会ったことを思い出した。
自分はあまりの恐怖に動くことすら出来なかった。
だが、トールは自分をかばって腕が傷ついてるにも関わらず自分の為に立ち向かってくれた。
明らかに無茶なのに逃げればいいのに・・・
ただ、何も考えずに突っ込み・・・
ラスクは敵の顔面に蹴りを加える。
ひるんだその隙に顔面を掴み大きくジャンプしそのまま倒立回転し全体重を乗せて一気に投げつけた。
いくら、軽いラスクでも体重はそれなりにあるし腕力だってある。
遠心力も加えて放ったその投げは相手を軽々と吹き飛ばし思い切り電源機へとたたきつけた。
当たり所が悪かったのか突然、バチッという凄まじい音と共に目の前の男は痙攣しそのまま動かなくなった。
「・・・おぉ、僕もやればできるじゃないか」
ラスクは嬉しそうな表情で呟いた。
だが、直ぐに状況を把握し電源機へと走っていた。
今の衝撃で壊れたとか言われたら・・・
そう思った瞬間、いきなり城の電気が回復していく。
どうやら、電源機が起動し始めたらしい。
「スイッチ切ってただけか・・・」
ラスクはそう呟くと周りをふと見回した。
周りに数人の兵士の死体が転がっている。
ここに来たものを殺したのだろう・・・下手をすれば自分もこの中に入ってたわけだ。
「偶然にしても勝ててよかった良かった・・・少しトールに感謝しないとな」
自分に勇気と機転を教えてくれた唯一無二の親友を。
「それにしても・・・予想通り・・・危険だね。とにかく一旦格納庫へ戻ろう」
シャサのことが心配になってくる。
彼女一人のところを襲われては無事ですむはずが無い。
もし、そうなったらトールに殺されてしまう。
そして・・・自分自身も目覚めが悪い。
ラスクはここの状況を放置し走り出した。
「うっうぅ・・・」
メルはビーンの白衣にしがみつき震えている。
ビーンは両手にメスを持ち構えていた。
その瞳には殺気が満ち溢れている。
そして、壁という壁に血が錯乱したかのように張り付いていた。
「ヴェルフォースの暗殺部隊か・・・だが、さほど錬度高くないようだな」
ビーンはまるで氷のような目つきで目の前の黒ずくめの男をにらみつける。
男はまるですくみあがったかのように震えていた。
その周りには彼の仲間が横たわっている。
目の前のちょっと危なそうな感じの白衣の男が全て殺ったことだ。
ただのメスで完全に武装した暗殺集団を・・・
しかも最強と名高い傭兵集団ヴェルフォースの・・・
そして、奴は自分たちの正体を知っている。
「まさか・・・お前は・・・」
男の喉にメスが突き刺さる。
口をパクパクとさせながら彼は文字通り息絶えた。
「・・・・・目を閉じ付いて来い」
「・・・はい」
ビーンはそういうとメルに手を差し出し歩き出した。
メルももはやビーンしか頼る相手がいない。
ヘルダイムの専用格納庫
当然のように兵士たちが待ち伏せをしている。
本来ならなんとかして隙をうかがうものだが・・・
ラルフはそのまま二本の刀を握り締め突っ込んでいった。
相手はシャトレーゼの兵士。自分が育てたようなものだ。
手の内は完全に知り尽くしている。
そして、相手に飛び道具は一切無い。
それがこの国のしきたりだからだ。
「骨の二、三本は覚悟しろよ!!」
ラルフはそのまま叫ぶと刀を逆さにし振りぬいた。
ラルフは一旦、この城から逃亡することを決意する。
今の状況で彼が無実を証明するのは難しい。
大人しく捕まってはシャルドゥが何をするかは分からない。
こうなれば外でどうにかして情報を集め盛り返すしかない。
ラルフはゼンを殺したシャルドゥの姿を見ていた。
絶対の自信はそこから生まれる。
覆らない虚偽など無い。暴かれない真実など無い。
そう、このオレがそんなことはさせないのだと心に誓った。
なればメタルレプリカは特に自分のヘルダイムは強力な武器だ。
一般兵を相手になら大隊相手でも勝てる自身がある。
それほどの実力の差があるのは問題だが事実だ・・・
だが、シャルドゥ・・・そして、トールだけが気がかりだった。
唯一、単独でラルフを恐れさすのはその二人だけだ。
「どけぇ!」
ラルフは目の前にいた兵士をみねで吹き飛ばす。
どうやら、ヘルダイムのシステムの書き換えを行おうとしていたらしい。
だが、専用機のプロテクトは一般機の非ではない。
搭乗者なしでの書き換えは相当な時間がかかるはずだ。
無論、そんな暇は無い。
今なら間に合う。
ラルフはヘルダイムのコックピットに飛び乗ると二本の刀をコンソール脇の穴に突き刺した。
これこそがヘルダイムの操縦方法。
二本の刀を通して流れる魔力こそがヘルダイムを操る力となる。
刀を扱うようにラルフが心を込めればヘルダイムは彼の刀になりて動き出す。
「死にたい奴は近づきな!ころしてやるからよぉ!!」
ラルフは物騒なことを口走る。
その言葉の迫力に押され兵士たちは一目散に逃げ出した。
普通に離れろをというよりも効果が高い。
本人の人格も関係しているが・・・
ヘルダイムは背中のバーニアから炎を出すと一気に加速して隔壁をぶち破る。
天に月が昇っている・・・雲の隙間から覗くそれは幻想的な空気を漂わせていた。
月は魔力の塊であると言われる説がある。
太陽が光を送るように月は世界に魔力を送っているのだと・・・
その真偽は定かではない・・・
だが、月を背にし佇む蒼い戦士は・・・まるでその洗礼を受けているかのように光り輝いていた。
「なぜだなんざ聞きはしない・・・だがなぁ、オレの刃は受けてもらうぜ!」
「それでこそオレの弟子だな。トール!」
ヘルダイムは二本の刀を持ちバーンに突っ込んだ。
直線的な運動だ。だが、爆発的な加速と魔力の威圧感で相手を封じる。
効果的でもある動きだ。
一時期はその動きに憧れまねようと思ったぐらいだ。
何せ単純だ。分かりやすい。特に相手に直線的に突っ込むことしか知らないトールには良く似合う。
だが・・・それはトールの本質とは違うと学んでいた。
「確かにトールは突っ込むのは得意だし好きだよね」
ラスクが白衣着用メガネ付きで黒板の前に立っている。
「あぁ、そうだな」
「まぁ、ラルフはそれでいいよ。でも、トールはダメだ」
「何でだよ。バーンはスピードもあるしそれで大会も決めたぞ」
「あまいね。だから、ラルフに負けるんだよ」
「うっ・・・確かに負けたがそれは俺があいつより弱いから」
「そう、弱い。それは確実なものとして現れている。ラルフのほうがメタルレプリカの搭乗時間は短いのに」
「・・・うぅ、痛いところを・・・」
「正直にいおう。君には才能は無い。はっきりいって」
「なっ!!」
「大会で勝てたのだって搭乗時間が圧倒的だったからに過ぎない。そう、それだけなんだよ」
「うっ・・・うぅ、だけどな!戦闘なんか一切やってないんだぞ。仕方ないだろ!」
トールは机に手を叩きつけて立ち上がった。
非常にむかついている。
自分の中ではそれなりに自信があることだった。誇れることだった。
だが・・・よりにもよって・・・それを否定するか?
「そう、戦闘経験のなさ。それはいかんともしがたい事実だ」
ラスクはチョークをトールの眼前に突き出す。
それにトールは驚いてすくみ上がる。
「だから、真っ向勝負で勝てるはずは無い。その経験差を埋めるのは難しい・・・では、どうするか?
トール、君が今まで積み上げてきたものを生かすんだよ」
「オレが積み上げてきたもの・・?」
「君は本来の自分が分かっていない。確かに力はある。だが、滅茶苦茶マッチョじゃない。
魔力にいたっては本当に一般人だ。才能は完全に無い。だけど・・・君が生きてきた時は確実にある。
そう、メタルレプリカに乗り続けてきたというそれがね」
「だけど・・・戦闘は・・・」
「違う。メタルレプリカは何も戦うことが全てじゃない・・・それ以外は大体、やったじゃないか。
それに・・・君ほどにメタルレプリカを同等に扱って細部にまできを使える人はいないよ。
僕が断言してあげよう」
ラスクは自信満々の表情で腕を組んで仁王立ちになる。
「動き回れば君を止められるものなどいない!」
「オレの動きが止められるか!」
バーンは城壁を蹴ると横へと飛ぶ。
ラルフはすぐさまに反応し横を向いた。
だが、既にそこにバーンの姿は無い。
驚くラルフ。ヘルダイムの背中に衝撃が走る。
「後ろ!?」
突然の攻撃に驚き振り向く・・・
だが、そこには誰もいない・・・
しかし、確実に背中が切りつけられている。
傷は浅いがそれでもそれは確実に残っていた。
「トール・・・手前!隠れてないで姿を見せろ!」
「上」
「!」
ラルフは声に反応し上を見上げるとバーンは両足を突き出し落下してくる。
それを刀の柄で受け止めると弾き飛ばそうとする。
だが、それよりも先にバーンは柄を蹴り飛び跳ねた。
そして、一回転し着地すると直ぐに横へと飛ぶ。
地面を蹴り、城壁を蹴り、塔の上まで上り、落下し、壁に隠れては全く違う方向から現れる。
その動き一つに全く無駄が無い。
あの攻撃とは比べ物にならないほどに動きがスムーズだ。
「なんでだ・・・攻撃すらまともに出来ないのに・・・なんでそんなにメタルレプリカが扱える!?」
いくら、人の体と同じように動かせてもそれは人の体じゃない。
完全に同じ動きを再現するなど不可能だ。
だが、トールはそれを実践し・・・あろうことか人以上の動きを見せている。
どれだけのベテランパイロットでもこれほどの動きが出来るか。
「最初から武器の扱いだけ上手くてよちよち歩きの人なんていないだろ?」
突然、背中から声が聞こえる。
「それと同じことだよ。オレは普通に走り回れるようになって直ぐにメタルレプリカに乗り始めたんだ・・・
体を動かすのとメタルレプリカを動かすの・・・どちらも同じ労力でしかない」
バーンはチェーンダガーを振り下ろす。
だが、ラルフはそれを間一髪で回避した。
歴戦の勘が働いたのだろう。意識よりも先に体が動いている。
むしろ、そのぐらいでなければ回避など不可能だ。
「まさか・・・そんな奴が・・・それが本当なら・・・」
それが本当なら人間よりも圧倒的な身体能力を持つメタルレプリカを自分の体を同じに動かせるなら・・・
いや、もう一つの体として使えるなら・・・
それほど脅威になる奴はいない。
「オレ以上・・・いや、シャルドゥよりも!」
ラルフは真正面から向かってくるバーンのチェーンダガーを受け止める。
だが、バーンは直ぐに後ろへと飛びのき城壁の一部を蹴り飛ばした。
レンガ・・・に似せた金属が眼前に迫り来る。
それを刀で防御する。
すでにそこにバーンの姿は無い。
ラルフはすぐさまに後ろを向いた。
「大人しくしろ・・・これほどの騒ぎを起こしてただで済むと思ってるのか」
後ろからトールの声が聞こえる。
つまり、元々ラルフが向いていた方向にいたということだ。
完全に裏の裏を読まれた。
チェーンダガーの低い駆動音が嫌に耳に付く。
まるで地獄から呼び声のように・・・
「はっはは・・・やるじぇねえかよ。まさか、オレがこうもあっさり抜かされるとはな・・・」
ラルフはすっきりとしたような口調で呟いた。
さっきまでの怒りの色が見えない。
トールはそれに困惑を覚える。
どういうことだ・・・こうまでして逃げようとしといて。
「まだ基礎練習しかしてないのにな・・・ようやく剣を教えるかと思っていたが・・・
まぁ、お前にはそっちのダガーのほうが似合ってるがな」
ヘルダイムがバーンのほうを向いた。
その動作にトールは一切の反応を起こさない。
攻撃されるとは完全に思っていない。そして、しなかった。
短い間だったが師弟となった身・・・分かっていた。
「・・・何があったんだ?」
オレだけは・・・オレだけでも信じなきゃならない。
この人が捕まらなければならないなんて・・・うそだと。
そうトールは思った。
「トール・・・オレを見逃すのか?」
「話を聞いてからだ。人生、そんなにあまくないぜ」
それでもけじめはつけなくてはならない。
トールは何も知らずに何かをしたくはなかった。
知らないというのは別にいい・・・
だけど、自分が関わること・・・決めなきゃならないことを知らないのは嫌だった。
「ゼン皇王が殺された・・・容疑がオレにかかっている」
「なんだって!?なんで、そんなことに・・?」
「シャルドゥの野郎をオレをはめようとしたんだ」
「妙な言いがかりはよしてください」
突如として声が聞こえた。
それは紛れも無い・・・二人とも聞き間違えるわけが無い。
ラルフは昔から・・・トールは今から完全に怒りに燃える対象としてインプットされた。
竜殺しの英雄シャルドゥ。
そして、その愛機シャトレーゼが保有するプレミアムメタルレプリカ、シャウラス。
一つの剣を持つ騎士のMR。
金色の模様がかもし出す美しさにより美術品とも言われているものだ。
性能のほうもヘルダイム以上である。
「とんだくわせものだ。貴方も貴方も・・・まさか、自分の配下を大会に紛れ込ませる」
いきなり、訳の分からない話が展開される。
「そして、二人で共謀してこの国の転覆を図るとはね・・・」
「何を言ってんだ。お前・・?頭は大丈夫かぁ?」
トールは素で尋ねる。
そんな事実などありえない。
自分が何をしたというのだ・・
「トール・・・お前が皇国軍のメタルレプリカを破壊したのは知っている」
「なっ!あれは警報があったから」
「そんなもの・・誰も聞いてない。そして、自分の仲間であるラスクに城の明かりを消させた。」
「ちょっと待てよ!お前の言いたいことは分かった・・・そんな嘘っぱち誰がしん・・・じ・・・」
バーンとヘルダイムの周りをコモナイトがずらっと取り囲む。
軽く10機は存在している。
全機すでにチェーンソードを構え斬りかかる準備は万全だ。
「そう思っているのは君たちだけだ・・・逆に君の言葉を変えそう。その嘘を誰が信じる?」
国一番のヒーローと二番手とぱっとでどっちを信じますか・・・?
はい、国一番です・・・と兵士全員が言ったわけだ。
トールは納得した。
実際は完全にあやしいのが二人だからでもあるが・・・それも一部的を得ている。
「くっ・・・逃げる・・・そうするとラスクとシャサが・・・」
トールは城に残した二人が気がかりになる。
特にラスクなど奴のシナリオに登場済みだ。
確実に捕まる・・・
そうなれば・・・
「覚悟は決まったか・・・?」
シャウラスが二機の目の前に降り立つ。
そして、名剣バウスを突きつけた。
周りには10機のコモナイト・・・
二人で協力すれば逃亡も可能だが前述の理由によりトールはそれが出来ない。
ラルフもそれを察してか逃げ出さずにじっとしていた。
剣が眼前に迫ってくる。
逃れられぬ恐怖・・・それは自分で作り出した鎖だ・・・
この国に作ってしまったしがらみだ・・・
だけど・・・それを断ち切ってまで得られるものに何がある・・?
そして、失うものの重さはどれほどのものだ・・・?
こんな薄汚い奴の策謀に惑わされて離してしまうには重いもの・・・
トールは歯が軋むほどに噛み締め蒼い眼を限界まで見開いている。
心が暴れるのを耐える為に・・・
バーンもまるでトールの怒りに呼応するかのように低く駆動音を発し続ける。
そして、その音は次第に大きくなっていった。
いや、むしろ地面が揺れている。
「なんだ!?」
トールは驚き声を上げた。
そして、突然地面が開き巨大な穴が現れる。
巨大なうねりが・・・閃光が・・・夜空を包み込んだ。
せりあがる巨大な機体・・・それは鋼鉄で出来た一隻の船だった・・・
だが、それは普通の船ではない・・・
空を翔るために作られた・・・飛行運搬用船
「空艇」
突如として現れたそれは巨大な風のうねりを巻き起こし浮上を開始した。
その旋風は徐々に拡大し何時しか竜巻へと姿を変える。
そして、それは空艇の下部から放たれているものだった。
「あれはトルネードウィング・・・あれが噂の皇族専用の脱出船か」
もしも、城が堕ちる様な場合になっても皇族だけは逃げ出せるように用意されているもの。
急速に離陸し外へと脱出するために船・・・
体裁が良くないために公表されてはいないが普通に考えればあって当然のものだ。
「あーあー・・・ただいまマイクのテスト中。聞こえますかぁ〜?」
緊迫とした空間に子供の声が響き渡る。
突然のことに全員は一気に気持ちががたっと落ちた。
だが・・・
「トール!私たちは全員無事だよ。だから・・・・そんな悪い奴なんか倒しちゃえ!!」
「任せろ!!」
その声を聞くや否やバーンがシャウラスに蹴りを食らわせる。
反応が間に合わなかったシャウラスはそのまま城壁にめり込んだ。
この場でトールに勝る反応速度を持つものなどいない。
「雑魚は任せろ!ラルフ・・・お前はあのいけすかねぇキザ野郎に渇をいれてやんな!」
「けっ!誰に向かって口走ってんだ!だが・・・ありがたくその役目、受け入れてやるぜ!!」
ヘルダイムは二刀を構え壁にめり込むシャウラスに突っ込んだ。
一斉に振り下ろされる二刀をシャウラスは剣で受け止める。
だが、力ではラルフに分がある。
こうも真っ向勝負になればなおさらに。
「もぉ、遠慮はいらねえ・・・お前が殺せるなら・・・どんな罪でもかぶってやるよ!!」
「くっ・・・自棄になったか・・・」
「いや・・・吹っ切れただけだ!!」
ヘルダイムは城の城壁ごとシャウラスを吹き飛ばした。
時間は少し前にさかのぼる。
「よぉっす!」
「ら・・・ラスクさん。大丈夫ですか!?」
突如として現れたラスクにメルは驚いている。
ビーンにいたっては警戒してメスを抜いてるぐらいだ。
「いや、城の中が大変なことになってるから逃げようと思ってるんだけど・・・シャサが見つからないんだよ」
走り回っていたのだろう笑顔だが何処か引きつっているしフラフラとしている。
「・・・知り合いか?」
「えぇ・・・というか。ビーン先生もあってますよ」
「・・・そうか?」
「ひどいなぁ・・」
どうやら、忘れられているらしい。
確かにビーン先生が寝てるときにやってきては帰ってたからな。
「それよりもシャサが行方不明って・・・どうしてですか!?」
「いや・・・多分、メルが心配になって出ていったんだと思うんだけど・・・あった・・わけないか」
ラスクがそういうとメルは多大なショックを受ける。
自分の為に自分の友達が危険にさらされるなんて・・・
そのまま、フラフラと倒れてしまった。
「大丈夫ですか?」
「・・・心労だ」
どうやら、さっきからのこととあわせてメルの小さな心では許容範囲量を超えてしまったらしい。
大の大人でも取り乱す事態だこうやって健気に倒れずにいただけでもかなりのものだ。
「・・・ラスク。私はシャサを探す・・・メルをエ・・・・」
「エ・ヴァルシャの格納庫に連れて行くんですね」
「!?」
ビーンは驚くとメスをラスクの首筋に当てた。
ラスクは蒼い顔して恐る恐る両手を上げる。
「す・・すんません・・・マジで恐いんですけど・・・」
本当に死んでしまったかと思ったぐらいだ。
「・・・何故、エ・ヴァルシャのことを・・・?」
「いやぁ、色々調べてたら偶然見つけて、空艇なんてこんな田舎国じゃ珍しいからずっと研究してたんですよ」
国の重要な機密を偶然見つけた挙句に研究するなんて・・・普通に捕まっても可笑しくない。
「何重にもプロテクトがかかってるはずだが?」
「えっ?結構、単純でしたよ」
国家機密のプロテクトを単純の一言で片付けるとは・・・
どう考えてもこいつは危険だ・・・
「・・・頼んだぞ」
ビーンはさっきまでの信用の無い視線から頼り切った視線でメルを渡した。
どうやら、実力主義らしい。良いも悪いも。
そして、ビーン先生はシャサを探しに走っていった。
「えうぅ・・・メル〜・・・ビーン先生〜・・・何処だよぉ〜・・・」
シャサは泣き出しそうな表情で廊下をひた歩いていた。
明るくなったものの一向に誰とも会わない。
不安が不安を呼び今にも感情が爆発しそうだ。
その目の前にレイとシェルの姿を見つけた。
「あっ・・・レイお姉ちゃん!侍女王様〜〜!!」
シャサは真っ直ぐにその二人に向かって走っていく。
そして、そのまま彼女の胸に飛び込んだ。
「シャサちゃん・・・どうしたの?」
驚いたが笑顔で対処する。
今は構ってる暇も余裕も無いはずなのに・・・
「えうぅ・・・メルが部屋にいないんだよぉ〜」
「!!メルが!それ本当!?」
レイはシャサの両腕をがっしりと掴んで問い詰める。
完全に余裕がなくなったようだ。
だが・・・この状況で最愛の妹がいなくなれば誰だろうと取り乱す。
「えうぅ・・・うん。ビーン先生もいないし・・・なんか、ぐちゃぐちゃしてたし」
そのシャサの証言でレイの表情が青ざめていく。
最悪の事態が頭を過ぎる・・・
レイは知っている・・・メルがエンシェントであることを・・・
そして、それが何を意味するものなのかを・・・
「シェル!!」
レイはすぐさまに対策をとろうと慌てる。
もし、誰かに連れ去られでもしたらそれこそ全ての終わりだ。
そう・・・何もかも・・・
「・・・・待て」
そこに静かであり・・・たった一言でありながらも圧倒的な存在感で言葉が投げかけられる。
一斉に三人の視線がそちらへと集中した。
そこには白衣を紅く染めたビーンが立っていた。
「ビーン・・・貴方・・・何があったの?」
レイはきつい口調で尋ねる。
完全に疑わしい・・・元々、怪しさはすごかったが今ではさらにだ。
何を言おうとも信用できないというオーラが漂っている。
「・・・・メルを連れて逃げる」
「!何ですって!貴方・・・何を言っているの!?」
「エ・ヴァルシャを使う。アレなら設備も整っている」
「そういうことじゃないわ!何故、メルを連れて逃げるの!?その理由を教えなさい!」
「・・・・シャルドゥ」
「!!」
「奴はヴェルフォースの刺客だ」
「ヴェルフォース・・・何故、傭兵集団が・・・」
レイもヴェルフォースの存在を知っているらしく表情が青ざめている。
「奴は力に溺れた・・・更なる力を求めた・・・」
「何を根拠に・・・」
「奴が持つ剣・・・アレにヴェルフォースの紋様が刻まれている」
「・・・嘘よ!それじゃあ、お父様が殺されたのもシャルドゥのせいだというの!?」
「・・・・遅かったか・・・」
そういう割には大して驚いていない。
予想済みだったのだろう。
「だからって貴方には任せられない・・・私が、私がメルを守り通す!」
「無理だ。一つの国にとどまっていては確実に奴らに殺される」
「ヴェルフォースだろうと光の勇者だろうと私は負けないわ」
「ほぉ・・・では、試してみるかい?」
突然、女の声が聞こえた。
レイが振り向くと底には赤い髪の女が立っている。
シャサが明るく輝きを放つような赤なら・・・その女は暗く全てを暗い尽くすような赤・・・
「なっ・・・!」
「レイ様に障るなぁ!!」
シェルはスカートの下に隠していた小型のマシンガンを取り出し突きつける。
だが、女はそれに少し触れると溶解させていった。
「!」
「溶ける・・・?それとも・・・消える?」
圧倒的な脅威をさらしてその女はシェルの目を見つめる。
殺される・・・
シェルは圧倒的な実力差を悟った。
無理だ。この女にはどう足掻いても勝てるわけが無い・・・
全てが根本的に違うとさえも感じられる。
「えうぅ・・・うぅ、レイお姉ちゃんや侍女王様に何をする気だよ!」
シャサがにらみつけるように叫んだ。
「・・・五月蝿いゴミだね・・・消えな」
女はシャサの頭に軽く触れる。
ビーンが飛び出し、レイがその腕を押さえようとする。
だが、それよりも先にシャサは弾き飛ばされたように吹き飛んだ。
「シャサちゃーーーーん!!」
レイの絶叫がこだまする。
だが・・・女は怪訝な表情を浮かべていた。
「おかしい・・・消す気だったのに・・・」
どうやら、思っていた通りにならなかったらしい。
ビーンはシャサに駆け寄るとシャサは自ら体を起こした。
「っつぅ・・・何するんだよ」
少し額が赤くなっているだけで酷い外傷は出来ていなかった。
「・・・手加減しすぎた・・・いや、だからって耐えられる距離じゃない・・・ということは・・・」
女はレイの首筋に衝撃を与え気絶させるとシャサに向かって歩み寄った。
「貴方・・・何者?」
「えぅ・・・・何のことだよ?」
「あなた・・・一見では全く魔力は無い・・・だけど、さっきの瞬間、ありえないほどの力を発揮した。
貴方の潜在能力・・・興味をそそるわ」
シャサは全身の身の毛がよだつのを感じる。
すぐさまビーンの後ろに回りこんだ。
「ふふふ・・・貴方邪魔よ・・・・あら・・・まさか、こんなところであうとはね・・・
ビーン=トート」
「ラーザスター・・・貴様まで動いているとはな・・・」
「ふふふ・・・私だけじゃないわ。もう一翼・・・」
「!」
ビーンはそう聞くとすぐさまシャサを抱えて一気に走り出した。
そのスピードはトールとかの非ではない。
「あら・・・逃げちゃった」
「・・・貴様、やる気あるのか?」
何処からとも無く声が聞こえる。
「大丈夫よ・・・どうせ、貴方が足を潰せば逃げられないわ」
「・・・くだらない。なぜ、オレが・・・」
声の気配が消えていく。
「ふふふ・・・シャトレーゼのエンシェントにビーン=トート・・・そして、赤い髪の少女。
面白くなってきたわね」
紅蓮の炎の中で女の嘲笑が響き渡った。
「悪いが・・・手足を斬りおとす!!」
トールは機動性をフルに使ってあたりを飛び回り次々にコモナイトの腕や足を切り裂いていった。
コモナイトたちは一切反応できずに次々に動きを止めていく。
基本からしてトールとバーンとの間に能力差が激しいのだ。
全く相手になってない。
「これで最後だ」
最後の一体の足を斬りおとしトールは城内を破壊しつつ激闘を繰り広げる二機を見た。
「おらおらぁ!その程度か!?その程度か!?もっとオレに危機感を感じさせろよ!」
ヘルダイムは二本の刀をまるで嵐のように振り回す。
その一振り一振りが確実にシャウラスを追い詰めていく。
手数からして圧倒的だった。
勢いに乗ったラルフを止めるのは至難の技と言うものだ。
「くっ・・・いつまでもいい気に乗れると思わないでください」
シャウラスは一刀を剣でもう一刀を腕で受け止める。
そして、そのまま足払いをかけ転ばせた。
「くっ!」
「正攻法、真っ向勝負だけで勝てるわけが無いんですよ」
シャウラスはヘルダイムの腕に剣を突き刺す。
「くっ!だが、腕は一本、一本!五分と五分だ!」
「二刀流の貴方が一本で勝てると思っているのですか?」
「分かってないな。一本でも強いから・・・二刀流なんだよ!」
ヘルダイムはそのまま腕を引きちぎり立ち上がって蹴りを食らわせシャウラスとの距離をあける。
そして、そのまま残りの腕で斬りかかった。
シャウラスはそれを剣で受け止める。
金属と金属の摩擦音が、鋼の煙が巻き上がる。
「くっ・・・何故だ」
「お前だって腕一本だろ。両手剣を一本で扱いきれるか!?」
ヘルダイムは一旦、身を引くとすぐさまシャウラスの足に斬りかかる。
だが、それをシャウラスは飛びのいてかわした。
その勝負はまさに決闘と呼ぶに相応しいものだった。
お互いに勝利をかけて己が持てる技を出し尽くしている。
トールはその光景をただ眺めるしか出来なかった。
あの中に割って入ることなどできやしない。
まさしく戦士と戦士の勝負だ。
羨望のまなざしで見つめているとき。突如、一つの影をトールはとらえた。
灰色の・・・影・・・?
いや、違う。
あれは・・・
「メタルレプリカ!?」
「くだらない・・・そんなちまちまとした勝負で何がしたいんだ?」
突如として厳粛とした空気に一つの波紋が流れる。
その先には灰色の機体が自分の全長と同じほどの大剣を持ち立っていた。
「何だと!?俺たちの勝負にけちをつけるきか!?」
見下されたことに普通に反論している。
普通なら隙を作ってしまうところだ・・・
だが、シャルドゥも完全に勝負を忘れていた。
「お前は・・・灰色の閃光クロヴァス=シュトル!何故、貴様がここに!」
シャルドゥが叫ぶ。
気のせいかその口調に少し震えが見受けられた。
「・・・教えて欲しいか?」
灰色の機体の中・・・まるで翼のようなものにその身を包まれた少女・・・
いや、まるで少女と見間違うが如き美少年が乗っていた。
その髪と瞳はまるで燃え尽きたかのような灰色である。
だが・・・そのはずなのにまるで輝きを放っているように美しかった。
全ての女性が求めるほどにその髪はしなやかで顔は整い、体は細い。
だが、その全体から放たれるオーラが只者ではないことを痛感させていた。
ただ、彼が見るだけで世界が変わってしまうかのようだった。
それを証拠にラルフもシャルドゥも体が震えだしている。
「単純な答えだ。つまらなすぎる。見限ったんだよ。お前を」
クロヴァスがそう告げると次の瞬間、シャウラスが粉みじんに吹き飛んだ。
まるでその言葉に射抜かれたかのように。
「・・・なっ・・・何がおき!」
ラルフは突然のことに頭が付いていけない。
だが、体は反応していた。
迫り来る脅威から逃れようと回避行動をとる。
だが、間に合わなかった。
橙色の機体がばらばらの部品となって吹き飛んで言った。
「ラルフーーー!!」
トールが叫び声を上げそこへ駆け寄った。
そこには完全に大破したヘルダイムの残骸が置かれていた。
「・・・なんでだよ・・・なんなんだよ・・・なんなんだよ!手前は!!」
トールは瞳から流れる雫を振り切って灰色の機体に向かっていった。
踏みつけられた地面が軋みをいわし砕け散った。
そして、まるで弾丸のようにバーンは突っ込む。
目の前では灰色の機体が巨大な剣を構えていた。
「・・・・・」
面倒くさいという表情でクロヴァスは大剣を振りぬいた。
それと同時に衝撃波が走り大気を揺らしながら走っていく。
そして、それは城壁を完全に粉砕した。
だが、そこに青い機体の姿は無い。
「なめるなぁ!!」
突如、側面からバーンが灰色の機体目掛けて斬りかかる。
「!」
クロヴァスは大剣でそれを受け止めるがその表情には焦りが見える。
「あの位置からかわした・・・更にこっちから・・・くっくく・・・ふははははは!」
「何が可笑しい?」
「いや・・・嬉しいんだよ。いるじゃないか強い奴が!」
クロヴァスがトールをにらみつける。
モニター越しに写る顔は可愛いのにまるで鬼のような表情だ。
だが、そこで気後れしてるわけにはいかない。
飲み込まれたら全てが終わりだ。
自分の展開に持ち込むんだ。
「はっさんざんだね。あまりにもベタな展開だぜ」
ニヤリと笑ってトールは言い放った。
何時もの調子を・・・そう、何時もどおり・・それこそがオレが一番強いときなのだから。
「何がいいたいか分からないが・・・俺にお前の全てを見せてみろ。いくぞ、グレイファントム!」
「分かってもらわなくて結構だぜ。美少女。いくぜ、バーン!」
バーンはそこにある限りの遮蔽物を駆使して姿を隠しながら高速移動を繰り返す。
本来なら邪魔になるはずのものもトールの動体視力と反応速度。バーンの加速性と運動性をもってすれば
苦にはならない。むしろ、絶好の場所だ。
「遮蔽物が多いところのほうが得意なんだよ!」
「そうか・・・だったら全てを消し去る」
グレイファントムは大きく剣・・・衝撃波を発する剣ブラストブレイドを構えると連続して振るった。
何重にも折り重なる衝撃波が城壁を木々を根こそぎ吹き飛ばしていく。
「!!」
それはトールに精神的なダメージを与える。
皆で会った部屋も、そこに行くために上った木も、散々、走らされた芝生も、託された花畑も・・・
全てが消えていく。
「やめろぉ!!」
バーンはチェーンダガーをグレイファントムに投げつける。
だが、それはブラストブレイドに跳ね返されて堕ちる・・・
前にバーンは掴みそのまま斬りかかった。
それもブラストブレイドで受け止められるが更に両足をブラストブレイドの平面につける。
そして、加速する要領で蹴りを加えた。
凄まじい衝撃が走り両機ともに正反対の方向へ弾き飛ばされていく。
だが、直ぐさま瓦礫を吹き飛ばし衝撃波が一直線に飛んだ。
しかし、それよりも早く青い稲妻が城壁を蹴り飛ばしながら加速していく。
舞い散った破片を拳で殴り飛ばしグレイファントムに飛ばした。
雨のように連続して破片が飛び掛る。
高速の城壁はメタルレプリカの装甲すらも傷つける。
当たればただではすまないはず。
だが、グレイファントムはそれを苦もなく交わしていく。
運動性はバーンと互角・・・スピードではバーン。
攻撃力ではグレイファントムとほぼ戦闘力は互角と言ったところか。
だが、バーンには飛び道具がない。
それは痛かった。ドライバー能力・・・戦闘力に関してでは確実に負けている。
むしろ、今も対等に遣り合っているのが不思議なぐらいだ。
「久しぶりだ。この高揚感・・・どれほどの騎士を魔術師を・・・メタルレプリカを竜を壊そうとも
次第に薄れた情熱が再び燃えるようだ」
完全に戦闘を楽しんでいる。
ラルフ以上の戦闘狂だ。ラルフが結果を求めるなら奴は・・クロヴァスは戦うことを生きがいにしている。
完全に狂っている。狂乱の美少年は灰色の髪を振り上げ叫んだ。
「オレに技を出させろ!そこまで昇れ!!」
「うるせぇ・・・!オレらしくオレらしく・・・」
トールは休むことなく高速移動を繰り返しつつ呪文のように繰り返している。
オレらしくいることを・・・それが強さにつながるから・・・
だが、次第に集中力も限界に来ている。
人間が知覚できる限界以上のスピードで動きつつ一回、当たるだけ即死の攻撃を避けているのだ
普通の精神ではとっくに限界が来ている。
だが、それでも負けられない・・・メルやシャサのためにも・・・
彼女たちを託したみんなの為に・・・彼女たちを護るために・・・
「あれ・・・可笑しくないか?」
トールはグレイファントムの右斜め上から斬りかかった。
だが、それも簡単に防がれてしまう。
そして、直ぐに離れていった。
「どうした?何が可笑しい?オレが可笑しいのは分かっているんだろ?」
「いや、それは分かってるが・・・違う。そうじゃない。オレが可笑しいんだ」
「確かに可笑しい奴だ。戦いの最中に変なことを口走る。そのクセに強い」
「いや、一旦。そこはおいとけ。俺は本来、戦って勝つとかはあまりきにしないんだよ」
「ほぉ・・・だが、勝たねば死ぬぞ?」
「いや・・・勝たなきゃ死ぬのか?勝たなきゃならないのか?」
「自分の国の象徴が崩れ堕ちているんだ。護りきれねばおしまいだ」
「確かにそうだ・・・だが、もしお前を倒せても終わりじゃないだろ?」
「あぁ・・・オレはヴェルフォースの傭兵だ。まぁ、それなりの地位にいるがな」
「だろ・・・それら全部をオレで相手できるかという・・・うん、絶対無理だ」
「なら、諦めて死ね・・・」
クロヴァスはつまらなそうに呟くとバーンに斬りかかった。
実際に切りつけてくるのは始めてだ。
その攻撃のスピードは可笑しいことに衝撃波より速い。
だが、バーンは紙一重でそれを回避する。
「だれが諦めるつった!オレは戦士じゃない。ましてやプライドの為に命なんかかけたくない!」
「ほぅ」
「だから、オレはメルを、シャサを、仲間を護るために・・・退却する」
トールはそういうと一目散に飛び去った。
バーンの最大の利点であるスピードを使って一目散にエ・ヴァルシャに向かって走り出す。
「なっ!貴様!」
それを許すクロヴァスではない。
ブラストブレイドを振るい衝撃波で追い討ちをかけるが当たるわけが無い。
それが分かっているのだろう。
グレイファントムはブラストブレイドを後ろに向かって大きく振るった。
そして、大地を蹴り上げ加速する。
「オレに背を向けられると思ったか・・・自分の判断ミスを呪え」
「誰が判断ミスだ!ここは手前との決着の場じゃないと言っただけだぜ」
「何だと!」
「まぁ、冗談抜きに・・・お前とは決着をつける。そうしなきゃオレは平和を手に入れられないからな。
そして、手前の後ろにいる奴をぶっ潰す!!」
「くっくく・・・ははは。何処までも無謀だな。傭兵集団ヴェルフォースを・・・
そして、大陸最大の宗教オウル教を相手にするというのか?」
「オウル教・・・?はっなんでオウル教が出て来るんだよ」
「何も知らないのか・・・面白い。その言葉を後に後悔させてやりたいが・・・生かす訳にはいかないんでな。
お前が護ろうと言った者・・・それを連れ去るのがオレの任務だ」
「メルを・・・?」
「シャトレーゼ第二皇女。それがターゲットだ」
「良いのか?べらべらしゃべって?」
「お前と話していると何でも話してしまいたくなる・・・なんだろうな。高揚感以外で戦いに感情が
生まれるなんて初めてだ」
「お前・・・」
友達、絶対にいないだろうと言おうと思ったがやめた。
別に言っても通じないし意味が無い。
オレがお前の友達になってやるなんて言えるわけが無い。
相手は敵なんだ。
容赦なんて出来ない。出来る相手じゃない。
威圧感からして違う・・・あいつは自分が見てきた世界なんかちっぽけに感じてしまうほどに強大だ。
今だって全力のどれぐらいを出しているのか分からない。
「逃げるとはいったものの・・・振り切れない」
バーンの最大スピードを持ってしてもクロヴァスは依然として振り切れていなかった。
そのため、エ・ヴァルシャもスピードを落とせないので追いつかない。
どうにかしてクロヴァスを黙らせなければならなかった。
が、この状況では無理難題だ。
バーンの攻撃力でグレイファントムを黙らせるものなんて・・・
「待てよ・・・ラスク!」
「今、ドラゴンキラー撃ち出したから」
「ナイスだ!」
バーンのモニターにドラゴンキラーの文字が浮かび上がる。
どうやら、空中でのキャッチも想定されているらしい。
システムがそこへと導いてくれる。
「ようやく、本気か?」
「い〜や、これは最後の最後の奥の手だ。お前は本気出すなよ!」
バーンはドラゴンキラーを空中でキャッチすると反転し狙いを即効で決めて打ち出した。
電磁力で加速された弾丸が空気を貫きその実体を完全に光と換えて突き進んだ。
「!!」
グレイファントムはその威力を見切ると完全に回避する。
「嘘だろ・・・」
「勝負あったな・・・鬼ごっこはオレの勝ちだ」
グレイファントムがもう目前まで迫っていた。
空で青き稲妻と灰色の閃光が対峙する。
バーニアで軌道変更が出来るとはいえエアロウィングを搭載してないバーンでは飛ぶことは出来ない。
ほぼ無防備といっても過言ではない。
もはや・・・
「死ぬも生きるも・・・いいや!生き残る!」
バーンはドラゴンキラーをそのままグレイファントムに突きつけた。
「その覚悟気に入った!」
二機が正面から対峙するグレイファントムのブラストブレイドはギリギリ届かない。
だが、衝撃波で確実に粉砕される。
リーチから逃れるために最大出力で後方に下がったためにこれ以上の軌道修正は不可能。
後はドラゴンキラーにかけるしかない。
「竜殺砲撃!受けろよドラゴンキラー!!」
閃光が世界を支配する。
膨大な熱と衝撃が空気を突き破っていく。
鋼の巨人と鋼の巨人の戦いは凄まじく残された大地は完全に瓦礫と化していた。
圧倒的な力・・・そこに言葉が入る余地などない・・・
まるで力に支配されたかのように戦士たちは互いに殺しあう。
それが本来あるべき姿かのように・・・
「・・・というか。よく死ななかったよね」
トールとクロヴァスの戦いの一部始終を見守っていたシャサは全身を激しく打ちつけたものの生死に別状なしの
トールを見て呟いた。
「まぁ、あんな無茶な戦いをするとは思わなかったけどね・・・」
ラスクは最後の真っ向勝負を思い出し呟いた。
普通なら死んでいる。
あれだけ真っ向勝負は避けろと助言しておいて最後は結局そこに行くんだから意味がない。
「でも・・・お兄様だけでも無事でよかったです・・・」
メルが神妙な表情で呟いた。
「そうそうオレだけでも・・・ってオレだけ?」
全身にシップを張られた情けない姿のトールはあたりを見回した。
そこにはその場にいる四人の姿しかない。
「後は?」
「いないよ」
「ビーン先生は?」
「レイ皇女を助けるから先に行ってろ行ったきり」
「レイ皇女は?」
「もちろん。ビーン先生が助けに行ったんだからいるわけない」
「・・・確か全員無事とか言ってなかったか?」
トールはシャサをにらみつけた。
確かにあの時はそう聞いた。
「言ったよ・・・でも、そうでもしないとトールはあの場に残ったよね?」
「うっ・・・あぁ・・まぁな」
トールがそういうとシャサはトールの胸に抱きついた。
「やだよ・・・私、トールがいなくなるの」
シャサはトールの胸に顔を押し付けて必死に腕に力をいれている。
そうまでしないとトールがどこかへ行ってしまうかのように。
「シャサ・・・」
「それにトールがいなきゃメルが護れないからね。お前だけぞ、この中で戦えるの」
ラスクにそういわれてはっとする。
確かにこの中で戦力はバーンのみ・・・戦えるのはトールのみ・・・
「それにさ・・・皆、お前に託してた。ビーン先生は、レイ皇女やラルフ大佐だってお前に託したさ」
「でも・・・オレはあいつに勝てなかった。ラルフの敵すらとれなかった・・・それなのに」
トールはなんだかんだ言っても気にしていた。
完全に自分の完敗だ。
最後は自爆覚悟でどうにかなったがあれで次も生き残れるわけが無い。
自分らしくやって余裕をこいてたが・・・恐かった・・・
まるで死が自分の横をギリギリで通り抜けていくかのようだった。
むしろあの目ににらまれたらそれだけで心臓が止まってしまいそうだった。
それでもなんとかオメオメと生き残ったが・・・
「そんなこと無いです!」
メルが叫んだ。
それにトールは驚きほうける。
「お兄様がいなければメルはここにいません・・・お兄様がいなければ反撃する機会も無いまま捕まってました。
お兄様がいなければ・・・メル・・・戦えません」
メルもトールに抱きついてくる。
トールは小さな少女、二人を見下ろした。
「・・・分かった。どれだけやれるかなんかわからない・・・でも、決めたからには全力だ。
シャトレーゼを取り戻しレイ皇女を助ける・・・そして、あいつを倒す!」
トールは新たなる決意を心に決めた。
それこそが力だから・・・それこそが強さだから。
ちっぽけな力しかない自分たちの最大の力になるのだから・・・
もはや先など一切見えぬ未来を見つめトールは開け始めた空を見つめていた。
その夜明けの青はまだまだ初々しく・・・それこそが今のトールなのかもしれない。
漆黒の闇夜に包まれた世界に夜明けを・・・そして、全てを青空へと変える為に・・・
彼らの戦いが幕を開けた・・・
空を翔る鋼の鳥の群れは
青き稲妻にひと時の安らぎを与える・・・
風の翼を広げ空を翔る鋼の翼竜
引き離される仲間たち・・・
そして、新たなる出会いと向かい合う日常
何を求めて戦うのか・・・?
何が求めて戦いが起こるのか・・・?
大いなる戦いが始まる・・
機 鋼 神 王
第二章
空、近く
空に近い国に青い稲妻が舞い降りる