鋼の鳥たちが巨大な風の翼を開き群れをなして飛んでいた。
それこそは空艇と呼ばれるホライゾンに存在する飛行用機械だ。
そして、空を我が物とするかのように雄雄しく編隊を組むそれこそが空艇師団ガルウィング。
東の大陸ローザンヌで最強の空戦戦力と呼ばれている部隊である。
その鋼の鳥たちの狭間で風の翼を広げた人が戦っていた。
いや、それは人ではない。
人の形を・・・正確には機鋼と呼ばれる生命体の形を象って作られた機械。
メタルレプリカは広大なる空という空間を飛び交い己の力をかけて激突していた。
一機は空艇師団で使われている空中戦闘用メタルレプリカ空式。
エアロウィングを搭載させるために作られたそれの空中での機動性は他国を圧倒している。
量産型ではあるもののその性能は決して低くは無い。
シャトレーゼのコモナイトとは比較にならないほどの高性能機だ。
それと対峙するは青いメタルレプリカだった。
見た目にも高機動戦用であることが分かるほどに軽量化されたボディ。
武装も腰に装備されたチェーンダガーと固定式の機関砲のみのシンプルなものだ。
いうなれば高速での格闘戦に特化した機体である。
その機体の名はワイバーンと言った。
かつての名はバーン・・・
風の翼という翼を得た鋼の翼竜である。
ワイバーンは青い空をまるで自分のものであるように飛翔する。
流れる雲、照りつける陽光、静寂にみえ幾層にも折り重なる風の層・・・
全てがワイバーンの為に存在するかのようだった。
新たにつけられたとは思えないほどに翼を自由に扱い。
目の前の敵と戦っている。
いや、もはやそれすらも眼中には無いかのようだった。
その目に映るのは広大に広がる青い世界・・・
ワイバーンの中で青い髪と空色の瞳を持つ青年は視覚が全てを青に染めている。
「空・・・まるで全てのしがらみが消えてしまうような気がする」
トールはまるで幼い日に母に抱かれる安らぎを思い出しているようだ。
この世界の半分を構成するそこでワイバーンは羽根を折りたたみ落下していった。
突然の奇行に模擬戦の相手であった空式は驚き近づこうとする。
もちろん、助けるためだ。
エンジントラブルを起こしたのかもしれないし何か突発的なもので気を失ったのかもしれない。
いずれにしてもほうっておくには危険だと判断したのだろう。
だが、空式が近づくよりも先にワイバーンは風の翼を再び広げた。
エアロウィングは文字通り大気を翼に変える。
つまりは風を自由に操り機体を浮かせるのだ。
だが、いくら何でも何tもあるメタルレプリカを浮かせるにはかなりの力が要る。
それも落下し加速がかかったそれを浮かせるには相当な出力が必要なのだ。
落下速度からしてワイバーンは完全に浮かび上がるまでに相当、落下することになるはずである。
だが、ワイバーンはそんな法則を無視したかのように簡単に浮かび上がった。
それの光景を空式のパイロットは驚愕の表情で見つめていた。
そんな視線を無視して再びワイバーンは上昇していく。
「バーン・・・いや、ワイバーン。これからもよろしく頼むぜ・・・相棒」
機 鋼 神 王
第二章
空、近く
第八話
鋼の鳥の群れ
トールたちがエ・ヴァルシャに乗りシャトレーゼから逃亡して二時間後
「そういえば俺たちって今、何処に向かってんだ?」
トールがモニターに移る豆粒のような家並みを眺めながら呟いた。
対比物との差が激しいためか今一、凄い速さで飛んでいる気がしない。
トールがバーンに乗って高速で戦闘しているのもその原因ではあるが。
実際には航行に入っているエ・ヴァルシャの速度はバーンの最大速度よりも速い。
当然といえば当然なのだが。
「とりあえず西に向かってるけど・・・行く当てないんだよね」
ラスクが難しい顔をしながら地図を眺めている。
シャトレーゼは東の果ての国だ。
東に逃げたところで海がひたすらに続いた後に世界の果てがあるだけである。
当然、逃げるなら東以外、ということで西に逃げたのだが・・・
地図には幾百もの国名が書きつずられている。
ローザンヌは大雑把に言えば楕円形をした大陸だ。
その広大な土地内には膨大な数の国が乱雑に存在している。
それら全ての国の歴史は全て永遠の忘却と呼ばれる大戦までさかのぼる。
何時始まったのかも何時終わったのかも、そして、どんな戦いが行われたのかも全て謎の戦い。
だが、確実にそれは行われその時に国の境界線がしかれたことだけは分かっていた。
それからは世界のどこかで紛争が続いているもののそれなりに平穏な日々が流れていた。
シャトレーゼも小国ながらそれなりに隣国とは交易を行っている。
だが、そのつてを頼るのも危険だ。
ヴェルフォースの息がかかっているとも分からない。
「つうか・・・本気でどうしよう」
ラスクは頭を悩ませた。
本気で行くあてなどない。
二人とも交流なんてシャトレーゼ内だけだ。
更にそれも故郷のサンズ村周辺にほぼ限られている。
「気になるんだが・・・俺たちの今してることって領土侵犯だよな」
「言うなら領空侵犯だけどね・・・結局、断りもなしに他国に入ってるのは変わらないよね」
トールとラスクの顔が青くなる。
これではヴェルフォースに反撃するよりも先に他の国に捕まってしまう。
「あぁ!!どうすりゃいいんだよ!」
「しぃ、二人とも寝てるんだから起こしちゃダメだよ」
ラスクが言うとおりシャサとメルはぐっすりと眠っている。
疲れていたのだろう。
あまりにも多くのことがありすぎた一日だった。
あの日の始まりにはまだ、シャトレーゼにいて城内をラルフに追い回されていたとはとても思えなかった。
一瞬の出来事で世界がまるで変わってしまった。
そして、住み慣れた場所を離れまるで知らない場所へと飛び出そうとしている。
トールとラスク、二人とも他国に付いての知識などほとんど無い。
テレビでほんの少し耳にする程度だ。
それもそれらほとんどは大国や隣国であり、それは世界のほんの少しの部分でしかない。
「いっそのこと、西の大陸まで逃げるとか」
「どれくらいの距離があると思ってるんだよ。絶対にエネルギーが持たない」
「分かってるよ」
鋼力エンジンとて無限にエネルギーを供給するわけではないのだ。
いずれ、力尽きて落下してしまう。
今のエネルギーでは大陸の端まで行くのも無理だろう。
「はぁ・・・勢いよく出てきたものの・・・どうするか」
「・・・ん?レーダーに反応が・・・」
ラスクは突然、レーダーに何かが映り驚いた。
そして、次第に顔を青ざめていく。
レーダーに現れる反応の数が尋常じゃない。
最初は一つだった光の点はまるでネズミ算式に増えていく。
二人は前方のモニターを見るとその視界の先には巨大な空艇が群れをなして飛んでいるのが見えた。
「・・・・マジですか?」
そこは巨大な空間。
様々なモニターが列をなしひしめき合い様々な情報を映し出している。
それを大量の人たちが制御し確認していた。
鋼鉄で囲まれた大広間の中心、高くせりあがった場所にある椅子に一人の少女が座っていた。
年のころは12歳ぐらいだろうか・・・
短めの髪だが、少女特有の幼い顔立ちに大きな瞳が印象的な美少女だ。
忍びの装束に似た服の上に陣羽織を羽織っている。
「接近中の機体・・・?我々、空艇師団に近づくとは何処のバカなのだ?」
少女は呆れた表情でモニターに写る一隻の機影を見つめている。
その表情はいかにも退屈でしょうがないというものだった。
「識別信号照合完了しました。あれはシャトレーゼ皇国の脱出船ですね」
少女の横に佇む真面目な表情の青年が受け取ったデータを見て言った。
その全身から発せられるオーラは何人にも近づきがたいものである。
表情も硬く話しかけても無視されてしまいそうな感じだ。
「シャトレーゼ・・・?知らんな」
「ちゃんと資料を読んでください。奴らの作戦目的地の国です」
男が淡々と告げる。
どうやら、彼は副艦長と言った立場らしい。
「何だと・・・では・・・」
それでこの椅子に座っている少女が艦長ということになる。
普通なら立場は逆・・・というかこんなに最新鋭の設備が整った司令室にいることすら似つかわしくない。
「最悪の事態もありえます・・・今から尋ねましょう」
男がそういうとモニターに青い髪の青年と少女のような顔をした少年が映った。
「こっちの通信装置に強制割り込み。遮断・・・しても意味ないよね」
ここで拒絶して敵対していると勘違いされたら一巻の終わりだ。
百隻近い・・・それも一隻一隻がエ・ヴァルシャよりも巨大で戦闘装備も整っている。
これを落とすにはシャトレーゼの全戦力を合わせても無理だろう。
そんなことをラスクが考えているとモニターに一人の少女と青年が映し出された。
「通信士か?」
トールがぼそりと少女を見て呟いた。
その一言が聞こえたのか少女の表情が見る見るうちにこわばっていく。
「何だと!うつけ者めが!貴様、我が世界最強と謳われし空艇師団ガルウィングを束ねし
サラサ=シロガネ少将と知っての狼藉か!?」
少女が凄まじい剣幕で怒鳴り声を上げる。
よっぽど通信士に間違えられたのが悔しかったのだろう。
「知らん」
トールはきっぱりと答えた。
それは本当のことだとしても言ってはいけないと思われる。
「き・・・貴様ぁ・・!!えぇい、我慢ならん!あんなハエなど撃ち落してしまえぇい!!」
サラサは立ち上がると手に持ったセンスを前に突き出し命令を下す。
幾らなんでも理不尽な。
「無茶苦茶言ってるぞ、おい」
「もぉ、こういうときは嘘でも下手に出なきゃ」
少し驚いているトールの横で冷静な表情でラスクがツッコミをいれる。
「サラサ様は黙ってください」
「ぐっ」
サラサの横にいる男が一言でサラサを黙らせる。
サラサは渋々、椅子に座りなおした。
「申し訳ない。私はエアーズ空艇師団の副艦長を務めるファルク=ウィズレイ大佐だ。では、話を伺おうか?」
青年は言葉では謝っているが態度は全くだ。
まるで格下のものを見るような目つきで二人を見ている。
それに二人は少し反感を覚えるものの気にしてもしょうがないと思い直し口を開いた。
「僕たちはある事情でシャトレーゼから脱出してきたものです。僕はシャトレーゼ皇国軍技術者ラスク」
「オレは皇国軍戦隊所属トール少尉だ」
二人がそれぞれの立場を明かした。
「技術者と少尉・・・脱出というとシャトレーゼは陥落したのですか?」
「陥落・・・しました。つい先ほど」
「なるほど・・・それでは情報が回っていない理由は分かる。ところで皇族の生き残りは?」
ファルクはまるでにらむかのような目つきで二人に尋ねる。
その口調から何かを探っていることは明らかだった。
もしかしたらこいつらも敵ではないのかと思えてくる。
「あぁ、それなら・・・」
「トール、迂闊に答えるな」
「迂闊にって・・・教えないのか?」
「灰色の・・・クロヴァスとかいう奴の話を聞いただろ?ヴェルフォースはメルを狙ってるんだ。
多分、メルには何らかの秘密がある。簡単に喋っていいことじゃない」
「確かにな・・・まぁ、でももしあいつらが敵ならどうしようもないけどな」
トールはレーダーに映っている機影を見て呟いた。
前述どおり百隻近くいながらもこちらよりも一つ一つがでかいのだ。
それにメタルレプリカだって搭載しているだろうしバーン一機でどうにかなるわけが無い。
「うっ・・・確かに」
「だったらさ・・・敵でも何でもいいから中に入るしかないんじゃないか?」
「中に・・・?どうやって?」
ラスクが怪訝な表情を浮かべる。
トールの言うことだからどうせ突撃しろとか言うに決まってるとか思っているのだろう。
「・・・あいつらが敵ならメルの名をだせば迎え入れてくれるはずだ。こっちは何にも知らないと思っているだろうから
確実性があって尚且つ損害が出ないやり方を優先するならな」
トールのその言葉にラスクは驚いた。
まさか、トールにそんなことを考える頭があったとは・・・
意外と頭が回るらしい・・・それに危険を顧みずに決断を下せる度胸もある。
それらを鍛えることが出来れば大きな力となるかもしれない。
「・・・賛成。僕もその案でいくよ。まぁ、失敗したときはしたときで・・・」
「そのときは全力で生き抜くことを考えるだけだな」
「・・・本当に考えてるのか考えてないのかわからない・・・」
ラスクはせっかく褒めたのに直ぐにそれを撤回した。
やっぱり、何も考えてない。
「どうした・・・?返答しろ」
ファルクは明らかに不信そうな表情で二人を見つめている。
「一人・・・皇族が乗っています」
ラスクが口を開いた。
決意はしている。そのときはそのときだ。
「一人・・・誰だ?」
「メル=シャトレーゼ」
トールがその名を出すとファルクの口元が少し緩んだ。
その僅かな反応をラスクは見逃さない。
「(ビンゴ・・・かな?でも、メルについて何か知ってるのは事実だ)」
ラスクは表情を変えずに思考する。
メルに興味があるのならこのまま中に入れさせてもらえるはずだが・・・
「了解した・・・皇族ともなれば丁重に扱わねばならんだろう。そのまま機体を進ませ中心にある戦艦。
キングオブエアーズまで運べ」
ファルクがそう告げるとエ・ヴァルシャのレーダーにマーキングが表示される。
データが送信されてきたようだ。
そこで通信は途絶える。
最後までサラサはむすっとした表情のままだった。
「さぁて、後は鬼が出るか蛇が出るか?」
トールは少し不安げな表情で呟いた。
声はあえて弾ませているが表情は固いままだ。
メルを危険にさらしてしまうのが嫌なのだろう。
直接ではないがメルはビーンやレイから託されたのだ。
それを護りぬけねば彼らに会わす顔は無い。
「後は僕たちの立ち回り次第・・・なのかな?」
ラスクは本当にワクワクとした様子で呟いた。
エ・ヴァルシャは出力を上げて艦隊の中を突き進んでいく。
エ・ヴァルシャを通すために何隻かが横に移動している。
エアロウィングやトルネードウィングと呼ばれる大気を制御し飛行する空艇の周りは
メタルレプリカのエアロウィングの周りとは比較にならないほどの強風が発生している。
更にここまで巨大な船が何隻も寄り添っているのだからエ・ヴァルシャなど吹き飛ばされかねない風が吹いている。
風というかほとんど嵐なのだが。
だから、コースを下手に外れると墜落の危険性もある。
まぁ、向うの戦艦から出ているビーコンどおりに進んでいるんだからそれはありえないはずだが。
「・・・なぁ、あの目の前にあるのがキングオブエアーズとか言う船なのか?」
トールはモニターとレーダーを交互に見直し呟いた。
「・・・そのはずだよ・・・はは」
ラスクはモニターを見つめながら乾いた笑い声を上げた。
目の前にはまるで城のような大きさの物体が飛行している。
だが、トールたちにはそれがあまりにも大きすぎて実感がわいてなかった。
だが、そのキングオブエアーズの前にある空艇と比べれば一目瞭然だ。
・ ・・でかすぎる。
全長は二キロほどはあろうか。
巨大な風の翼はまさしく嵐であり空間を歪ませているかのようだった。
見る限りでも側面にはびっしりと砲塔が載っている。
メタルレプリカ用のカタパルトもいくつも存在している。
どれだけの数を搭載できるのかは知らないが・・・
一体、何個師団分のメタルレプリカが搭載されているのだろうか?
「・・・アレ一隻でシャトレーゼよりも強いね」
「・・・全くだ。自分の住んでいた世界がどれだけちっぽけだったのか改めて実感できるな」
二人はあいた口がふさがらないという様子だ。
最強と呼ばれる理由が一目で理解できる。
エ・ヴァルシャはキングオブエアーズの第一格納庫へと通された。
そこはキングオブエアーズの下部に存在しリフト式となっている。
そこに着陸したエ・ヴァルシャはそのままリフトで上へと上がっていった。
「エ・ヴァルシャがまるでゴマ粒だったな」
「そこまでの対比はないけど・・・」
ちなみにエ・ヴァルシャは100mほどの空艇だ。
2Kと比べれば20分の1ほどの大きさである。
人間の感覚で言えば人形ほどの大きさしかないというわけだ。
というかキングオブエアーズは空艇というよりも空飛ぶ要塞だ。
「しかし・・・これほどの戦力が何で飛んでたんだ?」
「さぁ・・・?どこかで戦争をやってたのかな。何隻か損害が見られたし・・・まぁ、これは無傷っぽかったけど」
キングオブエアーズまでたどり着いてこれに傷をつけるのってどれほど大変なことだろうとトールは思考してみた。
まぁ、まず間違いなくバーンでは不可能だ。
空艇一隻落とせるかどうか・・・といったところか。
「まぁ、それよりも早く行こう」
「・・・っと、そうだな」
二人は急いでエ・ヴァルシャの出口へと向かっていった。
ハッチを開けて外に出るとそこには銃を構えた兵士がずらりと出迎えをしてくれた。
数は10人ぐらい・・・殺気は無いものの銃口は確実に威圧感を放っている。
予想済みの二人は大して驚かずに前へと進み出た。
そこには先ほど通信で話をした相手が出迎える。
全身から威圧感を放つ男は身長はトールよりも少し高くて185cmほどだろうか。
長身に部類されるほうの人間だ。
ラスクなど完全に見下ろされている。
「ファルク=ウィズレイ大佐だったっけ?」
「そうだ、トール少尉。ところでメル=シャトレーゼ皇女は何処だ?」
「中でぐっすりと眠ってるよ。色々とあって疲れてるんだ」
「なるほど・・・」
「で、どうすればいい?何か目的があるんだろ?」
トールは直球で尋ねた。
それにラスクは驚いてトールのほうを向く。
「トール!?」
何考えてんだお前はという表情で叫び声を上げた。
ほとんど挑発しているようなものだ。
「で、何が目的なんだ?タダで保護してくれる訳が無いよな」
「・・・・・・ふふ、面白い男だな。君は」
「おう、よく言われるぜ」
主に可笑しいと。
「君たちの国・・・シャトレーゼを襲撃したのはヴェルフォースだな」
その言葉に二人は驚いた。
トールはラスクから、ラスクはビーンから説明されている。
この大陸最強の傭兵集団・・・
最強の称号を持つ傭兵王ヴェルの下に結成された傭兵のギルドである。
その全ての決定権は金であり。
それに応じて契約をとり、契約者との間には違反が無い限り従順する戦士たち。
そこに所属するものは皆、各国の兵士よりも高い錬度をようし一種のブランドと化している。
何者かが彼らに依頼しシャトレーゼを襲撃したのだ。
誰が依頼したのかはわからないがヴェルフォースでもトップである者たちが動くほどに強大な組織であることは間違いない。
「何故?」
「我々にも我々の情報網がある。近頃、ヴェルフォースの過半数がとある組織に雇われ作戦行動をとっていた。
過半数ともなれば国際問題にも発展しかねない事態を想定せざるを得ないのでね」
これほどの空艇師団を持ちながらも過半数で警戒させるほどの組織・・・
段々と話が大きくなりすぎてトールとラスクは難しい顔をしていた。
はっきり言って付いていけない。
「詳しい話はブリッジで聞こう。メル皇女を連れてきてくれ」
「ブリッジ・・・いいのか?そんな重要な場所に連れていって?」
ブリッジといえば空艇の中枢部分だ。
ここを制圧してしまえばどんなに大きな空艇でも配下における。
いわばコックピットのような場所である。
「君たち程度で制圧できるほどにやわではない。それに・・・ことがことだ。ここではな・・・」
ファルクがそういうと威圧感を発した。
まるで回りにいる者たち全てを警戒しているかのように・・・
そう、この場にいる兵士すらも信用していないのだ。
相手がヴェルフォースなら当然といっても良い。
「・・・分かった」
今は従うしかないと判断したトールは頷いてエ・ヴァルシャ内へと戻っていく。
エ・ヴァルシャの皇族用の私室。
城内のそれと比べればたいしたことは無いが脱出船内とは思えないほどに豪華だった。
カーテンに閉められた巨大なベッドの中で二人の少女が寄り添い会うように寝息を立てている。
トールはカーテンを開けると枕元においてある台座方の時計のスイッチを入れた。
音楽が流れ出す。クラシック系の静かな曲調だ。
聞くだけで逆に眠気を誘うような音だがメルはまぶたを開けて起き上がった。
「ふぁ・・・・おはようございましゅ・・・お兄様」
メルは眠気眼でトールを見上げて挨拶をした。
寝ぼけているのか落ち着いたのかはわからないが何時もの様子だ。
「おはよう。・・・で、こいつはまだ、眠っているのか?」
トールはよだれをたらしながら爆睡し続けているシャサを見下ろし呟いた。
まぁ、トールもあれで起きる自信がないので罵りはしない。
「おい、起きろ」
トールはシャサの肩をゆすった。
「ダメだよトール・・・いたずらしないでぇ」
「しねぇよ!とっと起きろ」
「えうぅ・・・そんなにあたしが可愛いからって・・・していいことと悪いことが・・・」
シャサの夢の中ではトールは完全にロリコン扱いされている。
妙にむかついたトールは腕を振り上げるとその小さな頭に思い切りチョップをかました。
「えぅ!」
シャサは悲鳴を上げ頭を抑えながら起き上がった。
「えうぅ・・・おでこが痛いよ」
「うっせぇ、とっとおきろ」
トールがそういうとようやく、目が覚めたメルが驚く。
「どこかに付いたんですか?」
「あぁ・・・まぁ、安心していいかは分からんが」
トールは苦笑いを浮かべた。
それにシャサとメルは顔を見合わせ疑問符を浮かべる。
トールたちはキングオブエアーズのブリッジへと通された。
どうやら、あの第一格納庫はブリッジへの直結エレベーターが存在する格納庫らしい。
緊急用のものなのだろう。
やたら当たりは色々な機械に埋め尽くされていた。
それを目の当たりにしてラスクの目の色が変化する。
「うわぁ・・・最新型のコンピューターがこんなに沢山!それにあれはルナレクト型擬似人格コンピューター。
それにあっちは・・・あぁ!!最新型のホログラム装置がある」
ラスクは狂喜乱舞という表情で叫び始める。
そして、走り出した。
一部の兵士が驚いて止めようとするがあまりの速さに追いつけない。
トールは知らぬ存ぜぬという様子で目をそらした。
「動力源は世界最大と言われるジャネクス型鋼力エンジン。それにファクトル精霊変換機が四基もついてるよ。
質量改竄術式に対魔術術式、重力子変換術式、光子反射術式まで付いてる・・・。
トルネードウィングも最大出力と名高いエアーズ型・・・。
武装もショウロック式の電磁加速砲を100門!自動追尾型精霊反応ミサイルに粒子加速ミサイルもついてる・・・」
ラスクが勝手にコンピューターをいじってスペックを閲覧を開始する。
場所を乗っ取られてしまった兵士はプロテクトがかかっている筈のスペック項目を閲覧し始めたのに驚いている。
エアーズでも最新のプロテクトのはずなのに・・・
「それに・・・」
「いい加減にして下さい」
ラスクの後ろクビに鋭利な刃物が突きつけられた。
その瞬間、ラスクの動きがピタリと止まる。
流石に死を直感したらしい。
トールはその様子を見てあの暴走状態を止めるとは驚いていた。
「それ以上、勝手な行動をとった場合はそれ相応を罰を下します」
ラスクの後ろに立つ男。
しのび装束を纏った40歳ぐらいの男だろうか・・・声からして。
頭巾をかぶっているために顔がよく判別し辛い。
その忍者から殺気が放たれている。
それ以上やれば殺すぞと無言で訴えていた。
ラスクは恐る恐るキーボードから手をどけるとそそくさとトールたちのほうへと逃げてきた。
「お帰り」
「・・・ただいま」
冷や汗を全身にかいたラスクは生きているのを確認するように手を握ったり開いたりしている。
「何だ何だ!ヴェルフォースについての情報が聞けるってんで来て見れば・・・ガキが四人とはな」
突然、天井から声が聞こえる。
驚いて上を向くと天井に逆さで立っている忍び装束の男がいた。
黒い髪に赤いメッシュを入れたしのび装束を着込んでいる。
年齢は20代後半といったところか。
男は天井から降り立つとシャサとメルをにらみつける。
二人は突然、天井から降りてきた奇人ににらまれてビクビクと震えている。
しばらく、男は二人を眺めている。
「ガトア!」
ファルクが怒鳴ると男はハッとしてごほんと咳払いをした後にファルクのほうへとかけていく。
「ファルク、四天王を二人もよんだのか?」
サラサが上から降ってきた。
さっきのように天井にぶら下がっていたわけではなく上にある席から降りてきたのだが。
それでも5,6メートルもあるのに平然としている。
「考えあってのことです」
「ふむ・・・ファルクが言うのならばそうなのだろう」
サラサはあっさりと納得している。
トールたちはそんな忍者たちを見て呆然としていた。
「面を食らってるようだな青いの」
サラサは嬉しそうな笑みを浮かべて言った。
さっきのことをまだ、根に持っているらしい。
「だれが青いのだ」
青い髪に青い瞳、更には青色のジャケットに紺のズボンをはいといて言う台詞ではない。
「では、話をする前にお互いに名を知らないのではしょうがない。私たちは先ほどしたな」
ファルクがそういうとさっき、ラスクを打首にしようとした忍者が前に出た。
「シロガネ流上忍ダムド=ファーケンです。エアーズ軍空艇師団右翼長を務めています」
赤メッシュの忍者が腕を組み口を開いた。
「オレはシロガネ流上忍ガトア=サイグウだ。エアーズ軍空艇師団の左翼長にして階級は少佐だ」
その自己紹介にトールは疑問を持ち口を開く。
「シロガネ流上忍って何だ?」
エアーズ軍の空艇師団に所属する軍人だということは分かったがそれが分からなかった。
それにトールたちには見慣れない服装をしている。
「あぁ!お前、忍者を知らないのか!?」
ガトアがあからさまに挑みかかるような視線をぶつけてくる。
「ガトア!」
ダムドに怒鳴られるとガトアはつまらなそうな表情で頭をかいた。
「私たちはシロガネ流という流派に所属する忍者・・・君たちに分かるように言えば諜報部と暗殺者のようなものかな」
「えっ・・・そんな奴らがこの船を操ってるのか?」
トールはあからさまに驚いている。
それもそうだ。諜報部や暗殺者は影の仕事。
こんな大見得切ったような仕事をしているとは思えない。
「エアーズは忍者の一族が優遇されているのです。能力的に見ても我々は一般兵よりも優れています」
ダムドがそういうと突然、消える。
そして、トールの後ろに現れた。
「なるほどね」
トールは驚いた表情を見せずに後ろを向いた。
ラスクは少し驚き、メルとシャサにいたって声を上げて驚いている。
「ふっ・・・中々、いい眼をもっている」
ダムドは少し驚いていた。
忍者は足に魔力を発生させ爆発的な加速により走ることが出来る。
常人なら目で追うことすらも不可能な速さだ。
だが、トールはダムドの動きを完全に目で追っていた。
それに動こうと思えば動けたことを加えておこう。
「動体視力には自信あるんだ」
トールは得意な表情で言った。
「そのぐらいにしておけ。本題に入りたい」
ファルクは静かな口調で言った。
だが、明らかに威圧感が含まれている。
「では、本題に入るとしよう。私たちは独自の調査によりヴェルフォースがとある者を求めて作戦を開始したのを
突き止めた」
「エンシェントか?」
トールの問いにファルクは静かに頷いた。
「お前たちは知っているのだな。メル=シャトレーゼがエンシェントであることを」
「ばっ!」
トールは驚き声を上げる。
メルは自分がエンシェントであることを知らない。
そう、知らないのだ。
そのことはゼンとレイにより完全に隠蔽されていた。
よってメルがエンシェントであることは誰も知りえないことだった。
ビーンとシャルドゥという例外を除けば。
二人はそれをビーンから知らされそれが原因でシャトレーゼが狙われたことを知っていた。
そう・・・原因はメルなのだ。
「・・・どういうことですか?」
メルの表情がこわばる。
エンシェント・・・知らない言葉。
だが、それを聞いただけで何故か不安になってくる。
「知らないのか?」
「あぁ」
ファルクは少し表情を曇らせる。
それが何を意味しているのか分かったらしい。
「・・・どういうことなんですか?エンシェントって何なんですか?」
メルは驚いて声を荒げて叫んだ。
自分に何があるというのだろう。
シャトレーゼの皇女であるというほかに何かあるというのか?
そして・・・それが何故、この場で話される?
疑問は増大して張り裂けそうになる。
「あのな・・・メル。それは・・・えっと・・・」
トールは困り果てていた。
なんとしてもそれがシャトレーゼ襲撃の原因だとは悟られてはいけない。
だが、自分自身もエンシェントというものが良く分かっていない。
それに上手い言い訳が見つからなかった。
「エンシェントはメタルレプリカと同調しその性能を引き出せる異能者のことだ」
突然、混迷とした空気の中に答えが投げ出される。
それは静寂を辺りもたらした。
「・・・それが私?」
メルの問いに答えをもたらしたもの・・・サラサが頷く。
「そうだ。そして、ヴェルフォースはその力を狙ってシャトレーゼを襲撃した」
何の取り繕いもなしにストレートに答えを言い渡す。
「それじゃあ・・・私のせいでシャトレーゼが・・・?」
メルはわなわなと体を震わせてその両手を見た。
自分がいけないのか・・・?
散々、迷惑をかけた挙句に自分のせいで国が無くなった・・・
自分を愛してくれた父も姉も・・・そして、見守ってくれていた主治医さえも・・・
炎と消え、安らぎの場所を瓦解させた・・・
全て・・・自分がいけないのか・・・
自分が・・・自分は生きていていいのだろうか?
「いやぁぁあぁぁぁぁあ!!」
メルは涙を流し絶叫するとそのままふらっと仰向けに倒れる。
それをトールが支えた。
「・・・メル?」
トールは恐る恐る首筋に触れる。
脈はある。
死んだわけではないが気絶したようだ。
一瞬、ショック死でもしたのではないかと心配になったがそうではないらしい。
発作でもないのが幸いだが精神的に堪えたようだ。
「ラスク・・・少し」
トールがそういうとラスクはメルを背中から支えた。
シャサは心配そうな表情でおろおろと見守っている。
トールは静かに立ち上がると奥歯を噛み締めた。
そして、拳に力を込めて一気に床を蹴り上げる。
「てめえぇ!!!」
怒りを任せに拳を振り上げた。
そして、そのまま目の前にいるすました表情の少女へと殴りかかる。
だが、彼女に届く前にトールの体は宙を舞っていた。
そして、そのまま数メートル吹き飛んで床の上を転がっていく。
「うつけ者が!貴様のような素人が我に触れるものか」
サラサはトールを見下ろし一喝した。
トールの拳が届く瞬間にサラサはその腕を掴かみその力の方向を軽く変えた。
合気道と呼ばれる護身術だ。
体格差など一切、関係ない。
技を使い相手の力を利用して投げ飛ばしたのだ。
あれだけふっとんだのはそれだけトールが本気だったからと言える。
「くっ・・・手前。言っていいことと悪いことがあるだろ!」
トールは体の痛みを耐え立ち上がり叫んだ。
許せなかった。
繊細な少女の心を踏みにじるような言葉が。
それも似たような年の少女が発したことが。
暴力に走ったのは自分の短気だと反省するがそれでも許せない。
「・・・お前は何も分かってない」
「何だと!」
声を荒げるトールに比べてサラサの口調はとても静かだ。
だが、その言葉に込められた重みは全然、違う。
「この娘は消しようも無い重いものを背負っているのだ。それを幼いから弱いからという理由で伏せておくことが
この娘の為になるとでも思うとるのか?自分の直面した事態を知らせもしないで何とかするつもりか?」
サラサの目はまるで全てを吸い込むかのような威圧感を発している。
トールはその瞳にたじろいでいた。
自分よりも年下なのに・・・その言葉の重みはあまりには重い。
「ふざけるな!!」
サラサの怒声がブリッジに響き渡る。
トールは驚きすくみあがった。
威圧感が違う。自分よりも小さな少女が自分よりも圧倒的に大きく見える。
そんなサラサを見てファルク、ダムド、ガトアは神妙な表情をしていた。
「それら全てを踏まえて人なのだ!自分のことを知りもせずにのうのうと過ごすということ・・・
いずれは向き合わねばならぬことを避けられること・・・それは時と共に重くなるのだ。
今、ここで自分に向き合わず。娘に明日は無いと知れ!!」
知らなければならないことがある。
そういうことだ・・・
自分が背負ってしまったものの重みも知らずに歩き続ければいずれは力尽きる。
それを知って歩き続けることこそに意味があるのだ。
それらを隠して支えることは彼女を侮辱することに等しい・・・
「・・・言いたいことは分かった。殴ろうとして悪かった・・・だけど、今はそっとしておいて欲しかった」
トールは静かな口調で言った。
その言葉にサラサは驚く。
先ほどまですくみあがっていた小童が既に一人で立っている。
「確かにオレはその場限りで取り繕うとしていた・・・この先のことなんて考えてなかった・・・
目が覚めた・・・だけど、今は・・・今は少し休ませて欲しかった・・・
まだ、一日も経ってないんだよ。国が親が幸せが無くなってからまだ、一日も経ってないんだよ。
それに・・・その事実はオレが告げなきゃならないことだったから」
トールは真っ直ぐとサラサを見つめている。
その視線に怒りや恨みなど一切無い。
優しさだけが溢れている。
なんでこの男はこれほど優しい瞳が出来るのだろう・・・?
さっきまでの様子からしてありえない・・・
さっきの一言で成長したというのだろうか・・・
まだ、先のことなど考えられなかった男が・・・たった一言の渇で考えて答えを出したのだろうか・・・
「・・・わ、わかればいいのだ・・・」
サラサはその視線に耐えられずに瞳をそらした。
さっきの言葉は怒りは全て自分のためだったのに・・・
その優しい瞳を受ける資格なんてないのに・・・
「う〜ん、ラスク。しばらく、お前はメルの枕な」
トールはラスクを指差してそう告げた。
「えっ!?」
「却下禁止」
トールは一切の返事を受け入れない。
そして、ファルクのほうを向いた。
「聞かせてくれ。何処まで知ってるか?」
「あぁ・・・」
ファルクは急に大人びたように見えるトールに驚きながら話を続ける。
「我々、シャトレーゼの皇族がエンシェントの一族であること・・・そして、メル=シャトレーゼがその力を
継ぐものだということを突き止めた。後は色々な手続きなどの問題から国へと戻る途中だった」
「ふぅん・・・気になるんだが。そんなに自由に他国の上を飛べるのか?」
明らかに武装をしている空艇が領空を飛んでいたらそれこそが国際問題だ。
「バカにしてるのか?同盟国との条約により領空を飛行しているのだ」
そんな自由勝手にやるわけが無い。
少し考えれば当然のことだ。
「なのになんでシャトレーゼには介入しないんだ」
「一つの国の皇族にまで介入できるわけが無いだろ・・・それにシャトレーゼの交流はさほど深くは無い。
後は各地でヴェルフォースと戦闘を行ったのでな補給の為に戻っている最中だった」
「ヴェルフォースと戦闘したのか!?」
「あぁ、奇襲をしかけらてな・・・何とか撃退したが我々の損害もバカにならない」
「・・・まぁ、こっちはほとんど一機で壊滅したからな」
トールは恐ろしいまでに強い灰色の機体のことを思い出した。
確か名前はクロヴァスとグレイファントムと言っただろうか・・・
「たった一機でか?シャトレーゼにもメタルレプリカはあるだろう。現にあの空艇には一機つまれていたようだが」
「あぁ、色々あってな。オレも戦ったんだが歯が立たなかった」
「確かにヴェルフォースの傭兵はそこらの国の兵士よりも強力だが一機とは・・・どのような機体だ?」
「どのようなも何も会話して名前聞いたぞ。確かパイロットがクロヴァスで機体がグレイファントム・・・」
「「何だと!!!!」」
サラサとガトアがそろえて声を上げる。
ファルクとダムドも声こそ上げぬもののしっかりと驚いていた。
その様子にトールは驚き後ずさりしている。
「クロヴァス・・・クロヴァス=シュトルのことか?」
「あぁ・・・確かそんな名だったような」
トールは頭をひねり思い出しいる。
「よく、生きてメル=シャトレーゼを連れて脱出できたものだな・・・あの灰色の閃光を相手に・・・」
ダムドが静かに言った。
だが、その表情は今だ信じられないといった表情である。
「そ・・・そんなに有名な奴なのか?」
まさか、あの戦闘狂がこんなに知れ渡っているとは・・・
予想外のことだ。
「有名・・・えぇ、何せ彼は魔王の六翼と呼ばれるヴェルフォース最強の傭兵六人に数えられるほどの
実力者ですから」
「うそぉぉぉぉ!!」
トールは心の底から叫んだ。
あの美少女がそんなに強いとは・・・
確かに全力ではないと感じたが・・・どれほどに実力を隠していたのだろうか・・?
「それにさっき言った戦闘ですが・・・彼も参加していました。被害は空艇が六隻大破。MRにいたってはおよそ50機近くは・・・
四天王と呼ばれる我々の最強の一人も負傷してしまいした。
何とかそれで撃退したのですが・・・」
このとんでもない空艇師団を相手に勝負を挑んでそこまでの戦果を上げているとは・・・
それもたった一機で・・・本当に生き残れたのが運が良かったからとしか言いようが無い。
「・・・あのぉ・・・次元が違うんですけど。空艇六隻!?MR50機!?ありえないだろ!!」
当然だ。普通のMR一機で一回の戦闘に求められる戦果は一機程度のものだ。
いくら、性能に開きが大きいMR戦とはいえありえない。
「言ったでしょうヴェルフォース最強クラスのドライバー・・・この大陸でも十指にはいる実力の持ち主です」
「マジですか・・・?うわぁ、とんでもないのに喧嘩売っちゃったよ」
小国のトップになるかどうかの争いをしていた自分がまさか・・・大陸全土でも最強クラスの奴に喧嘩をうるとは・・
今度、出会ったら殺されます。
「奴が動いたのなら小国の一つがつぶれてもなっとくだな」
サラサは静かに頷いた。
圧倒的だ・・・もろにその力を受けて・・・更にその正体までもがさらされた。
どれほどまでに途方も無い相手だろうか・・・
だが、トールの心の奥底では何かがふつふつと煮えたぎるのが確かに感じ取れた。
燃えている・・・魂が燃えている。
その魂が心を煮えたぎらせるのだ。
「・・・けっ、上等だな。やってやろうじゃねえか。ぶっ潰してやるよ。魔王の六翼だろうが・・・傭兵王だろうが。
オレの平和を邪魔する奴はぶっ潰す!」
トールは拳をパシンと叩いた。
その瞳はギラギラと闘志で輝いている。
圧倒的不利な状況だというのにそれでも諦めていない。
むしろ、高みを目指し続けている。
「中々の気迫だな・・・」
「若いですな」
「おもしれぇな。相手がヴェルフォースだって聞いて怯えないなんてな。その力を一度、身に味わっているのに」
サラサ、ダムド、ガトアはそんなトールに興味がわいていた。
明らかに力も無い。
だが、その闘志だけは買える。
それにまがりなりにも灰色の閃光とやりあって生き延びている。
それだけの戦闘力は有しているということだ。
「水をさすようで悪いが最悪の話がまだある」
本当に水をさした。
トールの炎が弱弱しくなっていくようである。
「ヴェルフォースを雇った組織が判明している」
「本当か・・?」
これほどまでに圧倒的な力を持つヴェルフォースを過半数もしかも魔王の六翼までやとう組織。
どれほどの組織力を持つものたちだというのか・・・
「オウル教だ」
オウル教
それはこの大陸の半数が信仰していると言われている宗教である。
数々の国に存在する神々の主神とされる神であり。
数多くの神話を残すものである。
その始まりは分からないが現在は教主ゼトラのもとに数多くの国に神殿が建てられている。
その教えは人を愛し神を敬うことこそが人の行うべきことであるとするものであり。
それにより人は死を超越し神の国へと旅立つとされている。
細かい教えなど大量にあるがトールは知らないし興味が無かった。
元々、トールは信仰というものが好きではない。
自分が生きてきた世界がどうやって出来たのかは知らないしそれを与えたのは神かも知れない。
だが、トールにとってそんなことはどうでも良いことだった。
周りにいる人たちと共に生きることのほうがよっぽど大切だしそんな教えが無かろうが生きている。
それにそこまで細かく決められたことを実践なんかしてられない。
まぁ、そんなトール個人の考えはともかくなんでその宗教がエンシェントを求めるかが分からなかった。
しかもヴェルフォースを使ってまで・・・
トールは割り当てられた部屋のベッドに横たわりぼんやりと考えていた。
あまりにも多くのことがあって整理が出来ていないのは自分も同じだ。
今は鋼の鳥の王に抱かれ安らげている。
だからこそ頭の中に色々なことが頭を過ぎっていく。
その中でも特に問題なのが・・・
「オレは・・・あいつらを護れるのか・・?」
誓って見たものの自信は無い。
それにあいつらは自分の命をかけてまでも護りたいものなのか・・・?
確かにシャトレーゼの軍人だった皇族を護るのは当然だ・・・
だけど、自分らしくないんじゃないだろうか・・・
少し親しくなって慕われてるからって命をかけることが必要なのか・・・
シャサにいたっては道中で知り合って偶々、金を貸しただけだ。
はっきりいって邪魔と言ってもいいだろう。
これなら昔からの親友であるラスクのほうが護る価値があるんじゃないのか・・・
そのラスクを命がけで護ろうとは思わないし思ってないだろう。
あいつはそういう奴だと分かっている。
お互いに命を懸けて相手を護るのは嫌だった。
だけど・・・なんで二人を護ろうとするんだろう・・・
そんなことを思案しているトールの部屋のドアが開いた。
「ん・・・?」
トールは首だけで横を向いた。
そこには赤い髪のツインテール少女が立っていた。
「トール」
「どうしたんだ?シャサ?」
あんなことを考えていた後に会うのは少し気分が悪いが態度には表さない。
「トールは無理しなくても良いんだよ」
シャサはトールのところまで歩いてい来るとその手を掴んだ。
「何を言ってるんだ?」
まるで自分の考えが見透かされているかのような感じがした。
全身の毛がよだつ・・・寒気がするような気分だ。
「トールは特殊な力もないし魔力も無い・・・下手すると死ぬよ」
「・・・お前な」
トールは正直にむっとした。
さっき感じた恐ろしさもふっとんんだ気分だ。
弱いといわれているようなものだ。
こんな子供に何が分かるというのだ。
自分は自分で出来ることをがんばっているのにそれも分からないで・・・
だが、トールはその少女の・・・
あまりにも悲しい、儚い表情を見て視線を止める。
何故だか目の前の少女が急に消えてしまうんじゃないかという錯覚を受ける。
まるで全てが夢で幻だったかのように亡くなるんじゃないかと・・・
「・・・私、トールに生きて欲しい・・・本当に優しい人・・・だから」
シャサは真っ直ぐな目でトールを見てくる。
こいつは自分を心配している。
自分なんかの・・・いや、オレを頼って信頼していても心配してくれる。
そして、逃げても良いと言ってくれている。
こいつのほうがよっぽど優しいとトールは思った。
こいつにくらべれば自分の優しさなんか偽りなんじゃないかと思う・・・
「シャサ」
トールは真っ直ぐとシャサの目を見つめる。
妙な沈黙が流れる。
そして、乾いた音が部屋に響いた。
「いっったぁ〜・・・」
シャサはおでこを抑えて涙目になっている。
トールがそこにデコピンを食らわせたのだ。
「ガキが何を心配してんだよ」
「ガキって言った?私はガキじゃないよ」
「ガキだよ。乳もないし背も無いくせに」
「えうぅぅ!」
シャサは怒りの瞳でトールをにらみつけた。
だが、頭に優しく暖かいものが当たった。
それはトールの手のひらだった。
頭をなでられている。
明らかに子供扱いした行為なのに・・・何故か気分がとてもよかった。
「でも、ありがとうな・・・」
それはトールの正直な気持ちだった。
嬉しかった・・・自分が心配されているのが・・・
自分も生きているんだなと改めて感じる・・・
「えうぅ」
「言っただろ。俺はお前たちを護る。言ったからには全力だ。悪いようにはなりはしないさ」
トールは微笑んでシャサに言った。
そうだ。理由なんて簡単じゃないか・・・
自分のせいでこんなことに巻き込まれてしまった少女の命を護る。
そして、望んでない力で幸せを壊されてしまった少女の命を護る。
そんなことに理由なんかいるか!つうか、それが理由だ!
そうだ・・・自分らしいとか言って命を懸けずにいることで逃げていた。
命をかける必要なんて無い・・・ただ、護ればいい。
自分が信じたとおりに動けばいい。
それで命が危険になってもかけてない。
全力で戦って生き残るだけだ。
それが自分のやるべきことなのだから。
トールはシャサの顔を見つめ続けている。
シャサも少し頬を赤らめながらトールの顔を見つめ続けていた。
「おい、大変だ・・・・」
ラスクはドアを開けて立ち止まった。
「すまん、邪魔した」
ラスクはそういうとドアを閉めた。
「ちょっとまてぇ!!」
トールは慌ててドアへと駆け寄った。
「まぁ、ともかく大変なんだ。とにかくブリッジへ」
ラスクの真剣に焦った様子で二人をせかせる。
「何があったんだ?」
「説明は後、大変なんだよ」
ラスクは急がせるだけで多くは語らない。
だが、その表情から冗談ではないのは分かった。
トールに不安が過ぎる。
「えぇ・・・エンシェントはガルウィングに逃れました・・・」