「私たちは掛け替えの無い人々を失いました・・・

我が父にして皇王ゼン=シャトレーゼ。この国の危機を救った竜殺しの英雄シャルドゥ=シャトレーゼ。

そして、無残にも逆賊の刃に倒れていった戦士たち・・・

彼らの魂にかけて私は誓います。

必ず我が妹メル=シャトレーゼを逆賊の手から救い出しこの国に再びの平穏をもたらすと誓います。

先代のように誇り高き皇王として国民をよりよき世界に導くために私、

レイ=シャトレーゼは皇王としてここに決意の剣を突き刺します!」

レイは手に持った王家の者が継ぐ両刃の装飾剣を台座に突き刺した。

それは新たなる皇王が皇王として最初にする仕事であり伝統である。

台座に剣が突き刺さると同時に歓声と拍手が巻き起こった。

ほとんど廃墟と化した城の周りに数多くの国民がまるで群がるように埋め尽くしている。

その人々は目の前の女性こそがこの国に新たなる平和をもたらすと信じて疑わなかった。

例え最愛の父親と夫を失いながらも凛とした表情。

そして、妹を逆賊に捕らえられていながらも決してそれに負けずに戦う姿勢。

これこそが皇王だと国民の目に映っていた。

 

「えぇ、以上が先ほど行われた継剣式の模様です・・・」

女性アナウンサーがカメラ目線で言った。

「それにしても結婚式のその夜に夫であるシャルドゥ様と父親のゼン皇王を亡くされ、

妹のメル皇女を連れ去られるとは・・・不幸の一言では言い表せませんね」

女性アナウンサーが横にいる年配の男性アナウンサーに問いかけた。

「ですね。それにしてもラルフ容疑者が暗殺を企てたとは・・・人間、何を考えているか分からないものです」

「えぇ、まさか試験会で一躍有名になったトール容疑者も共犯者とは・・・一体、何時ごろから

計画は進められていたのでしょうね」

「詳しくは分かっていませんが・・・ラルフ容疑者にしてもライバルであるシャルドゥ様が皇王を継ぐということが

許せなかったのでしょう。だから、あんな愚行に及んだのでしょうね」

「えぇ、シャルドゥ様の悪口を公言してましたものね」

「一番辛いのは彼を信じてついていっていた兵士たちでしょうね。一部の人たちは彼の行いのせいで命を落としていますし」

「えぇ・・・それにしてもメル皇女の生死がとても気になります」

「人質としての価値も高いですからおそらく生きてはいるでしょうが・・・どんなに目にあっていることか」

「我々はこんな卑劣な行動を起こしたトール容疑者とラスク容疑者を許しません。

どんな些細な手がかりでも構いません。彼らについて知っている人がいればこちらまで連絡を下さい」

 

TVニュースでは朝からずっと同じようなことが放送されていた。

ラルフの陰謀、ゼン皇王死亡、シャルドゥ次期皇王戦死、メル皇女誘拐、レイ新皇王誕生。

トール、ラスクの指名手配・・・

全てのシナリオがシャルドゥの立てたとおりに進んでいた。

大きく食い違うのがシャルドゥ自身が死んでおり、その役目をレイが担っていることだ。

それは国民にとっては大きな違いではない。

むしろ、悲劇性ではレイのほうが上だ。

それは国民の目にレイを悲劇のヒロインとして彼女にカリスマを与えていた。

もはやゆるぎないほどに彼女は皇王として立っている。

そして、トールとラスクは皇国始まって以来の大罪人として扱われていた。

だが、それは大きく事実と食い違っていることだ・・・

陰謀を企んだのはシャルドゥであり、ゼンは彼の手によって殺害された。

ラルフはその陰謀に巻き込まれた被害者である。

シャルドゥはヴェルフォースのクロヴァスの手によって殺害され

メルをその魔の手から逃すためにトールとラスクは彼女を連れて逃げたのだ。

レイは詳しいことを知らないとはいえこんな風に公言するはずが無い。

ましてやトールとラスクを悪人とするはずが無いのだ。

 

闇の中・・・紫に限りなく近い赤い髪の女の魔性の笑みを浮かべた・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機 鋼 神 王

第二章

空、近く

第九話

鋼の翼竜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういうことだよ!」

トールはキングオブエアーズのブリッジのモニターに映し出された

継剣式の映像を見て叫んだ。

何故、レイがこのようなことを言うのだ!?

訳が分からない。

困惑がトールの表情を支配している。

一緒にその映像を見ていたシャサも首を横にふるふると振っていた。

「可笑しいよ。レイお姉ちゃんは変なおばさんに捕まったはずだよ。なのに無事だなんて・・・」

シャサは目にしていた。

レイが赤い髪の魔女に襲撃されていた。

それがこうして満足に式などあげられない。

むしろ、そのことを言わないはずが無いのだ。

「変なおばさん・・?どういうことだシャサ!?」

初めて聞いた話にトールは驚く。

「だって、レイお姉ちゃんはいきなり現れたむかつくおばさんに襲われたんだよ。私はビーン先生に助けられたけど・・・

ビーン先生も酷く恐がってた・・・」

シャサはあのときを思い出し呟いた。

狂気の笑みを浮かべ自分を見下ろしていた魔女・・・

今まで自分が接してきた人とは全く違う目をした女・・・

それは不快なものでしかなかった。

「むかつくおばさん・・・それじゃ、そいつらになんかされたのか・・・」

こうもおかしなことを言うレイはそれしか考えられなかった。

操られている・・・何らかの呪術によって・・・

「十中八九ヴェルフォースだろうな・・・だが・・・サラサ様、ダムド殿分かるか?」

ファルクは映像をレイのアップにして止めると二人に尋ねた。

二人はモニターを凝視している。

その目は真剣を通り越している。

まるでそこに映る全てを見透かすかのように・・・

「・・・すみません、分かりませんね」

ダムドが首を横に振り答えた。

「幾ら映像とはいえ・・・呪術の術式が見えないとは・・・相当な使い手だな」

サラサはため息を漏らし椅子に全体重をかけた。

集中力と精神力を酷く使ったのだろう。

「何をしてたんだ?」

良く分からなかったトールはファルクに尋ねた。

「邪術はかけられた者に術式がかかって見える。それは術者でなければ見えない。そして、かけた術者の力が

強ければその術式は全く見えなくなってくるということだ」

「それじゃあ、薬物投与とか?」

ラスクが他の可能性を指摘した。

「だったら身体的な変化が見られるはずだ。それすらも出さないなら相当な技術力だな。

どちらにしろ」

結局、操られているのなら相当な実力者がやったことになる。

だが、操られていないはずが無いのだ。

「ヴェルフォースだ。それぐらいの術者がいても可笑しくは無い」

それもその一言で片付けられる。

どんなものがいても驚いてはいけない組織だということだ。

「それにしても・・・ショックだな。犯罪者扱いになるなんて・・・」

トールが噛み締めるように呟いた。

いくら、冤罪とはいえ容疑がかけられるのは気分がいいことではない。

しかも、その相手が自分たちがよく知る相手だということはそのショックを更に大きくさせていた。

「家族は心配ではないのか?」

あそこまで騒がれては両親だってただではすまないだろう。

暴動を起こした一般市民に暴行される可能性だってある。

「「あぁ、あいつらなら絶対大丈夫だから」」

二人は声を合わせて言い切った。

その表情に心配のしの字だって見当たらない。

「・・・まぁ、ともかく。メル皇女は我らが預からねばならぬわけだな」

サラサはトールを見ていった。

「我ら・・・エアーズだっけお前たちの国って?」

「そうだ。空に近い国と呼ばれる大陸でも屈指の大国だ」

サラサは誇らしげに腕を組み言った。

お前らの小国などとは比べ物にならないんだぞといわんばかりだ。

「空に近いって・・・山の上にでもあるのか?」

トールのその問いに対してサラサは思いっきり椅子の上から転げ落ちた。

そして、彼の足元まで落下してくると打った頭を抑えながら立ち上がる。

「うつけ者!!貴様・・・シロガネの名ばかりでなく・・・エアーズも知らんというのか!?」

サラサは声を荒げて怒鳴った。

トールは耳を押さえながらそれを聞く。それでも聞こえるぐらい五月蝿いわけだ。

「しらねぇよ。というかシャトレーゼ以外ほとんど知らん」

トールはキッパリと言い切った。

それに対してサラサはまるで宇宙生命体を見るような目つきでトールを見る。

「・・・貴様、本当に人か?まさか、世界の果ての向うから来たのではなかろうな?」

サラサは思い切りバカにした態度で尋ねた。

その例えにファルクは少し反応する。

「五月蝿いな、知らないものは知らないんだから仕方ないだろ!」

「そうそう、僕たちはほとんど田舎から出なかったからね。世間には本当に疎いんだよ」

バカにされて怒っているトールに変わってラスクが答えた。

「ふむ、つまり田舎者と言うわけだな・・・確かにここへ訪れたときの貴様の態度・・・

上京した田舎者そのままだったわけだ」

サラサは納得した。

だが、ラスクは内心で殺意の炎がメラメラと燃え滾っている。

「まぁ、話もこれまでにしよう。三人ともすまなかったな。自室に戻ってもいいぞ」

ファルクは何時の間にか雑談になっていた会話を打ち切った。

これ以上、無駄な会話は不要だと感じたのだろう。

確かに不要だが。

「はいはい・・・にしても、疲れた」

トールは更に増えた事件に頭が混乱を始めている。

一旦、整理がつけば直ぐにこれだ・・・

これでは幾ら何でも追いつかない。

「疲れたのか?」

サラサがトールの顔を見上げ尋ねた。

「そうだよ。どっかのバカ司令官がギャーギャー騒ぐし」

「ほぉ・・・言われておるぞガトア」

サラサはずっと彼女の傍らにいた赤メッシュの忍者につげた。

というか彼はいたのかというぐらいに今は存在感がなかったが・・・

さっきの彼の態度を考えればいきなり怒鳴りだすことは必須だ。

「えっ・・・す、すみませんサラサ様」

だが、ガトアは怒り出すどころか素直にしたがって謝り始めた。

「ふむ・・・ということだ。すまなかったな」

「っつうか・・・そいつ、何も喋ってなかったじゃん」

「何だと!!貴様、サラサ様がオレを五月蝿かったと言えば俺は五月蝿かったんだよ!分かるな!!」

ガトアはクナイの刃先をトールに向けて怒鳴った。

どんな脅迫だとトールは思いながらはいはいと頷いておく。

これは何か面白いことが起こりそうな予感だ。

その後ろでラスクもニヤリと笑みを浮かべていた。

「というわけだ。ファルク、我らは銭湯へ行ってくる」

サラサは副官に向かってそういった。

「サラサ様仕事が」

「我は今、酷く疲れておるのだ。それにたまには年の近い者の話も聞きたいことだしな」

サラサはそういうとシャサのほうを見た。

シャサはいきなり見られて驚いている。

まさか、自分が持ち出されるとは思っていなかったようだ。

「・・・わかりました。ガトア、お前も一緒に行け」

「なにぃ!いいのか!?」

「くれぐれもサラサ様についてゆくな。貴様はそこの二人の監視だ」

ファルクはトールとラスクを見てそう告げた。

「ちっ」

ガトアが舌打ちをするとファルクはギロリとにらみつける。

「当たり前だろ!しかたねぇな。行くぞ!!」

ガトアは完全に置いてけぼりをくっていた二人に向かって怒鳴った。

酷く残念そうな顔をしている。

「銭湯ねぇ・・・まぁ、久しぶりにはいいかな」

「というか・・・この船は銭湯までついてるんだ」

 

 

男湯脱衣所

そこはまさしく銭湯の脱衣所だった・・・

ロッカーではないが衣服を置くかごがある。

洗面所もドライヤーも置いてあるし体重計も置かれている。

更にビン牛乳の自販機まで置いてあった。

内容もノーマル、コーヒー、フルーツと揃っている。

もはや普通にお店と言っても言いぐらいなものだ。

そんなものが戦闘用の空艇についているなんて・・・

トールとラスクはそれを見て唖然としていた。

「これがキングオブエアーズ七大長所の一つ。スーパー銭湯だ。脱衣所ぐらいで驚いてんじゃねぇぞ」

ガトアは気分良さそうに叫んでいた。

「いや、驚くだろ・・・なんて快適な船なんだ」

話によれば24時間開いている上に休憩中ならいつでも入浴可能らしい。

今は貸切でこの三人しかいないが普段ならいつでも10人ぐらいの兵士がいるらしい。

「なんせ天下のエアーズだからな・・・まぁ、これも今の艦長サラサさまになってからなんだが」

「あいつの個人的趣味で改装されたのか」

なんて自由な軍なのだろうか・・・いや、少将という話だからそれぐらいは出来るのかもしれない。

船に乗ってる少将もおかしな話だが。

「まぁ、これもサラサ様のすべすべお肌やさらさらヘアーの為だ。必要経費だな」

ガトアはにやにやと笑みを浮かべながら呟いた。

何を考えているのか一目瞭然だ。

「それじゃ、入るとするか」

「だね」

二人はそんなガトアをほおって服を脱ぎ始めた。

「ちょっと待て!」

二人が上着を脱ごうとしているとガトアがいきなり声を上げた。

そして、ラスクを指差す。

「なんで女がこっちにいるんだ。さっきからいたがすっかり忘れてたぜ」

どうやら、ガトアはラスクが女だと勘違いしているらしい。

仕方ないことだ。昔からよく言われている。

だが、ラスクは何回言われてもなれないでいた。

「僕は男だ!!」

「嘘をつくな!」

ここまで力いっぱい否定されるのは久しぶりだなとトールは思った。

だが、こうまで否定されてラスクがとる行動は一つしかない。

男の証を掲げるしかないのだ。

そうして、ラスクはその行為へといたった。

 

「すまん」

「分かればいいんだよ」

腰にタオルを巻いたラスクが不機嫌な様子で言った。

「まぁ、オレも最初会った時は間違えたからな」

「そういえば・・・ねぇ」

「うっ・・・思い出したくないことを思い出しちまった」

トールは青い顔をして呟いた。

ラスクはそんなトールを見てニヤニヤと笑っている。

「ったく、なんてこった・・・これでいいのか世界は・・・」

ガトアはどうやらラスクが男だということに納得がいかないらしい。

普通の女の子と比べても可愛いのだからしかないといえば仕方ない。

そんな様子で服を脱いでいると彼の財布がごとりと床に落ちた。

ガトアがそれを拾い上げようとするよりも早くとトールがそれを拾い上げる。

「なっ手前!!」

ガトアがそれを奪い返そうと手を伸ばした。

だが、トールはそれよりも早くそれをラスクに投げ渡す。

そして、そのままガトアの腕を掴んで足止めを開始した。

「ラスク」

「分かってる」

ラスクは即座に財布を開いた。

「あぁ!!!てめえぇ!!あけるなぁぁぁぁ!!!!」

脱衣所にガトアの悲鳴が轟いた・・・

 

女湯脱衣所

その配置は男湯とほとんど変わりは無い。

あるとすれば男湯のほうに比べて物が低く設定されている場所があるといったところか。

それはもちろん、サラサのためのものである。

「うわぁ・・・広いよ」

シャサはそこを見渡して呟いた。

そして、そのままかけていく。

その後ろからサラサとメルが続いた。

気がついたメルをサラサが連れてきたのだ。

シャサもお風呂に入れば気分がいいよと半ば無理やり連れてきた。

トールとラスクは少し考えたがOKを出している。

だが、やはり衝撃の事実の後だ。

まだ、その表情は暗い。

「メル皇女」

サラサがメルに声をかけた。

メルはおそるおそるサラサの顔を見る。

少し恐がっているようだ。

「先ほどの無礼、申し訳ない!」

サラサはそういうとふかぶかと頭を下げた。

そのいきなりの行動にメルはびっくりとしている。

「あ、謝らないで下さい。サラサさんは何にも悪いことしてないんですよ」

「いや、いくら小国とはいえ一国の皇女とたかが軍の少将如きでは身分が違います。

しかも、その心に傷をつけると分かっていながら我は事実を告げたのは切腹ものの無礼です」

「そ、そんな!いいんですよ。本当のことですし。それに事実がはっきりしたから逆に良かったですよ」

メルは慌ててフォローをいれている。

いきなり、本当に腹を切りかねない勢いだからだ。

サラサはその言葉をきくとニヤリと口元をあげ顔を上げた。

「それならばよいのだ!」

にかりを口を開けて笑った。

その笑顔は晴れ晴れとしていてなんの曇りも無い。

「そうだよ。笑顔が一番、うじうじ悩んでてもいいこと無いよ。思い切って飛び出せば幸せだよ」

シャサがメルの後ろから抱き付いた。

「うむ、いいことを言うな。その通りだ」

「そうそう、それに私たちにはトールもいるんだし、どうにかなるよ」

シャサがトールの名を出すとメルの顔が一気に明るくなるのを感じた。

心の支えを思い出したのだろう。

頼れるお兄様。

それがいるならなんとか立っていられる。

「そうですね。それにせっかく、お風呂に入れるんですから暗い顔じゃいけませんよね」

「そうそう、暗いのなんてざっぶ〜んって洗い流しちゃおう」

「そうだそうだ」

三人の幼女は底抜けに明るい笑顔で笑いあっていた。

 

その頃、男湯

「お〜い、犬。肩がこってるから少しもんでくれよ」

「はい、わかりました」

「お〜い、犬君。お湯がぬるいよ」

「はい、ただいま・・・」

トールとラスクは湯船に浸かってゆっくりとしている。

そして、ガトアを顎で使っていた。

ガトアはそんなトールとラスクに怒りの表情を見せながらも従っている。

「・・・って!納得、いかねぇ!!何でオレ様がこんな・・・」

「サラサの着替えの盗み撮り」

「サラサの寝顔、盗み撮り」

トールとラスクがどす黒いオーラを放ちながらにやにやと笑っている。

そして、

「「サラサの入浴中の盗み撮り無修正」」

トールとラスクが声を合わせて言い放った。

その言葉にガトアは何も言い返せない。

言い返してしまったら彼の人生が終わってしまうからだ。

そもそもこうなってしまったのも彼の財布がこの悪魔二人組みに渡ったからだ。

そして、その中身を見られてしまった。

そう、彼らが言っている写真が入っていたのである。

暇さえあればそれを眺めてハァハァしてたわけだがそれが仇となった。

二人はそれをネタにゆすり始めたのである。

別にお金は要求していない。

だが、彼らに絶対服従を誓わされてしまった。

だが、逆らうわけには行かない。

いとしいサラサにそのことを告げられてしまうからだ。

そう、ガトアはサラサのことが好きなのだ。

そりゃもう変質的なまでに。

このような盗み撮りはもちろん、忍者の技術でいつもストーカーを続けている。

彼女のことで知らないことは何もないと豪語するほどに。

彼女の言うことは絶対であり何があろうとも反論すらしない。

そのことで他の幹部たちも感づいているがあえて何も言ってなかった。

まぁ、なにかことを起こしたら確実に殺されるが。

「分かったら、犬!とっとと肩を揉め!」

「犬君、今度は熱いからぬるくしてぇ」

ちなみに愛称は犬で決定されました。

「くそぉ・・・なんて厄介な奴らが・・・」

「あぁ、おい、ロリコン!くれぐれもシャサとメルに手を出すなよ」

「そうそう、覗きにでもいったら・・・直々にトールの制裁が飛ぶよ。彼もロリ・・・」

「違うわっ!!」

「そうか、お前も同志・・・」

「違うって言ってるだろうが!!」

トールはガトアの首を掴むとそのまま投げ飛ばして湯船に叩き落した。

 

 

その頃、女湯

「なんか男湯が騒がしいな」

サラサは自分のことをネタにガトアがゆすられてるなど思いもよらない。

更に自分があんな恥ずかしい写真をとられているなどということも・・・

サラサはゆったりと湯船につかっていた。

こうしていると全身の疲れが肌から抜けていくようだ。

湯煙で煙った世界をぼんやりと眺めつつサラサはうとうととしていた。

「きゃははははは!」

そんな顔に水しぶきが直撃した。

「湯船で泳ぐなぁ!」

サラサが怒声と共に湯船を叩く。

すると水しぶき・・・いや、大波が起きて泳いでたシャサと大人しくしてたメルがそのまま浴槽の外へと押し流される。

「うわぁ・・・凄いすご〜い!!」

「び・・・びっくりしました」

シャサは面白そうに笑っている。メルは心臓を押さえて驚いていた。

「シャサ・・・確かに風呂は楽しく入るものだ・・・だが、風呂には風呂の楽しみ方があるだろう!」

サラサは立ち上がりシャサを指差した。

「えうぅ・・・私には私の楽しみ方があるんだよ」

「ほぉ・・・我がシロガネ流の頭首だと知って言っておるんだな!」

「知らないもん」

「ほぉ・・・おぬしらは・・・同じようなことを言いのける・・・」

サラサは激昂していた。

この程度のことで激昂することは子供だが・・・

それを抑える大人がこの場にはいなかった。

「我が水遁の術が奥義でその考え、根底から叩きなおしてくれようぞ!」

サラサは手を上に掲げると湯が渦巻き上り始めた。

「うわぁ」

「あ、あの・・・それぐらいにしといたほうが・・・シャサ、十分反省しましたよね?」

メルが尋ねるがシャサは首を横に振った。

どうやら、あれがこの後、どうなるのかとても興味があるようだ。

メルの顔が青くなる。

「くらえ、必殺水竜破!」

お湯が渦巻き一気に放出された。

普通に当たったら命が危ない。

「いやああああ!!」

「おおおおお」

「ばっ!避けろ!!」

どうやら、避けることを前提で放ったらしい。

だが、二人とも全く避けようとしてなかった。

というかメルが避けれないのだ。

腰が抜けているらしく動けない。

「メル!」

シャサが叫ぶとメルの体から光が放たれた。

 

「何故・・・こんなことに・・・?」

トールは酷く困惑している。

どう事象を整理していけばこうなるのだろうか・・・?

こうなる確立は一体何パーセントなのだろうか・・?

考えれば考えるほどに不可解だ。

ありえない。ナンセンスだ。

だが、それは現実として起こっている。

そう・・・

「オレに誰か教えてくれぇ〜」

仰向けに倒れているトールの上に素っ裸の幼女が三人、乗っていた。

まぁ、あれだ。やましい意味でなく。

だが、十分にやましく見えて断然、怪しかった。

「えうぅ・・・」

「ひゃぁあ・・・」

「め・・・目が・・・」

三人ともダメージを受けているらしくフラフラとしている。

が、動けない。

そして、トールも動けない。

さっき、少し顔を上げたらメルのとんでもないところが見えたし

右手は確実に限りなくないに等しい柔らかみ感じていた。

「うわぁ・・・4P?」

「違うわ!ボケェ!」

「それじゃ、5Pか?」

「自分を加えるな!」

「決して6Pにはならないけどね」

「何故だ!?」

ガトアが嘆き悲しむように叫んだ。

目の前に自分が望んでいたものが実物でしかも遮るものなしであるのにも関わらず

彼の視界は暗く閉ざされていた。

ラスクの的確な急所攻撃のおかげで現在、彼は再起不能だからだ。

というかそうでもなければ襲い掛かりかねない。

ナイス判断としか言いようが無い。

だが、彼は決してトールの置かれた立場から助けようとしなかった。

そのほうが面白いからだ。犯罪にならないし。

犯罪になるのは流石にいけないらしい。

「くっ・・・さっさとどけ・・・って!そこは違う!手を置くな!!」

「えうぅ・・・なんかぐにょってしてる・・・」

「痛い!痛い!!体重をかけるな!っつうか、手をどかせ!」

「ぬっ・・・やめろ。そんなところを掴むな」

「掴むところなんて何処にもねぇよ!!」

「はぅ・・・す、すみません。直ぐにどきます」

「どくのはいい!なんで、後ろに下がろうとするんだ!やめろって!!」

トールの慌てふためく絶叫だけが湯煙の世界に轟いていた。

 

「・・・最」

「高だー?」

「烈風正拳突き食らわすぞ」

「はいはい、そんなに小さな子の体が良かったのか?ロリコン」

「光にしてやろうか?」

トールはワナワナと震えていた。

あの後、どいてもらったはいいが。シャサとサラサに追われるはファルクに勘違いされて説教をくらうわ。

ガトアは完全に恨みの視線でこっちを見てるし。現在進行形。

「にしても今でもあの肌のぬくもりは忘れられないよ」

「ブラックホールの彼方に消え去るか?」

今はトールに割り当てられた部屋にいた。

ちなみに勘違いされたためにガトアが見張りとしてつけられている。

ついでにサラサ、シャサ、メルの部屋は立ち入り禁止をくらった。

そして、あっちにも護衛がついている。

「オレの・・・オレの三時間かけて作り上げたイメージがぁ〜」

「よかったじゃないか。間違ったイメージが浸透しなくて」

「T−LINKナックル!!!」

ラスクは吹き飛ばされ壁に激突した。

「次はこの船から叩き落すぞ」

「ご・・・ごめん」

 

 

キングオブエアーズ第一格納庫

そこでメタルレプリカの整備員たちがバーンを調べていた。

トールたちが唯一、持っていた戦力と言っても過言ではないこのメタルレプリカ。

更に他国で見たことも無いタイプのその機体に整備員たちは目の色を変えていた。

そして、その完成度の高さにも目を見張っていた。

「なんて機体だ・・・いくら、加速に特化した性能とはいえこれほどの技術があるなんて・・・プレミアか?」

プレミア・・・永遠の忘却の際に製作されたと言われる伝説のメタルレプリカ。

現在では国に一桁あるかないかのもので大体がその国の主力メタルレプリカの原型となっている。

現在の人の技術力ではそれを超えるものは作れないとされており技術者たちはそれを研究し

バリエーションを作り出すことしかできていなかった。

その為に彼らは研究者と呼ばれ開発者とは呼ばれない。

「しかし・・・このポテンシャル・・・空式零よりも性能が高いんじゃないか?」

「ドライバーは完全に性能を引き出していないようだな・・・いや、これを完全に引き出せたら化け物だ」

「まぁ、それでも相当な腕前のドライバーだな」

「だが・・残念だな。これで空が飛べれば完璧なのに」

「では、飛ばしてみませんか?」

雑談をする整備員の後ろから不適な笑みを浮かべ少年が現れる。

メタルレプリカにかけての行動力では誰にも負けないメカフェチ。

ラスクはバーンに興味を抱く整備員に交渉を持ちかけていた。

「バーンは元々、飛ぶために開発されたんです。ですが、シャトレーゼにはエアロウィングの技術が無かった。

エ・ヴァルシャのトルネードウィングから複製品を作ろうかとも思ったんですけど時間がありませんでした。

ですが・・・エアーズは最高のエアロウィングを持つといわれる空式零がありましたよね?」

ラスクの問いに技術者たちは頷いた。

エアーズの空式はとても有名なメタルレプリカだ。

空中戦闘でその機体に勝てる機体はないとまで言われるほどに機体だ。

それが搭載するエアロウィング・・・それはラスクにとってとても魅力的なものだった。

「まさか・・・空式零のエアロウィングを使う気か?」

「いえいえ、一般用のエアロウィングでも構いませんよ。後、少し設備をかしていただければ」

そのラスクの問いに整備員たちは考え込む。

これほど素晴らしいメタルレプリカが飛ぶところは見てみたい。

だが、勝手にそんなことをしても良いものだろうか?

「大丈夫です。ガトアさんって方から許可はとってますから」

もちろん、嘘だ。

だが、今のラスクならそんな許可も簡単に取れる。

「ガトア少佐の許しがあるなら・・・」

「まぁ、いいんじゃないか」

整備員も確認を取らずにそういい始めた。

彼らも機械がすきなのだ。

目の前の少年がやろうとしていることにとても興味がある。

それにこのバーンという機体が圧倒的な性能を持つグレイファントムとやりあったと聞いてはやるしかない。

エアロウィング搭載により性能が上がればそれを超える可能性もある。

プレミアでも最上級に位置すると言われるそれらを超える機体の開発・・・

それは長年、研究者が夢見たことであり。

開発者と呼ばれるために必要なことだった。

ラスクは内に燃え滾る熱意を必死に押さえ込みながら口元をつりあげた。

 

「どうしたんだ?」

「いいからいいから」

ラスクはトールを連れて通路を歩いていた。

突如として呼び出されトールは困惑している。

この親友の呼び出しでろくなことがあったためしがない。

過去に無茶な改造を施されたメタルレプリカに数限りなく乗せられている。

今のラスクが成長しているとはいえ油断できなかった。

嫌々ながらトールはそれについていった。

 

そこに一機のメタルレプリカが立っていた。

機鋼と呼ばれる伝説の生物の複製品。

人類が持ちうる最強の兵器。

鋼力により稼動し圧倒的な力で他者をねじ伏せる存在。

トールにとって見慣れたはずのメタルレプリカ・・・バーン。

だが、それは少し違っていた。

背面部に見慣れぬ装置が取り付けられていた。

更に各部の装甲に変化が見られた。

スラスターらしきものが全身に装備されている。

「これがバーンの本当の姿。ワイバーンだ」

「ワイバーン?」

得意な感じでふんぞり返っているラスクに尋ねた。

見た目に多少の違いはあるが名前まで変わっているのが気になる。

「バーンは本来、飛行するために作られたメタルレプリカだった。だけど、シャトレーゼにエアロウィング・・・

メタルレプリカ最高の飛行装置の技術が存在しなかったから断念せざるを得なかった。

だけど!遂にバーンはワイバーンとなるときが来た。

風の翼を持った翼竜・・・君の相棒の新たな姿だ」

ラスクの説明を聞きながらトールはワイバーンを見上げていた。

最初にバーンを見たときと同じ感じがした・・・

ただ、エアロウィングというものを装備して飛べるようになっただけじゃない。

その鼓動がまるでこの格納庫中に響き渡っているかのようだ。

「模擬戦の許可をとった。その力・・・エアーズの奴らに見せ付けて見よう」

「・・・だな。どれほどまでにやれるかなんか分からないけど・・・あのクロヴァスって奴ともう少しマシな

戦いが出来る気がする」

トールは新生した相棒に多大な信頼を寄せていた。

 

 

空・・・無限に広がるような青い世界・・・

そこを遮るものは何も無い・・・鳥と風と・・・鋼の世界。

白き雲をつきぬけ、幾多の気流を受け流し、風の翼を持った鋼の人がその世界を縦横無尽に飛び回る。

まるでそこが自分の居場所であるかのように馴染み駆けている。

新しく取り付けられたはずのエアロウィングはまるで最初からそこにあったかのように飛んでいる。

そのスピード、加速性は大地を駆けていた頃の比ではない。

まるで全ての風を自分の味方に付けているようだ。

目の前で空を飛ぶために作られた機体がまるで凍りついたかのように止まっている。

いや・・・ワイバーンが速過ぎるのだ。

まさに疾風・・・吹き抜ける一陣の風となりて空式の横を通過する。

膨大な風圧に空式は体制を崩した。

だが、それでも耐え抜きペイント弾をワイバーンに向かって撃ちつづける。

軌跡はその青い影を全く捕らえられていない。

辺りに空艇が飛び気流が乱れるこのような場所でほとんど自殺行為な程のスピードを出し続けている。

空式のパイロットはトールの精神が、腕前が信じられなかった。

エアーズの精鋭である空艇師団のドライバーである自分を完全に凌駕している。

その力はまるでヴェルフォースに匹敵していた・・・

「うわあああああ!」

迫り来る青い影にペイント弾が空を切り向かう。

ワイバーンは風の翼を羽ばたかせそれを最小限の動きで回避する。

そして、唸りを上げないチェーンダガーをコックピットに突きつけた。

風が装甲を吹き付ける。

空が鋼の鼓動を伝える・・・

「・・・終わりだ」

エアーズの主力メタルレプリカは初めて空中戦をする男の前になす術も無く負けた。

 

「ほぉ・・・」

「マジかよ・・」

その様子を見ていたサラサとガトアは思わず声を漏らしてしまった。

高速で空を駆け抜ける青い稲妻。

そのスピードはエアーズが保持するプレミアよりも速かった。

そして、それを操るトールの操縦技術にも感服するしかない。

「あれほどドライバーがあのような辺境にいるとはな・・・

我の空式零を出せ・・・久しぶりに血が騒ぐ」

サラサの目の色が変わっていた。

目の前であれほどの強さを見せられ彼女の中に流れる忍者の血が騒ぎ出す。

強さを求めるのは戦士の性・・・

 

「すげぇ・・・なんてスピードだ。オレの動体視力だとギリギリだ・・・」

トールは音速を超えるスピードを発揮するワイバーンのスピードに驚いていた。

加速するだけで音速に達し、そのスピードは留まることを知らずに上昇する。

更にはそのスピードを維持したままで急旋回が可能という以上ぶりだ。

Gがもしかかるのなら直ぐにでもブラックアウトしてしまう。

それにしても良く装甲が持つものだとも感心していた。

「ワイバーン・・・あいつらを救うためにその翼・・・オレに貸してくれ」

トールは申し訳なさそうな表情でワイバーンを見つめながら呟いた。

自分勝手な戦いに挑むのはトール自身。

だが、その為にワイバーンを戦いの場へと駆り出し自分の命を護る為にその身を削らせる。

自分勝手な振る舞いだとトールは思う。

だが、それでも力が無いトールにとってそれは頼らざるを得ない力だ。

「オレと出会っちまったのは不運だけど・・・すまねえな」

トールは心の底から謝った。

それで許されるとは思えないが・・・それでも言わずにはいられなかった。

「疾空牙!」

突然、鋭い風の刃がワイバーンに降り注ぐ。

トールはそれに反応すると風の翼を羽ばたかせ回避する。

「なっ!あぶねぇな!」

トールは真剣に驚いていた。

あの威力・・・まともに当たれば大破も免れないだろう。

「よくぞ、かわしたな。反射神経も良いようだな」

ワイバーンの目の前に巨大な風の翼を広げた一機のメタルレプリカが舞い降りる。

その機体は白を基調としたスマートな機体だった。

まるでその場に停止しているように飛んでいる。

その様子にトールは息を呑んだ。

それがどれほど高度な技術であるトールは良く分かっていた。

エアロウィングはコンピューター制御により普通に飛ぶことは出来る。

だが、風が渦巻く空でその影響を受けながら、空艇たちとのスピードを合わせてまるでその場に立っているような

飛行はドライバー自身が制御しなければありえない。

「サラサか・・・少将がなんでメタルレプリカに乗ってるんだ?」

少将という位は普通、基地にいて全体的なことを下す役目を担うもののはずだ。

だが、彼女は前線の作戦に出て大艦隊と言えども指揮をしている。

それはいい・・・だが、命を落とす危険の高いメタルレプリカに乗るとは・・・

トールは彼女が本当に少将なのか疑わしくなっていた。

というかあの年の少女に少将などという大役が務まるとは思えない。

「その意味・・・その身をもって教えてしんぜよう!」

空式零は腕からクナイを飛ばした。

高速で飛来するクナイをワイバーンはチェーンダガーでたたき切る。

「疾空牙!」

その隙をつき空気圧の刃を腕から発生させ無数に飛ばした。

ワイバーンはそれを大きく旋回し回避する。

「なっ!腕からなんかでた・・・仕込み武器か!?」

「本当に世間知らずだな。忍術・・・分かりやすく言えば魔法か。それも知らぬか!」

空式零は雷を迸らせながらワイバーンに斬りかかる。

ワイバーンはその電撃クナイをチェーンダガーで受け止めた。

だが、雷が迸りチェーンダガーのモーターを焼ききった。

回転の止まったチェーンダガーはその威力を半減させ弾き飛ばされた。

「くっ!」

「忍者の戦い方・・・とくとみよ!」

空式零が腕を突き上げると風が渦を巻きワイバーンを吹き飛ばす。

そして、空中に投げ出されたワイバーンに空式零はその拳で殴りかかる。

本来、マニピュレーターである拳は殴ることには適していない。

だが、空式零の拳の周りには障壁が張られ装甲を傷つけるに十分な威力を発揮していた。

「くっ!」

それを最小限の面積で受けきりワイバーンは一旦、空式零に離れる。

「離れてどうなる・・・我が眼下にいる貴様は捕らえられた鳥・・・その翼、散らせてもらう!」

空式零の翼と拳から雷が迸る。

電気を通しにくい空気中であっても鳴り響くその電撃の威力・・・

まともに食らえばいくら、メタルレプリカといえどもただではすまないだろう。

「離れれば魔法、接近してもあの体術・・・厄介だな」

トールは目の前で雷を纏う白き機体を目の当たりに冷や汗をかいていた。

灰色の機体に感じたほどの圧迫感は無いがその強さは本物だ。

まともにぶつかっていって勝てるわけが無い。

「だけど・・ここで負けられない。お前が忍者として戦うというなら・・・俺は・・・

オレはメタルドライバーとして戦う!」

トールは意を決すると空式零へとワイバーンを向かわせる。

風の翼を広げ一気に空式零の懐へと飛び込む。

「大した踏み込みだ・・・が、ぬるい!」

空式零は両手を合わせてワイバーンに向かい溜めた電撃を放った。

その電力はメタルレプリカの機能を麻痺させるには十分だ。

まぁ・・・当たればの話だが。

「もう、そこにはいないぜ」

ワイバーンは背後から空式零に切りかかる。

「!」

チェーンダガーは空式零の装甲をかすめる。

咄嗟の反応で直撃をまぬがれたがそれは確実に空式零を捕らえていた。

「速い・・・」

「くらえよぉ!」

ワイバーンは風の翼を大きく広げ空式零に斬りかかる。

「旋空陣!」

空式零はエアロウィングを竜巻に変えワイバーンに放った。

強大な風の渦はワイバーンを吹き飛ばす・・・はずだった。

ワイバーンは渦の周りを回転すると竜巻を中和する。

「なっ!」

「魔力を使おうが結局は自然現象だろ!」

ワイバーンは回転の勢いをつけたまま空式零に斬り付けた。

「くっ!」

空式零は手のひらに障壁を発生させてチェーンダガーを受け止める。

だが、勢いをつけたチェーンダガーの勢いはその程度では止められない。

障壁ごと腕を切り裂いた。

「うわっ!」

「これで終わりだ!」

そして、トールはサラサにとどめを刺すべくチェーンダガーを突き立てる。

コックピット直前の装甲スレスレにチェーンダガーが突きつけられる。

先端が装甲を微妙に削っていった。

 

格納庫

破損した空式零を整備員たちが必死に修理している。

その前でサラサは泣き喚いていた。

「あぁ!くやしいぃ!!あんな若造にしてやられるなんて!」

サラサは歯を食いしばり必死に涙を耐えている。

そこまで悔しいのだろうか。

「くくく・・・ざ〜こ」

トールはサラサの頭に手をのせて呟いた。

その口調、表情は完全に目の前の敗者をあざけ笑っている。

「自分が少将なのにメタルレプリカに乗る理由は何だったのかな?

まさか、前に出て皆に護ってもらうためかなぁ?」

他人の嫌がることをすることにかけてトールは饒舌になる。

だが、もちろんそれは他人の怒りを買うということだ。

サラサは燃えるような目つきでトールをにらみつけた。

「貴様は・・・殺す!シロガネ流頭首の名にかけてその関節全てをへし折り、たたきにしみじん切りにし

炒めて食堂で、10ギラで売ってくれるわぁ!!」

サラサはカマイタチを発生させトールに襲い掛かる。

「幾らなんでも安いぞ!せめて10000ギラにしろ!」

「五月蝿い!貴様の肉など1ギラでも高いぐらいだ!さぁ、死ね!直ぐ死ね!今すぐ死んで我にわびろ!」

「やだよ。誰がお前みたいな雑魚に殺されるか」

「雑魚!?雑魚だと・・・あれは偶然だ。これから戦えば我が完勝してくれる!もう、負けん!

勝負だ!その自信、粉々に砕いてくれる!!」

「まぁまぁ、強がり言うなよ」

「ふざけるなぁ!!」

二人はそのままどこかへと走り去っていった。

「あのクソガキ・・・手前が寝たらもう一生、おきれねぇぜ」

ガトアはトールの寝込みを襲い殺す計画を立てている。

「トールが死ねば無条件で貴様の責任にだぞ。見張り役」

そこにやってきたファルクがガトアに言い放った。

ガトアは真剣に悔しそうに頭を抱えている。本気だったらしい。

「すみませんね。うちのバカが迷惑かけて」

人のことをいえるような性格じゃないラスクが謝っている。

「いや、サラサ様はどうにもプライドが高くてな。これで少しは世界の広さを知ってくれれば良い」

サラサは自分の力を過信している。

確かにあの年であの能力は相当な強さだ。

しかし、その素質と成長速度の為に自分が世界最強とは言わないまでも相当に自信家である。

更にシロガネ流の頭首、エアーズ軍少将という立場は彼女に更なる自信を与えていた。

過剰なまでに自信過剰というわけではない。

だが、それでも気にはなるものではあった。

「彼女は死ぬべきではないこの戦いでな」

「お優しいことで。普通ならあんな子供の下にいることを恥じるものですけどね」

ラスクの言うことはもっともだろう。

大人が子供に使われるという状況。普通に考えれば屈辱以外の何者でもない。

「それは大丈夫だ。我々、シロガネ一族は彼女を党首と認め、下位の兵士たちは我々を認めている。

それに我々は彼女につかわれているつもりはないしな」

ファルクは少し笑みを浮かべながら述べた。

ラスクの知らない彼らの絆があるのだろう。

それに口出す気は無い。

「けっ、何が我々、シロガネ一族だ。部外者がよ」

「ガトア」

悪態をつくガトアをファルクはにらみつける。

だが、ガトアはひるまずに睨み返した。

「オレは認めてねぇ。サラサ様がなんと言おうとな」

ガトアはそういうとそのままどこかへと消えていった。

その身のこなしは流石、忍者といったところか。

「見苦しいところを見せたな」

「いえいえ、どんなところでも問題はあるもんですよ」

ラスクはさほど興味を抱いていなかった。

彼らの問題は彼らの問題だ。自分が口を出すことではないと割り切っている。

それに他人の問題を世話するほどに余裕はないし物好きでもなかった。

「トールは生きてるかな」

ラスクは未だに戻ってこない親友のことを思い出しつぶやいた。

 

「がぁ!手前がむやみやたらに忍術を使うからだぞ!」

「貴様が盾にしたからだろうが!!」

トールとサラサは廊下を疾走していた。

その背後から殺気を放ちシャサがその後を追いかけている。

トールが彼女の部屋に逃げ込み、盾にしたのが原因だった。

故に彼女は激怒し彼らを追っているのだが・・・

「まぁてぇ!!」

「すまん!話し合おう。人間、話し合いが一番だ」

「説得力が無いよ!」

「我はこいつの策略にはめられたのだ。我に非は無い」

「問答無用!!」

暴走を繰り広げる三人。

流石に悪いなと思っている二人は反撃はしていない。

だが、素直に殴られるのが嫌なのか必死に逃げ回っている。

そんな二人を追いかけるシャサの脚力も相当なものだ。

片や長身で脚も長く、山で育った青年。

片や忍者として幼い頃から修行を繰り返した少女。

それに追いすがっているだけでも相当なものだ。

二人とも内心で驚愕しながら走り回っている。

道行く兵士を突き飛ばし、機材を破壊し、書類を滅茶苦茶にしながら。

後にファルクが激怒。

トールとシャサは謹慎処分として部屋からの出入りを禁止され、

サラサは半日に及ぶ説教の後に溜まった仕事を片っ端から片付けさせられていた。

そんなこんなでトールたちを乗せたキングオブエアーズはエアーズへとつこうとしていた。