世界が赤に染まる・・・

空に不吉な黒い紋様が紡ぎだされ奇怪な化け物が飛び交っている。

鋼の身をもつ巨人たちが銀色の波動を放ち大地を揺るがす。

硝煙が立ちこめ、血煙が舞い散り、断末魔の悲鳴だけが世界に残留する。

ひしゃげた鉄が、引きちぎられる命の器が絶望に彩を与えていく。

泣き叫ぶ声、怒りに狂う叫びすらも空へと飲み込まれその根本が消え去っていく。

暗い何よりも暗い赤・・・

希望の色ははげて残るはかすれた宝石・・・

何もかもが漆黒の狂気に飲み込まれていった・・・

「起きろ」

一つの声が聞こえる。

はっきりとした声・・・

「起きろ!」

夢の中に漂うシャサの意識に介入するように声が聞こえる。

目覚めの声・・・

この世界に存在するどんな声・・・音よりもその声を鼓膜ははっきりと捉える。

虚ろい、世界に漂うように拡散する意識が声に導かれるように集結する。

 

「・・・・・・・」

シャサは静かに瞳を開けた・・・

空気が頬にしみる・・泣いていたことを知ったシャサは目の前の青を赤い瞳に写した。

「悪夢でも見たのか?」

トールは何時もと変わらない様子で尋ねる。

「・・・うなされてた?」

「いや、いきなり泣いてたからびびったぞ。うなされてたほうが分かりやすい」

トールはそういうとシャサの額に手を置いてもう一つの手で自分の額を押さえた。

「・・・熱は無いよな」

「風邪じゃないよ」

「いや、頭がおかしくなったのかと」

「・・・怒るよ」

シャサは上半身を起こした。

昨日、買ったばかりの新品の布団と枕はなれずに上手く眠れなかった。

少し眠そうな様子で目をこすっている。

「(・・・また、あの夢か・・・)」

シャサはため息を漏らした。

そんなシャサの横でトールはコンビニの袋からパンを取り出している。

アンパンを二つ。後は紙パックの牛乳だ。

今朝早くに起きて買ってきたものらしい。

既にトールは普段着に着替えている。

まぁ、寝巻きと言っても普段着との違いはYシャツを着てるか着てないかの違いだけだが。

トールはまだ、ボーっとしてるシャサの顔目掛けてアンパンを投げつけた。

「っいた!」

アンパンはシャサの顔面で跳ね返り布団の上に落ちた。

「とっと起きろ。それ食ったら出かけるぞ」

トールはそういいながらアンパンの袋を開けて噛み付いた。

「出かける・・?何しに?」

これと言った目的をシャサは思い当たらなかった。

買うものはある程度は昨日のうちに済ませた。

これから一日中ゴロゴロと過ごしてても問題はないはずだ。

「いきゃ分かる」

「まさか、デート?私はトールと付き合う気はないよ」

「違うわ!」

トールは牛乳パックをシャサに投げつける。

シャサはそれを手で受け止めるとクスクスと笑っていた。

「(・・・あいつオレをからかう事、面白がってやがるな・・・)」

トールはシャサの笑みを見ながらため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機 鋼 神 王

第二章

空、近く

第十一話

ひと時の安らぎ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空と大地を太陽が照らし出している。

空は青く染まり白き雲が流れていた。

アスファルトの大地が光を照り返し人々の雑踏と談話が空気を振るわせる。

自然は少ないが街路樹が人々を直接の光から護っていた。

トールとシャサは並んで歩道を歩いていた。

傍目から見れば兄弟と見られるだろう。

似てはいないがそれ以外の関連性が思い浮かばない。

年の離れた恋人は可笑しいと思うだろう。

まぁ、彼らの関係を簡単に言うなら仲間といった方が良いのだろう。

「何処に行くの?」

シャサがトールを見上げて尋ねた。

家を出てからトールはいっこうに目的地について語ろうとはしなかった。

さっきからキョロキョロと辺りを見回しているだけだ。

「・・・ナンパ・・とかじゃないよね」

シャサは少しむくれた様子で尋ねた。

さっきからキョロキョロしてるのが女性を捜しているように見えたらしい。

「ナンパの場合、こぶ付きはリスクしかないぞ」

トールはシャサを見下ろし答えた。

「じゃあ、何?」

「教えて欲しいか?」

「うんうん」

「じゃあ、千回回ってご主人様教えて欲しいワン、と言ったら教えてやらんでもないぞ」

トールの弁慶の泣き所に鋭い蹴りが決まった。

「いてぇな!」

「ふざけないで教えてよ!」

「人間・・・知らないほうがいいこともあるんだぜ」

トールはしみじみとした表情で呟いた。

「おまわりさ〜ん。この変態が私を売りさばこうと・・」

「っおい!」

トールはとんでもないことを口走り始めたシャサの口をふさいだ。

「っふが・・むぅ・・・」

シャサは口をふさがれて怒っている。

トールは辺りを見回して警官が近づいてないことを確認すると手を離した。

「いい加減にしろ」

「こっちの台詞だよ!」

シャサはさっきからはぐらかされてご立腹のようだ。

「はいはい、分かったよ。教えるよ。シャサ、お前はオレに貸しがあることは覚えてるな?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」

シャサはじ〜っとトールの顔を見て首をかしげた。

「覚えてないのか」

「うん!」

シャサは直ぐに力強く頷いた。

それにトールはため息を吐く。

「シャサ・・・お前はオレに一万ギラの貸しがあるだろ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」

シャサは首をひねってずっと考えている。

「最初に会った時!」

「・・・海に飛び込んだんだよね」

「その前」

「バスに乗ったらトールが乗ってた」

「その後」

「運転手さんに誘拐されそうになった」

「その理由」

「私が可愛いから」

「それもあるだろうが違う!お前が金持ってなかったから貸してやったんだろうが!」

確かにトールは最初にシャサと会った時に金を貸した。

元はといえばシャサに金を貸さなければ一緒にいることもなく。

もしかしたら皇国軍の兵士になることもなくシャトレーゼ辺りで暮らしていたかもしれない。

そう思うとトールはシャサの顔をマジマジと見た。

「・・・オレはお前に人生を狂わされた気がするぞ」

「えっ・・・」

トールの何気ない一言にシャサは驚いた。

そして、急に黙り込んで暗い表情になる。

今度はトールが驚いていた。

ただの冗談のはずだったのにまさか、ここまで落ち込むなどとは・・

「何気にしてんだよ。お前と会った程度でオレの人生が変わってたまるか。それに何となく生きがい見つけたし

逆に感謝してもいいぜ」

トールはうつむいてるシャサの頭を撫でながら言った。

「・・・・・本当?」

シャサは上目遣いでトールを見て尋ねた。

「当たり前だろ。と、言っても金は返してもらうからな」

「えうぅ・・・凄いケチだね。今更、返さなくたって問題ないくらいにお金持ってるのに」

「金が欲しい欲しくないの問題じゃない。これはお前の成長の為に必要不可欠な行為なのだ!

借りたら返す。それが護れなくては人として失格だぞ」

トールは割りとまともなことを言い出した。

だが、強引に金をかした挙句に連れまわした男が言ってもさほど説得力は無い。

「えうぅ・・・分かったよ」

シャサは仕方なく了解した。

どうせ、反論したところでトールは曲げないだろう。

シャトレーゼでもそうだったのだから。

「まぁ、とりあえず仕事を探してるんだが・・・子供でも出来るようなところはないかな?」

トールは前回の失敗を参考にバイトを探していた。

基本的に大手チェーン店などは採用基準が決まってそうなので没。

後は子供でも出来そうな仕事で店長さんなどが良い人そうならば問題はないはずだ。

     ・・あるのか?

「まぁ、これだけ広い国だからあるいてれば何かしらあるだろう」

トールは自分にそう言い聞かせると歩き出した。

その後をシャサが付いて行く。

 

昼ごろ・・・

結局、雇ってもらえそうな所が見つからずに歩きつかれたため近くにあったファーストフード店に立ち寄った。

昼時だということもありレジは並んでいる。

トールはシャサに席をとって待っとくように言うと行列の最後尾に並んだ。

行列は意外なほどのスピードで進んでいく。

速さが売りなファーストフードMと言えどもかなりの速さだ。

何せ他の列よりも明らかにスピードが速い。

そして、そうこうしてるうちにトールの番まで回ってきた。

「あっお兄さん」

レジの女の子が突然、トールの顔を見て声を上げる。

メニューを見下ろしていたトールが顔を見るとそこには昨日あった猫耳の少女が立っていた。

「何でいるんだ?」

「ここのバイトだからだよ」

良く見れば征服も着てるしネームプレートも張ってある。

本当に従業員らしい。

「子供が働けるのか?」

「特別に働かしてもらってるんだ。そうそう、僕の携帯見つかった?」

「いや」

「えぇ!捜してくれるって言ったじゃん」

「一言も言ってないぞ」

「はぁ・・・まぁいいや。とにかくご注文をどうぞ」

少女はふてくされた顔から瞬時に営業スマイルをとり尋ねてきた。

トールはそこにプロの顔を見る。

まぁ、並んでるのに私語を繰り出してる時点でプロとしてどうかとは思うが。

 

トールはハンバーガーのセットを二つトレーに載せてシャサの座ってる席に来た。

「あっやっと来た」

脚をぶらぶらさせてボーっとしてシャサはトールを見つけて笑顔になる。

「これでも速いと思うぞ」

トールは注文をとった後の少女の動きを思い出していた。

凄まじい身のこなしで注文の品を即座にそろえると直ぐに会計を済ましおつりを渡した。

接客の態度、笑顔共に申し分ない。

子供とはいえ侮れないものを感じていた。

「・・・こいつには無理だな」

トールは目の前でおいしそうにハンバーガーにかぶりついてるシャサを見て呟いた。

 

二人は食事を済ませると何処で働くかの相談を開始した。

「あそこの玩具屋あたりなら・・・」

「私、玩具のことなんて知らないよ」

「まぁ・・・子供が子供の相手してるのも笑えるな・・・」

シャサが働いてる目の前で同じぐらいの子供が親と一緒に買い物をしてる姿を思い浮かべて却下した。

「う〜ん・・・こことか」

トールはさっきシャサと同じぐらいの少女が働いていたのを思い出し呟いた。

もしかしたらここでなら雇ってもらえるかも知れない。

「よさそうだね。ハンバーガー食べ放題だし」

「売り物に手を出したら即クビだがな」

トールは子供らしい単純な発想を聞き苦笑していた。

「何の話してるの?」

そこに聞き覚えのある声がやってきた。

トールが振り向くとそこには私服姿の猫耳少女が立っている。

「お前は仕事はどうしたんだ?」

「今日はもう上がりだよ。それでちょっと食事して帰ろうとしたらまだお兄さんがいたから」

少女はあいも変わらず気さくに話しかけてくる。

「知り合い?」

シャサはトールに尋ねた。

「限りなく知らない知り合いだ」

「だねぇ」

トールの言葉に少女は頷いている。

「・・・彼女?」

少女は少しトールと距離を置いてから尋ねた。

「違う!まぁ、妹だ」

「・・うん、そうだよ」

少女はトールとシャサの顔を見比べている。

「ふ〜ん。で、何の話ししてるの?」

「言う必要あるのか?」

「だってこんな昼間から兄妹が親密そうに話してたら気になるよ」

「気にするな。以上」

トールはそういうと追い払うように手を振った。

「いいのかな?バイトの推薦してあげないよ」

「・・・聞いてたんじゃねぇか」

笑顔の少女の顔を見てトールはため息を吐いた。

「僕の名前はティサ=セイ」

少女はそういうとトールの横に座った。

「オレは・・・ルート・・・で、こっちが・・・支社・・・じゃなくてサシャだ」

トールはつっかえながら自己紹介を終える。

偽名は気を抜いてるとすっかり忘れてしまいそうだった。

二人でいるときは普通に本名で会話してるし。

「ふぅん」

ティサは少し胡散臭そうだと思いながらも頷いていた。

まぁ、自分の名前を言うのにつっかえてればそうも思うだろう。

「で、バイトを推薦してくれるってのは本当か?」

「うん、別にいいよ」

「よっしゃ!これで道は開けたぞ」

トールは嬉しそうだがシャサ自身は仕事が見つかってしまって残念そうだ。

仕事が見つかる=働かなければならない。

それがいやらしい。

「それじゃあ早速、店長に話を」

「あっここじゃないよ」

「えっ?」

「人手が足りてるからここじゃ雇ってもらえないよ」

「おいおい、約束が違うぞ」

「大丈夫大丈夫。僕はバイトを掛け持ちしてるんだ。これから行くバイトの店長さんはとても親切だから

絶対に雇ってくれるよ」

「バイトのかけもちって・・・何でそんなに働いてるんだ?」

「う〜ん・・・愛の為だよ」

ティサは一言だけそういった。

 

ティサに案内されてやってきた場所

そこは小さな花屋だった。

フラワーショップサークレスと書かた看板がかけられ。

色とりどりの花が店先と店内に置かれていた。

「こんにちは〜」

ティサは自動ドアが開くと元気良く挨拶する。

するとレジで眠っていた少女がビックリして飛び起きた。

「あっおはようございます・・・もうそんな時間なの?」

少女は時計を見て驚いている。

一体、何時から寝ていたのだろうか?

年齢はトールよりも少し下ぐらいの少女だ。

とても花が似合う少女で可憐とはこのことだと思わせた。

「今日は人手連れてきたよ」

「えっ本当ですか?」

「うんうん」

ティサがそういうとトールとシャサは店内に入ってきた。

それを見て少女は驚いている。

「わぁ、ありがとうございます。しかも二人もだなんてなんとお礼を申し上げていいか・・・」

少女はかしこまってしまっている。

深々と頭を下げられトールとシャサは困っていた。

「いや、そんなに喜ばれても別に初心者なんですが」

「いえ、別に問題ないですよ」

少女は今にも泣き出しそうな勢いで喜んでいた。

どうしてこんなに感謝されるのか分からない二人は困惑している。

「本当にありがとうねティサちゃん」

「別にいいよ。シルヴィお姉さんにはお世話になってるし」

「でも、二人も連れてきてくれるなんて」

「大丈夫だよ。どうせ、他で雇ってくれるところも無い人たちだから」

何気にバカにされていることに少し不満を持つがトールたちは黙って見ていた。

「それじゃあ、二人ともこちらに来てください。その間の店番は頼みましたね」

「は〜い」

シルヴィは店番をティサに任せるとトールとシャサを奥へと招きいれた。

 

トールとシャサは書類にサインするとシルヴィにそれを渡した。

シルヴィはそれを確認するとエプロンを二人に渡す。

店名が書いてあるとてもシンプルなものだ。

シャサのほうには何故かフリルがついてる。

「それにしてもすいません。まさか、時給400円で働いてくれる人が来るなんて」

シルヴィは申し訳なさそうに笑みを浮かべながら言った。

その言葉にトールは驚いている。

「400円!?」

いくら、何でも安すぎるだろう。

マンガ本が一冊が大体400円だ。

一時間働いてもそれぐらいの稼ぎにしかならない。

「えっ!?ティサちゃんから何も聞いてないんですか?」

トールの驚きにシルヴィも驚いていた。

トールが頷くとシルヴィはおろおろとし始める。

「えっえっ・・・す、すみません。知らなかったなんて・・・ダメですよね。

400円なんてぼったくりもいいところですし・・・」

シルヴィはいきなり頭を何回も下げて謝ってきた。

こうも頭を下げられていると逆に自分が悪いことをしたような錯覚に陥ってしまう。

「いや・・・別にいいよ。400円でも・・・」

トールは苦笑しながら言った。

別に直ぐに要りようのお金ではないしシャサに金を返させることを教えるためのものだ。

だったら時給が幾らだろうがさほどの問題にもならないだろう。

どうせ、ある程度働けば溜まるのだ。

「ほ・・本当ですか!?」

「本当、本当」

「あ・・・ありがとうございます〜。人手足りないんですけどあんまりお金稼げないから困ってたんですよ」

それは商売の仕方に問題があるんじゃないのかと思ったがあえてトールはつっこまなかった。

さっきからの対応などを見てれば商売以外にも問題はありそうだ。

「それではすいませんが今日から働いてもらえますか?」

「別にいいよ。なっ?」

「うん、私は別にいいけど」

シャサはエプロンをひらひらとさせながら答えた。

エプロンはシャサの丈に合ってないらしく足首の辺りまで隠している。

「すいません、子供用のサイズはティサちゃんの分しかなくて・・・明日までに作っときますんで」

「まぁ・・・子供を雇ってもらえただけでもありがたいんで問題ないけど」

トールはどうもこう謝られていると調子がつかめなかった。

頭をかきながら苦笑いを浮かべている。

 

ここの花屋・・・フラワーショップサークレスは意外と好評らしい。

結構、ひっきりなしに客が来ている。

ただ、従業員が店長のシルヴィとバイトのティサしかいない為に営業時間が短いというネックを抱えていた。

更にシルヴィは疲れると突然、眠り始めるために急に営業中止になるというアクシデントに見舞われる。

さっき来たときに寝ていたのもそのためだ。

その話を聞いてトールとシャサは少し呆れていた。

 

「それじゃ、ルートさんは私がレジを教えるからティサちゃんはサシャちゃんに仕事を教えて」

「は〜い、ビシバシ行くから覚悟してよ」

ティサはシャサを連れて花の前で説明を開始している。

トールはカウンターに立つとレジの打ち方を習い始めた。

「まぁ、簡単に言えば値段をいれてお金をもらっておつりを払えばいいだけですから」

本当に簡単な説明をしてくる。

「へぇ、レジって触るの初めてだな」

トールは適当にボタンを叩いている。

「あっ!勝手にいじらないでください」

「何で?」

「何でって滅茶苦茶になるじゃないですか。その日の売り上げとかも記録してるんですよ!」

シルヴィは焦りながらボタンを叩いている。

「ふむ・・・奥が深いな」

基本的に機械はメタルレプリカ以外扱ったことの無いトールは唸っていた。

世界最高峰の機械であるメタルレプリカが扱えるくせにレジ一つに手間取っているのもどうかと思うが。

「あんまり勝手にいじらないでくださいね。いいですか、お花の合計値段を最初に打って

その後にもらったお金分を打って、おつりがあるなら表記され分だけ渡すんですからね」

「・・・・・・・・・・・・任せろ!」

凄まじい間の後にトールは力強く叫んだ。

シルヴィは流石にその態度に少し不安を覚えているらしい。

「頼みましたよ・・・私は外のお花とかの手入れしてきますからそこに立っててください」

シルヴィはそういうと肩を落としながらトボトボと歩いていった。

トールはシルヴィが去った後もずっとレジを見つめている。

「・・・・・・・うむ」

何かに納得して頷いていた。

 

「良い接客は笑顔が一番だよ」

「笑顔」

シャサはにこりと微笑む。

「ダメ!うそ臭いよ!もっと自然に!そう、愛する人を思い出すような感じで!」

ティサは熱心に叫んでいる。

シャサはその言葉を真剣に聞いて頷いていた。

「愛する人・・・愛する人・・・・・・うぅん・・・?」

シャサは頭を抱えて悩んでいる。

「あのお兄さんはどう?」

ティサはレジの前で唸っているトールを指差して尋ねた。

シャサはその青い青年を赤い瞳に捕らえる。

「・・・・・どっちかというと睨みつけたくなるよ」

シャサは正直な感想を漏らした。

「・・・ダメだね。それじゃあ面白かったこと」

「面白かったこと・・・トールとラスクの漫才は見てると面白いよ」

シャサは今まで二人と出会ってから繰り広げられてきた肉体派漫才を思い出して笑った。

「その笑顔はいいよ!」

ティサは親指を立てて叫んだ。

合格点を出したらしい。

「やった〜」

その言葉にシャサは普通に喜んでいる。

「でも、トールとラスクって誰?新人芸人?」

「トールとラスクは・・・・・・・」

シャサはそこで自分たちの立場を思い出した。

そう、トールは偽名を使ってそこにいるしラスクにいたっては説明できない。

シャサは冷や汗をかきながら焦り始めた。

このままでは嘘がばれてしまう。

「え・・・えっとぉ・・・」

「どうしたの?」

「う・・・・えっと、私が前に住んでたところで頑張ってた売れない芸人だよ」

トールとラスクは売れない芸人にランクダウンされていた。

「ふぅん、でもさっきの笑顔はOKだよ」

「分かった」

ティサはさっきの言葉に納得したようだ。

まぁ、腑に落ちない点がありそうだが追求はしてこないらしい。

「それじゃあ、次にもっと上級のテクニックを教えるよ」

「上級?」

シャサはその言葉の響きに魅力を感じている。

「そう、お客さんは褒めて褒めて褒めちぎるんだよ」

「褒めちぎる?」

「そう、例えばすっごく不細工なお客さんがもう、釣り合わないお花を買おうとしていも絶対に似合いますとか

言うんだよ。彼女のプレゼントですって言ってても絶対に、本当に彼女いるんですかぁ?とか、ブスなんだから似合いませんよ、

なんてことは絶対に言わないでね」

ティサは凄くかわいらしい笑顔で毒を吐いている。

シャサもシャサでその言葉に納得して頷いている。

「分かった。妙に太ってて汗かきのキモイ人でも褒めて見せるよ」

「その粋だよ!」

二人は妙に意気投合している。

はっきり言ってこんな会話はお客さんに聞かせられないが。

 

エアーズ軍空艇師団ガルウィングメタルレプリカ格納庫

そこでラスクはワイバーンの調整を行っていた。

「っくしゅん・・・誰か噂してるのかな?」

ラスクは鼻をかきながら呟いた。

「ふぅ・・・次に戦うときまでにワイバーンを完全な状態にしとかないとな」

ラスクはこの前つけたばかりのエアロウィングの調整を行っていた。

完全に適合出来ていたように見えたたが実際には各部のパーツに相当な損傷を与えていた。

機体を完全に飛行させ尚且つ音速まで加速させるのだ。

十分な調整も行わずに即、稼動実験を行ったためにワイバーンは悲鳴を上げている。

それにワイバーンに取り付けられているエアロウィングは特別製のものだ。

キングオブエアーズの倉庫の中に使える機体が存在しないために保管されていたエアロウィング。

製作者は不明だが一説には永遠の忘却の時代から存在しているとも言われている。

プレミアクラスの部品なのだ。

「どうっすかぁ?」

ラスクが思案しているとキングオブエアーズの整備員たちが話しかけてきた。

彼らとはワイバーン製作の際にお世話になっている仲だ。

このエアロウィングも彼らにもらったものである。

「うん、予想以上にこのエアロウィングの性能が凄いから・・・本来は通常のエアロウィングを搭載するために作ったからね」

その為に金属の耐久数値を超えてしまっていたのだ。

幸いワイバーンの装甲材質であるブルーメタルはエアーズのメタルレプリカの装甲材と同じものなので補給はたやすい。

だが、今のままではワイバーンは戦闘のたびに装甲を交換しなくてはならなくなってしまう。

それではダメだ。

これからのことを考えればワイバーンの装甲をかえられるチャンスはほとんど無いはず。

トールたちの唯一の戦力であるワイバーンはいつでも全力を出せるようにしなければならない。

「間接部分をブラックメタルあたりにして見たらどうですか?」

「いや、部品製造は今からじゃ間に合わないだろうし重量バランスを崩してしまう」

「だけど、現状のままでは音速加速にワイバーンの装甲は耐えられない」

整備員たちもワイバーンのデータを見て色々と意見を出し合っていた。

「妥当な線で間接部分の補強・・・しかないんじゃないですかね」

整備員の一人がラスクに尋ねる。

だが、ラスクはそれに答えずにぶつぶつと独り言を呟いていた。

「・・・すいませんけど空式零のデータ見せてくれませんか?」

「別にいいけど・・・空式零は加速よりも空中での運動性を重視した機体だから参考には・・・」

「いや、僕の予想が正しければそのデータさえあればワイバーンは飛び続けられる」

ラスクはニコリと笑った。

 

ラスクは空式零のデータを見続けている。

空式零・・・正式名称は空式。エアーズで量産されているメタルレプリカ空式の原型に当たるメタルレプリカだ。

代々シロガネ流忍者頭領に受け継がれるプレミアのMRでありその空中での戦闘能力は他のプレミアを圧倒している。

本来は魔法攻撃用の機体ではなく機械兵器による攻撃を得意とする機体であり

現在の使われた方は確実に負荷がかかっているはずだ。

だが、それでも装甲は悲鳴を上げることも無く普通に稼動している。

装甲は物質強度の他に鋼力から受けるエネルギーと搭乗者の魔力や精霊圧により変化する。

搭乗者の魔力程度では大きな変化は受けないが人間の何千倍もの魔力を持つ鋼力エンジンなら話しは別だ。

そのエネルギーのベクトルを装甲にまわせば圧倒的な防御力を誇ることも出来る。

だが、いくら膨大なエネルギーを発生させる鋼力エンジンと言えども限界はある。

ワイバーンは加速性能とパイロットにかかるGを減少させる対魔術術式にそのエネルギーのほとんどを費やしている。

攻撃力はスピードから生み出されるエネルギーを利用し装甲は避けることを前提に無視している。

つまりは装甲材質を変えなくても装甲強化に鋼力エネルギーを振り分ければ耐えられるようにはなるわけだ。

だが、それではスピードを犠牲にしなくてはならず本末転倒だ。

スピードこそがワイバーンの命。それを失うのでは何の意味も無い。

ラスクは必死に空式零のデータを見つめていた。

プレミアは解析されているとはいえ未だに一部がブラックボックスのままだ。

そこの解明が出来ていないために同じ機体を製作できないわけでもあるが。

「・・・エアロウィングへのエネルギーの流れ・・・可笑しいエアロウィングを稼動させるだけならこんなに

鋼力を使わないはずだ・・・」

エアロウィングはさほど鋼力エネルギーを使わない。

その理由は大気自体も精霊を含み魔力を持っているからだ。

大気自体が魔力伝達率は今までに発見されている様々な物質のなかでもトップクラスだ。

だから、人の魔力でも魔法が扱え相当な威力に高めることが出来る。

魔法機関であるエアロウィングはやろうと思えば搭乗者の魔力だけでも動かせるのだ。

「・・・なるほどね。エネルギー伝達の効率から流れが一つなのか・・・」

ラスクはにやりと笑った。

ラスクはワイバーンを現状のままで戦闘継続時間を上げる方法を見つけ出した。

そう、それは今までどんな研究者も達成できなかったことである。

「・・・だが、これだけとは思えない・・・何か理由が・・・」

しかし、この程度のことなら過去の誰かが気づいたはずだ。

ラスクは少し不安を覚えつつも横にそびえるワイバーンを見上げた。

試して見るしかない・・・

実験の為に再びワイバーンの体を酷使することに罪悪感を感じながらラスクは頷いた。

 

メルは純白のシーツをその身に纏いベッドの上で眠っていた。

腕には点滴がさされ栄養がその体に送られている。

その周りで数名の医師たちが体に取り付かれた危機を覗き込んでいた。

その様子をファンブラン大将とサラサ少将が観察している。

「一向に意識が戻る気配は無いらしい。医学的にはほとんど仮死状態だという」

心電図はほとんど動きを見せず時々、本当に弱弱しく反応するぐらいだ。

普通なら死んでいるはずだが確実にメルは生きていた。

「医学は科学だからな」

「そう、魔学で考えればありえない話ではないらしい」

メルに取り付けられた魔力測定器。

そのモニターに映し出される数値は常軌を逸していた。

それは人間のレベルではない・・・

むしろ、人間用のものでは測定できずにMR用のものを使っているほどだ。

「・・・空式零よりも魔力が高い・・・か」

サラサは表示されている数値を見て呟いた。

驚いていないわけではない。

最初に見たときは故障かとも思ったものだ。

だが、それは紛れも無い事実だ。

あの小さな体の中には巨大な魔力発生器である鋼力エンジンを持つMRよりも高い魔力を有している。

それに体の細胞が耐えられずにメルは病弱なのだ。

いや、病弱というのはおかしな話だ。

メルは病気にかかったことなど一度もないのだ。

病原菌などメルの体に入った瞬間、その膨大な魔力の前に瞬殺される。

ただ、自分が持つ強大な力にその身が耐えられず命が削られているのだ。

「これを見てもまだ、この力を求めますか?」

サラサはフォンブランに尋ねた。

目の前にある力は人が持ってはいけない力だ。

伝説の生命体機鋼の複製品であるMRを超える力を持つ少女。

その力に体が耐えられ魔法を放った場合。

その威力はMRの魔法兵器を超える威力を誇る。

更にMRに乗ればその性能は単純に二倍になる。

下手をすれば一つの国を消し飛ばすこともたやすい力だ。

「当然だ。まさか、これほどまでとは思っていなかった・・・エンシェント。

永遠の忘却の時に生まれたと言われる最強の人・・・その力、解明すればエアーズは最強だ」

子供のような笑みを浮かべるフォンブランを見てサラサは苦笑した。

プレミア程度すらも完璧に解明できずに制御もままならない今の人間に

それすらも超える存在であるエンシェントの解明など不可能だ。

分もわきまえない力などあってもしょうがない・・・

そして、目の前で眠り続ける少女は人なのだ・・・命を持つ。

「(だが・・・普通に考えてとっくに死んでても可笑しくないはず・・・一体、誰が処置を?)」

エアーズの医療技術を持ってしても意識を回復させられないというのに

シャトレーゼにいたときはたった一人の主治医によりある程度の生活を送っていたという。

現に一緒に風呂まで入っていた。

「(特定の条件下で細胞が魔力に耐えうるのか・・・特殊な薬を使っていたのか・・・分からないが

彼女の意識を戻さぬ限り作戦は延期するしかない・・・か)」

サラサはヴェルフォースとオウル教の次の行動に不安を覚えつつも目の前の少女を見守った。

言い知れぬ不安が彼女の脳裏に過ぎるが今のままでは何もすることは出来ない。

 

「エアロウィングのエネルギーを装甲に?」

ラスクの突然の発言に整備員たちは驚いている。

今までどの研究者たちも言ったことが無い、試されたことが無いことをやろうというのだ。

「何を言ってるんですか?エアロウィングで発生したエネルギーは全て風を発生させて機体を飛ばすのに

使われてるんですよ」

いきなりの発言に整備員たちは呆れている。

常識的に考えて不可能なのだ。

「分かってるよ。だけど、空式零は間違いなくエアロウィングの力を自分の力に変えている。

そのおかげで魔法兵器による格闘戦・・・忍術が可能なんだ」

ラスクの発言に整備員たちは黙ってしまった。

確かに空式零の構造上、忍術を使い戦闘を行えるのは可笑しい。

現に量産型は忍術を使うことは出来ないし、四天王が使う忍者専用機も色々な能力を犠牲にしている。

オールマイティに戦え忍術を扱えるのは空式零だけなのだ。

「でも、どうやって?分かってると思いますけどエアロウィングはジェネレーターじゃない。

いくら、エネルギーを発生させていても飛ばすのに全部使ってるんだ」

「科学の及ばぬところ魔法あり、魔法の及ばぬところ科学あり。君たちが言ってることは科学・・・

粒子法則であり精霊法則じゃない」

ラスクのその言葉に整備員たちは凍りついた。

はっきり言って何を言ってるのか理解できない。

「まぁ、用は柔軟な発想ってことだよ。基本的に魔法は攻撃にしか利用しないことが多いから理解しにくいだろうけど」

ラスクはそういうと画面に自分の構想を映し出した。

それを整備員たちは覗き込む。

そこにはエアロウィングを発生させるために大気を取り込む際に魔術式を通しエネルギーを発生させるとしていた。

「・・・バカですか?」

「何だと!?」

「大気の魔力を使ったら風が発生しないでしょ!」

「これだったら前に提案された風の勢いでタービンを回して電気を発生させるってほうが良いと思いますよ」

整備員はラスクの発案にため息を吐いていた。

こんな方法じゃ無理だと決め付けているのだ。

その態度にラスクは憤慨する。

「この僕を誰だと思ってるんだ!タービン回転させて電気を発生させたって装甲はパワーアップしないだろ!

それからもっと良く見ろ!」

ラスクが怒鳴ると仕方ないという様子で整備員たちはもう一度図面を見た。

良く見ると噴射口の辺りにも魔術式が描かれている。

「風の魔術式・・・?」

「魔法で風を発生させるって言うんですか?」

「でも、ドライバーのトールさんってほとんど魔力の才能は・・・」

整備員はその発案にも疑問を感じている。

「トールは魔法を使えない。才能が無いからね。その程度の魔法も扱えないだろう」

「だったら・・」

「君たちは全体を見るということが出来ないみたいだから口で説明するよ。

大気に流れる風をエアロウィングに取り込みその時に流れる精霊の力で魔力を発生させる。

まぁ、精霊シリンダーと同じものだ。当然、精霊は魔力の媒介になってしまう。

だけど、風自体は粒子運動だからまだ、エネルギー的にはそこに存在する。

そこでエアロウィングの横を通る風の魔力を使って粒子運動を加速させる。

理論上ではこれで加速性を落とさずに耐久値が上がるはずだよ」

「・・・だけど、それだと制御が相当難しく・・・」

「トールなら問題ない。後は・・・エアロウィングがその滅茶苦茶な術式展開に耐えられるか?」

それは賭けだった。

精霊を術式にそって運動させる場合にもある程度の衝撃はある。

それに耐えられるか・・・

 

それから徹夜で作業が行われた。

作業自体は術式を増やすだけなので大変ではないがその場所によって効果が変わる。

最大限に発揮できるポイントを計算しなおし徐々にずらしていった。

そんな中、ラスクは実際に空式零をいじっていた。

自分の理論に自身はあったものの何か腑に落ちなかった。

何故ならデータ上には術式がそこまで多数展開されてなかったからだ。

あれでは精霊を制御し切れるとも思えなかった。

物質・・・粒子強化よりも精霊制御のほうが難しい。

「・・・うそ・・・そんな方法があるのか・・」

ラスクはエアロウィングをいじりながら驚きの声を上げた。

それを見てラスクはため息を吐く。

「・・・風でタービンを回転させる・・・か。結構、的を得てたみたいだな。というか、これをみてやったんだろうな」

ラスクはエアロウィングの中に存在している一つの装置を見て呟いた。

それは精霊の運動を魔力に変換する装置・・・普通に精霊を魔力変換するよりも効率を上げるもの。

「まさか・・・粒子と同じで精霊も速度でエネルギーが変わるのか・・・」

魔法は精霊を制御することにより発生させられる特殊な力だ。

精霊は粒子と対を成す世界の構成物質であり人の体も当然、精霊を含んでいる。

魔力の高さというのは精霊の保有量とも言われており多いほど強い魔力を持っている。

精霊は精霊同士で反応しあうが連結することは無い。

精霊は粒子と結びつき様々な物質へと変化する。

体内の精霊を操作し粒子と結合させることにより物理現象を起こすのが魔法なのだ。

だが、精霊の運動がエネルギーを発生させるとは思われていなかった。

何気にラスクは世紀の発見をしている。

「・・・こっそりとコピーして組みこんどこ」

流石に空式零本体の解析は許されてなかったのでこの技術を公表する事は出来ない。

したら捕まってしまう。

ということでこのことはラスクの胸のうちにしまわれることとなった。

「・・・精霊操作・・・か。考えて見ればそれさえ出来ればこの世界・・・空間そのものも自由に出来るんだな」

ラスクは人が意思により扱えかつ、多大な効果をもたらす精霊に改めて驚かされていた。

 

 

初めてのバイトを終えたトールとシャサは事務室でくつろいでいた。

「ふぃ〜・・・疲れたぁ」

なれない仕事に思いのほかトールは疲労している。

普通に運動するのとは違った疲労感だ。

「えうぅ・・・辛いよぉ」

シャサはティサに習ったことを実践し心にも無いことを言い続け精神的に疲労していた。

「だらしないなぁ」

そんな二人を見てティサが笑っている。

彼女はここに来る前にファーストフード店でもバイトしていたというのに全く疲れた様子を見せていない。

獣人は子供でも人間の大人よりも身体能力が高いというがその差なのだろうか?

「良く二つもバイトを掛け持ちしてやってられるな。オレは一つでもしんどいぞ」

「二つじゃないよ」

「はっ?」

「えっとぉ・・・ここでしょMでしょ後は魚屋さんと工事現場とベビーシッターもしてるよ」

「五つも・・」

トールはそれでこんなにも元気なティサに感服していた。

よくもまぁそんなに働けるものだ。

「愛の為って言ってたけどどういうことなの?」

シャサがティサに尋ねる。

「そのまんまの意味だよ。僕、故郷に恋人がいるんだ。その結婚資金の為に働いてるんだよ」

「・・・・・・お前、いくつだ?」

トールはそれを聞いてじっくりとティサの顔を見ている。

小学校低学年ぐらいの少女にしか見えないが・・・まさか、相当な年なのかも知れない。

だったら人類の神秘なのだが。

「10才だよ」

ティサは両手を広げて答えた。

「あっ私と同い年だ」

「そうなの!てっきり年下だと思ってたよ」

「私も年下だと思ってたよ」

二人とも年齢よりも幼い為にお互いに年齢を見誤っていたらしい。

「ふぅ・・・その年で結婚って・・早過ぎないか?」

「甘いよお兄さん。愛があれば年齢なんて関係ないよ」

ティサは胸を張っていった。

まぁ、本人がそういうのならとトールは何も言わなかったがそれでも早過ぎるだろうと思っている。

「あっ、みなさん上がって良いですよ」

そこに最後の片づけを行っていたシルヴィが入ってきた。

「よしっ、じゃあ帰るか」

トールはそういうと立ち上がった。

一緒にシャサとティサも立ち上がる。

「明日は朝の10時からお願いできますか?」

「了解、どうせ他にやることもないしそっちが良いなら良いよ」

「ありがとうございます。今日でルートさんもサシャちゃんも仕事を覚えてくれたみたいだから

私もぐっすり眠れます」

「ぐっすりって・・・俺たちに店を任せる気?」

「はい。私、朝弱いんですよ。夜も強いわけじゃないんですけど昼過ぎぐらいじゃないと起きれなくて。

あっ、鍵渡しておきますね」

シルヴィはそういうとトールに鍵を手渡した。

「・・・いいのか?いきなり、そんなに信用して?」

「大丈夫ですよ。現金持ち逃げしたら地獄の果てまでも追いかけますんで」

にっこりと微笑んで言われると逆に恐いものがある。

トールは苦笑いを浮かべると頷いた。

下手に出てたと思ったら意外としたたかだ。

「んじゃ、帰ります。お疲れ様」

「お疲れ様〜」

「またねぇ〜」

三人は手を振りながら外へと出て行った。

シルヴィも笑顔で手を振っている。

 

街灯が照らす歩道を三人は歩いていた。

「それじゃあ、二人暮しなんだ」

「そうだよ」

シャサとティサが会話をしてその少し先をトールが歩いている。

二人は今日、会ったばかりなのに既に仲良しになっていた。

年が近いので話しやすいのだろう。

「ルートさんって料理とか洗濯できるの?」

「・・・・・あぁ!と・・じゃなくてルートは出来ないよ」

シャサは勝手に決め付けていた。

あの性格で出来ると思うほうが不思議だが。

「いや、あの部屋だと料理と洗濯は出来ても無理だぞ。キッチンも洗濯機も無い」

その会話を聞いたトールが話しに加わった。

「実際にはどうなの?」

シャサがトールの顔を見上げて尋ねる。

「ん〜・・・できることは出来るんだが・・・」

「自信がないんだ」

「いや、料理はキャンプ風になら出来るし洗濯は洗濯板と桶だったからな」

「・・・何処に住んでたの?」

トールのその言葉にシャサは驚いている。

「田舎だよ。ガスも電気もほとんど通ってない」

「へぇ、人間の国にもそういうところあるんだね」

ティサは普通に驚いている。

「そういや、獣人の国ってさほど文明が発達してないって言うけど」

「発達してないって言うよりさせてないんだよ。まねるだけなら何時でも出来るよ。

でも、僕たちは自然と共に生きる方が楽だから」

「じゃあ、何でここに?凄い都会だぞ」

「だから愛の為だってむこうじゃ働かせてもらえなかったからね。

結構、辛いんだよ。機械とかの操作って最初はなれなくて大変だったんだ」

ティサはしみじみと呟いた。

ほとんど機械文明のないと言われる獣人でなれるのは相当な努力が必要だったのだろう。

「あっ、僕こっちだからじゃあね」

ティサはそういうと曲がり角を曲がっていった。

トールたちはこの道は真っ直ぐ。

帰り道はここまでということだ。

「じゃあな」

「また、明日〜」

二人は手を振って挨拶した。ティサも両手を振って歩いていく。

「元気な奴だな」

トールはそのまま走っていったティサの後姿を見て呟いた。

「でも、いい人だよ。私の友達第二号だ」

「第二号って・・・第一号はメルだろ。友達いなかったのか?」

「えう・・・五月蝿いな・・・」

「まっオレも友達って呼べるのはラスクぐらいだしな」

「あっ私の勝ちだ!」

「う・・・だけど、メルとかも友達といえば友達だぞ」

「ダメだよ。トールはメルのお兄様だから」

「じゃあ、お前にとっては?」

「しつこいストーカー」

「なっ!俺のことそんな目で・・・」

トールは電柱に頭をぶつけてそのまま崩れていく。

「じょ、冗談だよ!」

シャサはそんなトールを見て慌てだす。

まさか、落ち込むとは思ってなかったみたいだ。

まぁ、トールも本気で落ち込むわけもなしに顔を隠して笑っている。

「じゃあ、何だ?」

「う〜ん・・・お兄ちゃんかな?ラスクさんもそうだけど」

「そういえば・・・オレは呼び捨てでラスクはさん付けなんだな」

「そうだね・・・でも、そんな感じだよ」

「なんで?」

「・・・暴走してるラスクさんみたら呼び捨てで呼べない」

「・・・・・・・」

軽くトラウマになってるらしい。

「まぁ、帰るとするか。我が家へと」

「狭くて汚くてくさいけどね」

「嫌なこと言うなよ。それでも帰らなきゃならないんだから今は思い出させるな」

「本当のことだよ」

「だからだよ・・・・」

トールとシャサは重い足を引きずりながら歩いていった。

これから先・・・何が訪れるのかも知らずに二人は今のひと時を楽しんでいた