空に近い国・・・

それがエアーズと呼ばれる国の異名だ。

だからと言って高い山の上にある訳ではない。

そこは東の大陸でもっとも空艇とエアロウィングの製造技術に優れた国なのだ。

その為に空艇やエアロウィングの輸出により莫大な富を獲得。

東の大陸でも最高峰の大国としてその名をはせていた。

そして、それは軍事力にも反映されている。

空艇師団ガルウィング・・・

それはこの大陸において最強の部隊と呼ばれている。

100隻以上の空艇と1000機以上のメタルレプリカを持つ空の覇者。

その戦闘力はゆうに一国の戦力を凌駕するほどである。

ある戦争では師団だけで国に壊滅的な打撃を与え戦争の早期終結をもたらしたとも言われている。

それを纏め上げるのはたった14歳の少女。

まだ、幼さが多く残る一人の少女だった。

彼女はエアーズ空艇師団ガルウィングの師団長の他に忍者と呼ばれる者たちの祖と呼ばれる

シロガネの名を受け継ぐ者である。

空艇師団と忍者一族・・・

空と影を支配する者・・・彼女はその強大な力に恐れを感じてはいない。

信頼を寄せる部下と自分自身に対する絶対の自信。

それがなければこんな重役に押しつぶされてしまいそうだ。

だが、それでも完璧であるはずが無い。

その自身が砕け散ったとき・・・それは破滅を意味する。

メタルレプリカ戦でたかが一人の青年に負けたことでは揺るがない。

だが、それでも危ういバランスの上で立っていることは事実だった。

彼女は知らない・・・

自分が認識できる範囲がとても小さなものだということを・・・

本当の空は限りなく続き・・・その深さは計り知れない・・・

この世界を自分の尺度などで測ってはいけない。

それは命すらも危ぶまれる危険な行為に他ならないからだ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機 鋼 神 王

第二章

空、近く

第十三話

金色の魔術師

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜の闇を切り裂いて発光弾の光が世界を照らし出す。

火花が散り、爆薬の炸裂音が響き渡り、弾松の悲鳴が世界に残る。

空を駆ける為に作られたMR空式。

そして、傭兵たちが戦うために与えられた完全なる戦闘用MRクバール。

両者は熾烈な争いを空に刻んでいた。

高速のエネルギーを内包する弾丸が装甲を打ち砕き、

回転する刃が鋼を切り裂いていく。

か弱く脆弱なる人は鋼の模造品をかりその強大な力で空を揺るがせ大地を砕いていく。

縦横無尽に戦場は広がり空艇の砲撃が空を振るわせる。

 

「これが・・・戦場」

トールはその熾烈なる場所で呆然としてしまった。

空気が違う。

シャトレーゼ崩壊時の争いなど子供の喧嘩でしかなかったと教えられるようだ。

圧倒的な力の差は無い。

一進一退の攻防が戦場で繰り広げられている。

銃弾をかいくぐり、剣と剣で押し合う。

その隙をついて他の機体が攻撃を開始しその機体を他の機体が攻撃する。

隙をつき虚をつく戦い。

一体一の戦いとは全く違う。

一つを相手にしている間に他の二つ三つが責めてくる。

全神経を完全に360度に張り巡らせなければならない。

「くっ!」

トールは突然に迫り来る銃弾を回避する。

そう、既に戦場にいるのだ。

油断なんて一時も出来ない。

「どうする・・・スピードを生かして戦うも俺の認識力じゃ飛んできた弾丸にあたりかねない」

高速で移動する場合、空間を大きく通らなければならない。

もし、その真正面に何かあった場合、一定の大きさなら回避できても弾丸では回避は不能だ。

まぁ、そんなのは流れ弾に当たる確立だし心配してはならないが。

戦いの素人であるトールはどうしても気になってしまう。

「それと・・・敵を・・・落とす・・・のか」

最大の悩みはそれだ・・・

落とすのは簡単・・・というほどではないだろうが落とすだけなら比較的には楽だ。

だが、それは相手の命を奪うということ。

たとえ敵の攻撃能力機動力をそぎおとしてもそれで助かるわけではない。

捕虜になるだろうしそのまま撃ち墜とされる危険もある。

結局、それは自分が手を下していないだけで殺したことに変わりは無い。

いくら、思い通りに動くと決めたとはいえ・・・他人の命すらもたやすく扱えるようになるわけではない。

「くっ・・・ダメだ・・落とす理由が無い・・・俺には・・・」

この戦場でトールが戦うべき理由はクロヴァスと戦うことだ。

確かにヴェルフォースは敵だし戦力を削れば後々の為にすこしはなるだろう。

だけどトールには国を護る大儀は無い・・・確かに護りたい人たちがいる。

だからってトールが殺してそれが何かになるわけでもない。

だが・・・戦場に立つということはそれだけで戦うということだ。

その影響がどれほどに戦場に影響を与えているかなんてトールは考えられない。

例えばワイバーンを見て敵機がそれを狙う。

そこで生まれ隙を見て誰かがそれを落とすかも知れない。

しかし・・・それでも立つ理由がある・・・

立たなければならない。業を刻んだとしても。

「クロヴァス!何処だぁ!!相手をしてやる!でてこぉぉぉい!!」

トールは大きく空に向かって叫んだ。

全周波数に向かってむやみやたらに叫んでいる。

自分の位置を完全に全ての存在に知らしめる。

 

「なっ!あれはワイバーン・・・なんでトールがここにいる!?」

サラサは突然の声に初めてワイバーンがそこにいることに気がつく。

広い戦場で同じ識別信号を出しているので見逃していた。

一応、ワイバーンはエアーズ軍ということになっている。

だから、エアーズの部隊は狙わない。

だが、トールは手はずでは逃げ出すはずだ。

「クロヴァスとの決着をつけに来た・・・何をバカな。奴のかなう相手ではない」

ファルクは拳を握り締めて叫んだ。

トールはメルを守るための翼だ。

それがここで散らされるようなことになれば作戦自体が成功しない。

「あやつは口で言っても聞きはせん。我が直接連れ戻す」

サラサは突然、艦長や上官などにはあるまじき発言をかます。

それにファルクは更に驚いた。

「サラサ様がいなくなったら誰が指揮を執るというのです!」

「・・・何時もほとんど指揮はお前がとっているではないか」

サラサはぶっちゃけてしまう。

確かにその通りなためにブリッジクルーたちも何もいえない。

「ですが。貴方は我々の象徴です。それがもし落とされるようなことになれば・・・」

「あの程度の少数部隊に負ける我と我の空艇師団ではない!」

サラサはエレベーターに乗り込みそのまま下っていく。

「くっ・・・どいつもこいつも勝手なことばかり!」

ファルクは上官がよくかかる病気になりかり胸を押さえた。

 

ワイバーン目掛けて弾丸が高速で飛来する。

トールはそれらを完全に見切ると風の翼を広げ回避していった。

もはやその姿はモニターには捉え切れていないだろう。

センサー自体だって異常をきたしている場合がある。

これほどのスピードで飛び回るメタルレプリカなど規格外もいいところだ。

「邪魔だ!雑魚はすっこんでろ!」

トールは迫り来るメタルレプリカを掻い潜り旋回していた。

流石に敵陣深くに潜り込むなんてことは無謀もいいところだ。

だから、こうして前線辺りでうろついている。

図らずもそれはエアーズ軍にとっては加勢につながっていた。

信号的には味方機が敵の目をひきつけてくれている。

その隙をついていくつかの機体が敵機を落としていた。

だが、そんなことはトールの頭にはないことだ。

「青いの!」

突然、通信が入りモニターに幼い少女の顔が映し出される。

「サラサ!?何のようだ。オレはお前に用はないぞ」

トールが望むのはクロヴァスだけだ。

奴さえ倒せれば後はどうでもいい。

「バカか貴様は!?メルはどうするのだ?貴様がここで死んだらおしまいなんだぞ」

「誰が死ぬか!俺はあいつが許せないだけだ。自分の欲望だけで誰かを簡単に殺すやり方が」

「お前の勝てる相手か。あいつは化け物・・・」

サラサが必死にトールの説得をしようとする横に突然に何かが走る。

それは空を裂き、大地を割り、鋼を砕いていった。

一瞬にしてメタルレプリカの反応が三つ消失する。

命が一秒も立たないうちに消えうせた。

「オレを許せない・・・か。なら、お前が言う正しいことをオレに示して見ろ」

戦場の空気が一瞬にしてかわる。

張り詰めていた緊張の空気が一瞬にして重くなる。

まるで体全体を押しつぶされるような圧迫感。

闇夜の中に佇む死神の如き殺気を身に纏った灰色の機体がそこにあった。

その手には巨大な大剣ブラストブレイドが握られている。

「クロ・・・ヴァス!」

トールは震える腕を意志力で力を込める。

レバーを一気に倒しペダルを踏み込んだ。

戦場を流れる空気を翼に取り込み一気に放出する。

四方八方に音の壁を越えた証・・・ソニックブームが放たれる。

一瞬にしてワイバーンはグレイファントムに肉薄した。

「トール!」

クロヴァスはそれを冷静に横になぎ払う。

だが、寸前までそこにいた機体は消えうせ遥か後方を飛んでいる。

クロヴァスはその化け物じみた加速力に背筋を駆け上る快感を感じた。

口元が緩み眼が見開き脳が躍動する。

「くくく・・・はははは。良いぞ、予想通りだ。お前は!」

グレイファントムはその高まる気持ちに乗せて大きくブラストブレイドを振るう。

凄まじい衝撃波が轟音と共にはじき出された。

その余波でエアーズ、ヴェルフォース両軍の機体が吹き飛ばされていく。

だが、ワイバーンはそれをものともせずに回避し再びグレイファントムに挑む。

その手には駆動音を響かせるチェーンダガーが握られていた。

「お前がオレを狙うなら・・・今この場でその因縁を叩き切る!」

ワイバーンはチェーンダガーを振るった。

それはブラストブレイドに阻まれ火花を散らす。

「ほぉ・・・風の翼を手に入れたぐらいでオレに勝てる気か?」

「自信は無い・・・だけど、お前がいる限りオレがいる場所が狙われるならやるしかないだろ!」

ワイバーンは必死に力を込めエアロウィングを展開する。

グレイファントムはワイバーンに押されているもののクロヴァスの表情は余裕だった。

まだだ、まだこいつは本気を全く出していない。

トールは悟る。自分はクロヴァスにとってまだ都合のいい遊び道具のままだ。

暇を持て余す駄々っ子の気を紛らわせるだけのただの人形。

だが、トールには意思がある頭がある。

それをチャンスだと置き換えた。

目の前の化け物を倒すなら今を置いて他には無い。

「くそっ!」

トールは一旦、グレイファントムから大きく距離をとった。

「パワー勝負はおしまいか?」

「あいにくだな。ワイバーンはパワーよりもスピード派でね」

ワイバーンは大きく翼をはためかせると上空へと昇った。

まるでその軌跡が置いていかれたように空間に残留する。

「上?」

クロヴァスは上空を見上げる。

だが、既にワイバーンの姿は空の彼方へと姿を消していた。

「逃げた・・・いや・・・違う」

クロヴァスは神経を全身に張り巡らせるかのように警戒した。

ここで逃げるわけが無い。

そして、以前の戦いでトールが姿を消した瞬間、予想もしないような方向から攻撃をしかけてくることは分かっていた。

バーン・・・ワイバーンと呼ばれた機体の加速力と最高速度は他のメタルレプリカの基準では量れない。

「・・・・・・・!」

クロヴァスは迫り来る殺気を感じると後方に向かって衝撃波を放った。

振り向きざまにワイバーンの青い色が見えるが直ぐに姿は消える。

「何処だ・・?」

クロヴァスは思わず呟かずにはいられなかった。

 

トールは音の世界にいた。

音速による旋回により大きく戦場を回っている。

発せられるソニックブームにより戦闘を邪魔しているがそんなのは気にしていられなかった。

自分が戦うべき敵はただ一人・・・灰色の閃光のみ。

「見せてやるよ・・・音の世界をなぁ!」

ワイバーンは空気の層を切り開きながらグレイファントムに向かった。

ラスクによって改造されたエアロウィングはもはや風の翼を超えている。

音の翼を広げながらグレイファントムに斬りかかった。

 

青い閃光が走りグレイファントムの肩の装甲が切り裂かれる。

突然の攻撃にクロヴァスは自分の眼を疑った。

予期せぬ方向からとはいえ自分が全く反応できないなんて・・・

「何処だ?」

次は脚部の装甲が切り裂かれる。

傷は浅いが確実にそれはダメージになっている。

それがクロヴァスの心理を揺さぶる。

「捉えられない・・見えないだと?」

次は腕の装甲が切り裂かれた。

少しずつだが着実に見えざる翼竜の爪跡が残されていく。

いずれはその身を全て砕ききるのは時間の問題だ。

「・・・くくく・・・見誤っていた・・・自惚れていたか・・」

クロヴァスは不吉なまでに明るい笑みで呟いた。

幼く美しい顔がまるで鬼のような形相へと変わっていく。

全身から殺意というの名の炎が立ち上っていた。

 

「いける!」

トールは勝利の光を目に捉えていた。

グレイファントムは動けていない反応できてない。

このまま攻撃を加えていけば倒す事だって夢ではない。

だが、音速での旋回は確実にトールとワイバーンにダメージを与えている。

このままでは長くは持たないだろう。

勝負は次の一瞬に決める。

「風を超えろ・・・ワイバーン!!」

直線上に見えるグレイファントムに向かいワイバーンは風の翼をはためかせる。

チェーンダガーが唸りを上げて空気を裂いていった。

そして、一気にグレイファントムに斬りかかる。

だが・・・

次の瞬間、ワイバーンは空を高く舞っていた。

「!??!!?」

トールは理解できていなかった。

一瞬、何が起こったか全くわからずにただ、目の前の光景を凝視する。

後にして思えばそれはこうをそうしたかもしれない。

目前に迫る灰色の閃光を捉えることが出来たのだから。

「くぅ!」

トールは直ぐに姿勢を制御すると間一髪で振り下ろされる刃からその身をかわした。

だが、通り過ぎる刃を手に持つグレイファントムの形相に戦慄を覚える。

鋼の顔が表情を変えるわけが無い。

だが・・・トールの目にはその顔はメタルレプリカではなく化け物に映った。

「おおおおお!!」

空気を震わせ叫び声が聞こえる。

グレイファントムがワイバーンに斬りかかる。

紙一重でかわすも衝撃波で遥か後方へと吹き飛ばされてしまった。

太刀筋なんてほとんど見えていない。

音速の世界を完全に把握できる動体視力でも見切れない。

「・・・灰色の閃光・・・」

トールはクロヴァスが何故その二つ名で呼ばれているのか初めて理解できた気がした。

閃光のような太刀筋、閃光のような身のこなし。

だが、それ以上に・・・圧倒的な威圧感がトールの体を駆け巡る。

ワイバーンの計測器が異常をきたし方のような数値をたたき出している。

奴が内包する鋼力は常識を逸脱していた。

だが、それはまだワイバーンの許容範囲内だ。

「塵へと帰れ!」

幾重にも重なる衝撃波の波がワイバーンの横を通過する。

だが、余波だけでワイバーンの装甲が軋み一部のシステムが異常をきたす。

圧倒的な破壊力だ。

直撃したらそれこそ塵になってしまいかねない。

「強い・・・これが本物・・・奴の本気なのか!?」

トールはとにかく距離をとろうとする。

接近戦で勝ち目があるわけが無い。

ワイバーンがいくら射撃用の武器をさほど持ってないからといって接近できる相手じゃない。

奴の間合いにいること自体で気が可笑しくなりそうだ。

腰の機関銃で牽制をかけながら距離を開けていく。

だが、グレイファントムはそれをものともしない。

「逃げるか・・?逃がさない!」

グレイファントムはブラストブレイドを後方へと振るった。

衝撃波が発生しグレイファントムはその反動をバネに一気に加速する。

その速度はワイバーンの加速力と遜色はさほど無い。

むしろ、警戒してグレイファントムを見続けながら飛んでいたワイバーンよりも速かった。

眼前に大きく巨大な大剣を振り上げたグレイファントムの姿がある。

「!」

「奈落へ落ちろ」

冷淡なクロヴァスの台詞が聞こえるよりも、ブラストブレイドが振り下ろされるよりも、

トールが認識するよりも早くワイバーンは逆にグレイファントムに向かい加速しその足元を潜り抜ける。

ほとんど勝手にトールの手は動いていた。

長年の操縦経験が体にしみついているからこその行動だ。

普通に逃げる行動をとるよりも先にメタルレプリカでの回避行動をとっている。

「かわした・・・」

クロヴァスは眼前から消えたワイバーンに驚いている。

「流石に死ぬかと思った・・・」

トールもトールで生きた心地がしていない。

少しで反応が遅れていたり速かったりしたら間違いなく消し飛ばされていた。

ワイバーンの装甲であの一撃に耐え抜くことは不可能だ。

「ふぅ・・・素直に逃げといたほうが良かったかな・・・」

トールは未だに無傷で空を飛び続けているグレイファントムを見つめて呟いた。

一命はとりとめたが結局、その原因は取り除けていないのだ。

 

「・・・・すごい」

サラサは電光石火疾風怒濤で繰り広げられる青と灰の死闘を目の当たりにして声を失っていた。

それは戦場の兵士たちもそうだったのかもしれない。

流れるようにそれでいて破壊的な戦闘はあたかも劇のように見えた。

常軌を逸した力を見せる鋼の前に人はただ、見守ることしか出来ない。

「これほどの・・・これほどの力の差があるのか?」

サラサは自分の手を見つめて呟いた。

トールの戦闘能力は以前、自分が戦ったときよりも上だ。

本気をだしたのだろう。

それはクロヴァスにもいえることだった。

だが、クロヴァスの強さは常軌を逸している。

魔法とかそういう類ではない純粋な殺意だけで相手をしばりつけ肉体の運動だけで相手を凌駕する。

それは恐るべき力だった。

「奴に・・・奴に勝てるのか?」

サラサは疑問に感じていた。

あれほどの強さを持つものに自分たちは勝つことが出来るのか?

疑問を浮かべるサラサの目の前が突然、歪む。

そして、金色の鋼が空を突き破り現れた。

それは突然だ。

何も無い空間より転移してきた。

翼を折り重ねたように閉じたメタルレプリカ。

いや、それがメタルレプリカと呼べるのかすら疑問に感じる。

だが、一つだけ分かるのはその機体から発せられる圧迫感は灰色の閃光を超えている。

空式零の魔力計測器が振り切れている。

プレミアの計器は量産型のそれを大きく上回っている。

それが振り切れる・・・それはプレミア以上の力を持っているということだ。

「君は空艇師団隊長サラサ=シロガネ少将だね?」

突然、通信機から幼い少女の声が聞こえてくる。

「・・・そうだが?まさか、目の前の機体に乗ってるのか?」

サラサは恐る恐る尋ねた。

「そうだよ。僕様の名前はサバス。このレイジーンのドライバーで・・・一応、魔王の六翼」

最後の部分は渋々といった感じで加えている。

サラサはモニターに映し出される幼い顔を見て驚愕した。

それは自分よりも幼い少女だ。せいぜい10歳程度の年齢しかない完全な子供。

だが、その体から発せられる魔力からその少女の言っていることは正しいのだと理解できた。

魔力だけならクロヴァスを凌駕している。

「魔王の六翼がもう一人・・・しかも知らない奴」

魔王の六翼はその全員が知られているわけではない。

基本的にクロヴァスとあと一人ラーザスターぐらいで後の四人については謎に包まれている。

だが、魔王の六翼と呼ばれているだけあって後の四人の存在は確実視されていた。

その二人に勝るとも劣らない戦士の存在を・・・

まさか、それが目の前に現れるとは。

「まぁ、そんなことはどうでも良いんだよ。実際。君は直ぐに死ぬんだから」

サバスの目つきが先ほどのクロヴァスのように冷酷なものへと変わる。

その瞳の輝きはとても子供とは思えないほどに鈍かった。

「!」

突然、稲妻が奔り空式零に降り注ぐ。

それを間一髪で回避するが次には炎の玉が飛んできた。

「くっ!」

サラサは防護壁を張ると炎を防いだ。

「へぇ、以外にやるね」

「この程度の魔法で勝てると思ってるのか?」

実際に拍子抜けしている。

あれほどの魔力を誇りながらこの程度の初歩魔法しか使われないのでは。

「ならば、こちらから行くぞ。印を解き放ち我が前に姿を現せ雷の化身よ!」

空式零はクナイをかかげると電撃が宿っていく。

そして、それは巨大な雷の龍へと姿を変えた。

「へぇ、結構レベルの高い魔法だね」

それを目の当たりにしてもサバスは平然としていた。

ただ、その魔法に興味を示しているだけだ。

「シロガネ流奥義が一つ!雷龍斬!」

空式零の周りに巨大な電流が広がる。

そして、クナイの切っ先からまるで龍が牙を開くように電撃が伸びていた。

雷を威力に変えてレイジーンに斬りかかる。

「陣法。防御の形」

サバスがそう呟くとレイジーンの前に魔方陣が現れる。

だが、それを気にも留めずにサラサは斬りかかった。

自身があったのだろう。

この程度の防護壁を超えられる。

だが、

「!」

魔方陣は一切の電撃を通さなかった。

クナイも魔方陣に触れた瞬間に折れてしまっている。

「ふぅん、それで奥義なんだ・・・弱いね」

サバスは唖然とするサラサの表情を見てクスクスと笑っている。

「そんな・・・雷龍斬がきかない?」

サラサは自身を完全に砕かれた気分だった。

シロガネ流は古来より伝わる由緒正しい流派だ。

その奥義ともなれば相当な威力を持つものである。

雷竜斬はその威力もさることながら全身から雷を発生させることにより防御にも特化した術だ。

だが、それも相手の防御の前にかき消されては意味が無い。

「じゃあ、今度は僕様からいこーっと。

この世界に広がる命よ、その活動を停め、氷の時を迎えたまえ。

それは締結、それは終焉。何人にも犯されぬ永遠の歩みを与える。

氷結の裁定!」

レイジーン全身から強力な冷気が立ち上る。

それは一瞬にしてその場の空気を氷点下まで下げダイヤモンドダストを呼び起こした。

煌く世界、レイジーンの背後にまるで氷を象ったような巨人の姿が見える。

「・・・氷の聖霊・・・裁定魔法・・・」

裁定魔法・・・それは魔法のランクによって名づけられた位階の一つである。

基本的なものを初歩魔法。高度な術を使用し強力な威力を誇る高等魔法。

基本的に魔術師が使えるのはそこらへん程度である。

人が使う上では大した威力も無くメタルレプリカの鋼力にのせて使っても通常火器と大して変わらない。

だが、裁定魔法は違う。

一般的には聖霊と呼ばれる者の力を借りて驚異的な威力の魔法を扱うといわれる。

人が使っても大規模な威力となりメタルレプリカに乗って使う場合は一種の戦術兵器となると言われている。

目の前の少女がそれを使っている。

忍術とは言え魔法の亜流を使っている身の上。

裁定魔法というものがどれほどのものかは良く分かっていた。

原理が分かっていても使えるものではない。

どれほどの魔術の素質があろうとも例え魔法の得意な種族、魔人であろうとも

長年の修行の据えに体内の精霊を完全に操り大気の精霊を感じなければ無理だ。

それを目の前の幼い少女が扱う・・・それは裁定魔法が目の前に存在するよりも圧倒的に恐怖だった。

天才・・・そんな言葉でくくれる訳が無い。

何万人に一人の確立で生まれるか生まれないかの素質の持ち主だ。

膨れ上がる魔力の前でサラサはただ、呆然とその青い光を見上げていた。

まるで心は完全にその魔力に破壊されてしまっているかのようだ。

心の中に恐怖が支配する。

勝てるわけが無い・・・自分程度の実力の持ち主で目の前の人外の者に勝てるわけが無い。

体中の筋肉が痙攣し体ががくがくと震える。

目の焦点が合わずとめどなく涙だけが溢れていた。

過去の記憶が次々と浮かび上がってくる。

懐かしい微笑み・・・頼りになる者たちの顔・・・そして・・・

「エイリングザイヤー!!」

レイジーンの体の前に冷気が集中し一気に放出される。

大気が次々と凍りつき空間がまるで凍っていくようだ。

それは確実に空式零をサラサを貫き凍りつかせるだろう。

彼女の命を、意思を、思い出をそのままに凍りつかせる。

それは永遠の始まり・・・決して進まない時の旅の始まり・・・

「牙炎掌!」

大気を焦がし赤熱の物体が高速でその場に飛来する。

青い光を赤い光で押さえ込む。

絶対零度の魔力の塊が高熱の炎を押さえ込んでいく。

鋼の腕が次第に凍りつき砕けていく。

「獄炎砲牙!」

もう一つの腕から炎を発し絶対零度を熱していく。

次第に分子は活動を開始し遂には通常の温度へと高まった。

「!」

その光景を見てサバスは驚いている。

そして、右腕を完全に凍りつかせ左腕を完全に焦がした空式を下に改造された機体を見下ろした。

「空艇師団右翼長ガトア=サイグウ少佐。俺の目の黒いうちはサラサ様は殺させない!」

その空間に怒声が響く。

恐怖に塗りたくられたその場に徐々に活力が生まれてくる。

ガトアの愛機空式改、灼熱炎鷹が背中から紅蓮の炎を燃やしている。

「へぇ・・・魔力はさほど高くないけど・・・そっちの子供よりはマシみたいだね」

サバスはガトアを見つめ呟いた。

その目は彼を敵として見ていなかった。

ただ、目の前にいる邪魔な石ころ程度にしか見ていない。

「何だと!サラサ様の実力をみてもいないくせに偉そうな口をきくんじゃねぇ!」

ガトアが吼える。

「ふぅん、でもその子・・・もう、戦意ないみたいだよ」

サバスの言うとおりサラサはもはや戦う気力が存在しない。

目は虚ろで涎をたらしながら何かをボソボソと呟いている。

心はもはや死んでしまっているかのようだ。

圧倒的な魔力の波動は絶対冷気を発生させただけでなくサラサの心を貫いていた。

「サラサ様・・・手前!ゆるさねぇぞ!!」

ガトアはサバスに向かって吼えた。

その形相と気迫はまるで狼のよう、そして、その目つきは獲物を狙う鷹のようだ。

紅蓮の炎が更に高く燃え上がる。

体内の魔力を総動員して力を蓄えている。

目の前の奴に一撃を食らわせるために。

「・・・頑張ってもその程度?無駄だよ、僕様は君には興味ないんだ。あるのはそっちで壊れた子だけ」

「何だと・・・!」

「その子がこの空艇師団の隊長でしょ。烏合の衆だもん。頭さえ潰しちゃえば戦えないでしょ」

「・・・殺す!」

灼熱炎鷹は全身に炎を纏いレイジーンに突っ込んでいく。

大気が焼け焦げ空をゆがめる熱気を放っている。

衝撃を詰め込み炎の鷹がレイジーンの目前に展開される魔方陣に激突する。

エネルギーとエネルギーが激突し空に衝撃が走る。

全身の細胞という細胞、装甲という装甲を燃やし尽くすような勢いで炎が上がる。

「オレは・・・いや、俺たち空艇師団は烏合の衆じゃねぇ!

俺たちは個々の意思でエアーズの・・・サラサ様の為に戦ってるんだ!

主の為に命を尽くす・・・それこそが忍!貴様のような者が俺たちを汚すんじゃねぇ!」

ガトアの怒声が木霊する。

まるでその怒りが炎となっているかのように。

「そうなんだ・・・でも、そんなことはどうでも良いんだよ。僕様はお爺様の命令を護らなきゃならないんだ。

その為には君たちが邪魔なんだよ!」

レイジーンは衝撃波を発生させると灼熱炎鷹の炎が揺らめく。

装甲が軋み、間接部分から火花が発生する。

だが、それで鷹は獲物にくらいつき決して離れようとしない。

その執拗なまでの姿にサバスは驚愕した。

命を賭ける・・・文字通りに言葉どおり。

まるで命を・・・魂を燃やしているかのように・・・

「くっ・・・僕様の邪魔をするな・・・僕様の邪魔を・・・するなぁ!!」

レイジーンは翼を広げ一気に絶対零度の波動を放った。

大気が、大地が凍りつき炎の鷹の羽がむしりとられていった。

「ぐおおおお!!」

遂にはその波動に負け灼熱炎鷹は羽を折られ大地へと落下していく。

装甲のいたるところが凍りつきその機能を失っている。

「はぁはぁ・・・」

サバスはコックピットで息を荒げていた。

魔力を使用しすぎた疲労感ではない・・・それよりも深刻なもの。

心に痛みを感じていた。

「何・・・なんなんだよ・・・」

サバスは真っ直ぐに主を護ろうとするガトアの姿勢が恐怖であり未知だった。

どうして、他人の為にここまで命が賭けられるのだろうか・・・

圧倒的な恐怖に屈するだけの人の為に・・・

「気高き魂・・・僕様の敵は・・・・」

サバスは反芻するように呟いた。

突然、殺気が高速で飛来する。

それは魔方陣がはじき落とすが完全に虚をつかれていた。

サバスは自分が戦場という場所にいるのだと思い出す。

金色の瞳でモニターに写る画面を見据えた。

黄色の機体が空式零と灼熱炎鷹を抱えている。

「サラサ様とガトアをここまで痛めつけるとはな」

その機体、砂塵禿鷲に乗るダムドが忌々しげにレイジーンを見つめた。

金色の機体は折り重なった羽根の一対を開いた状態になっている。

先ほどよりも威圧感は増していた。

「逃げる気・・・?」

「あぁ。まともに貴様とやっても勝ち目が無いのは分かっているからな」

ダムドはそう告げると機体の周りに砂塵を発生させる。

大地よりも巻き上げられた砂が視界を徐々に隠していった。

このまま逃げる気なのだろう。

だが、この程度の目くらましが通じる相手ではない。

「風よ」

サバスが呟くとエアロウィングから発せられる風とは比べ物にならないほどの突風が辺り一帯を襲う。

砂塵は完全に吹き飛ばされ逃げる三機の鳥はその姿をあらわにする。

「私の術を一瞬で・・・」

「魔法勝負で僕様に勝てるとでも・・・甘い。甘すぎるよ!!」

レイジーンは翼から巨大な火柱を三機に向けて放った。

ダムドは何とかそれをかわすが完全に身動きが取れない二機をつれた機動力では回避しきれない。

応援を呼ぼうにもこれほどの相手を足止めできるほどの者は数少ない。

それにこの周囲のものは先ほどの絶対零度の波動により完全に落とされていた。

「完全に消し去ってあげる・・・世界を照らし出す万物の命の象徴よ。

その汚れ無き炎と光の力・・・矮小なる我らに分け与えたまえ。

そして、不浄なる者を消し去る裁きの光とならん。罪を燃やしつく太陽の業火!

灼熱の裁定!」

レイジーンの空間が光り輝いていく。

その空間の粒子が核反応を起こし次々と融合を開始する。

核融合・・・それは小型の太陽だった。

その灼熱を眼前に発生させながらもレイジーンは一向に溶けない。

むしろ、完全に支配している。

ダムドはその規定外の力に恐怖を感じた。

レイジーンの翼の背後に見える炎の巨人の幻影・・・聖霊と呼ばれるもの。

「・・・化け物め・・・」

ダムドは忌々しく呟くしかなかった。

あの炎・・・いや、太陽の前ではガトアの炎すらもライターの火程度の生易しいものだ。

それを発生させるほどの脅威の魔力。

奴は絶対零度魔法を何回も使っているというのに・・・

その魔力はまるで尽きることが無いように躍動する。

「シャイルキアー!」

サバスは金色の瞳を大きく見開き光の塊を放出しようとする。

この威力ならダムドたちごと周囲の敵味方問わずに蒸発させていくだろう。

まさに戦術級と呼ばれるだけがある威力だ。

だが、そんな太陽の横を青い何かが通過した。

そして、その後を追うように灰色の閃光がそこを通過しようとする。

その直線状にはシャイルキアーが存在している。

「邪魔だ!」

灰色の閃光・・・クロヴァスの乗るグレイファントムはブラストブレイドでシャイルキアーを一気に切り伏せた。

魔法を構成する術式は強制的に断たれ灼熱の球体はその存在を霧散させる。

全てを消し去るほどの脅威は一瞬にして無に帰した。

「なっ!」

その光景に何よりも驚いたのはサバスだった。

なぜならクロヴァス自体が味方であり・・・まさか、あの魔法をこうも簡単に消し飛ばせるとも思ってなかったからだ。

「嘘だろ!おい!」

実はシャイルキアーにクロヴァスを突っ込ませて奴を倒すと同時に無力化させるという判断をしていたトールは絶叫した。

こうも簡単にあれを消し飛ばすほどの力があるとは・・・

ワイバーンの装甲では確実にもたない。

「邪魔が入ったな・・・続きを始めよう」

クロヴァスは赤熱化するブラストブレイドを構えなおし呟いた。

高速での追いかけっこが終了した二機はいたるところから火花を発している。

音速での加速による負荷が確実にかかっている。

特に脆弱な間接部分が限界に達してきているのだ。

このままでは四肢が動かせなくなってしまう。

だが、そんなことを構うクロヴァスではなく、それを相手にするトールも構っていられなかった。

「ったく・・・少しは常識的になってくれよ」

トールはむやみやたらに強さの次元を引き上げていく者たちを見て呟いた。

「ふん・・・いい加減に戦う覚悟を・・・!」

グレイファントムに突如として炎の玉が突き刺さった。

装甲の一部を損傷させ煙が立ち昇る。

クロヴァスはそれが飛んできた方向を凝視した。

そこには金色の翼を持った機体が浮いている。

その周りにはいくつもの炎が滞空していた。

「邪魔しないで・・・僕様はあんたみたいな自分勝手な傭兵とは違うんだよ。

お爺様の命令で空艇師団を浄化しなきゃならないんだ。とっと帰ってよ」

サバスにとってクロヴァスは邪魔でしょうがなかった。

それよりもあれほどの力を込めたシャイルキアーを一撃で消し去る力が気に食わなかった。

自分以上の力を持つ存在など認めたくない。

「お爺様・・・か。そんなにあんなクソ教主の命令が聞きたいか手乗り文鳥!

その金色の羽根をむしりとって焼き鳥にしても良いんだぞ」

クロヴァスは明らかに敵意を燃やしサバスを見下ろした。

自分を傷つけた存在は許せない。

それよりも前からクロヴァスはこのサバスと戦ってみたかった。

その口実が手に入ったのだ。利用しないはずが無い。

「!僕様の悪口はともかく・・・お爺様を悪く言うな!」

「ふん、人類の絶滅が世界の楽園になるとほざく狂人のことをなんと言おうが勝手だろうが。

オレはあいつの理想になんて興味がないんでな」

「お爺様の崇高な考えが分からないようなバカがしゃべるなぁ!!」

レイジーンは炎、氷、雷の弾丸を連続してクロヴァスに放つ。

しかし、グレイファントムはそれを全て紙一重で回避し斬りかかった。

魔方陣が剣を受け止める。

エネルギーの奔流が風となりあたりの全てを吹き飛ばしていくようだった。

 

二人の化け物・・・いや、人という規格を外れた超人と

それが操るメタルレプリカ・・・その激突は戦場を完全に消し去っていった。

その場は闘技場となる。

圧倒的な力を持つ二人の激突によってつむぎだされる空の闘技場へと・・・