「ったく、あのバカは」
ラスクは勝手に飛び出していった親友のことを思い呟いた。
これからが大変だという時に全く勝手なことをしてくれる。
脱出を開始したものの一応、発信機があるのでワイバーンでなら戻ってくることは出来るだろう。
だが、それでもわざわざ命を危険にさらしてまで突っ込んでいくとは。
「あいつ・・・何かあったか?」
ラスクはハンドルを握りながらぶつぶつと呟いている。
「親友のことが気になるの?」
助手席に座るネティアが尋ねる。
その問いにラスクはただ、頷いた。
「確かにあいつらは強いよ・・・でも、戦争をするなんて・・・」
トールが負けるというよりも戦争をしていることが心配で・・・そして、嫌だった。
戦争なんてものに手を貸すような性格じゃなかった。
なのに・・・
「そんなに心配だなんて・・・怪しい」
ネティアがジーッとラスクを睨んでいる。
その視線、何かを疑っているようだ。
「何が?」
「まさか・・・ラスク、貴方ってトールくんのことが好きなんじゃ!」
「はぁ!?」
いきなりな言葉にラスクは驚いている。
「そうよね。貴方って何か女の子っぽいもんね。気持ちまで女の子でもしょうがないわよね。
それにトールくんってパッと見でも凄くかっこよかったし」
「な・・・何を言ってるの?」
「えっ、だってラスクはトールくんが好きで好きでしょうがないけどその気持ちが言ってしまうと
親友という立場が崩れ去ってしまうんじゃないかとずっと悩み続けて。
更にはその大好きなトールくんが危険なことをしでかして気が気じゃないんでしょ」
ネティアは脳内で凄い設定を作成した。
「バカか!何で僕がホモにならなきゃいけないんだよ!」
ラスクはその突拍子も無い設定に文句を言っている。
それは彼自身の存在にとても大きく深く関わることだ。
「違うの?」
「違う!」
「ふ〜ん・・・じゃあ、そういうことにしておくわね」
ネティアの脳内に先ほどの設定は上書き保存されたもようです。
ラスクはそんな彼女に何を言ってもしょうがないとため息を吐いた。
荷台でビーン先生はまだ、眠っているメルに薬を飲ませていた。
その薬が投与されてから次第にメルの顔色がよくなってくる。
「大丈夫?」
シャサが心配そうな表情でビーン先生に尋ねた。
ビーン先生はただ、こくりと頷く。
それにシャサは安堵の息を吐いた。
「また、メルと会えたのいいけど・・・トール大丈夫かな?」
シャサは胸を押さえて呟いた。
胸騒ぎが止まらない。
トールが戦場に行ってから不安で不安でしょうがなかった。
確かにトールは強い。普通の奴らなら太刀打ちなんか出来ないほどに。
だが、それでも恐ろしかった。
戦場のほうから感じる強大な波動。
まるで全てを破壊し尽くす鬼神のような殺気がエアーズ全体を飲み込んでいるかのようだ。
「・・・・・・大丈夫だ」
ビーン先生がただ一言そういった。
その言葉に自然と恐怖心がおさまっていく感じがする。
「そうだよね・・・トールだもん。でも、トールはなんで戦うんだろう?」
シャサは疑問だった。
トール自身に義務はないんじゃないかと彼女は思う。
元々、トールは普通の生まれで王を護るとかそういう意気込みにもかけていた。
確かに皇族の人たちとも仲が良かった。
だけど、それだけで全てを投げ出してまで協力する義務はないだろう。
逃げ出してもしょうがないほどに相手は強大なのだ。
誰も文句が言えるはずもないはずだ。
勝ち目も無ければ希望も無いはずなのに。
「なんで戦うんだろう?トールは思い通りに生きるって言った・・・それなのに戦うなんて可笑しいよ」
思い通りに自分らしく生きるといって彼は戦うことを選んだ。
それがどうしても分からない。
自分の幸せを考えればあのまま逃げてしまえば良いのに。
「・・・・・私が言えることは人には人それぞれの価値観や信条がある。
それはトール自身に聞けばいい」
ビーン先生はただ、それだけ告げた。
自分どおりと言ったからにはその心のうちはトールにしか分からないのだ。
シャサはただ、頷いた。
そして、願った。
どうか青い青年が無事に戻ってこれるようにと・・・神にではなく・・・彼自身に
機 鋼 神 王
第二章
空、近く
第十四話
空に叫ぶ
暗く闇が支配する夜の空の上で灰色の閃光と金色の魔術師が激突していた。
裁定魔法を連続して繰り出したのにも関わらず未だにサバスの魔力は尽きずにいた。
炎の帯が夕闇を紅蓮へと変え灰色の機体へと迫る。
だが、グレイファントムは炎を全て衝撃波で消し飛ばした。
「小技ではオレをとめられないぞ」
「高等魔法でもとめられないの!?」
サバスは魔法を全て力技で吹き飛ばしていくクロヴァスに驚いていた。
いくら、魔剣ブラストブレイドを操っているとはいえあそこまで巧みに扱うとは・・・
「この程度ならまだ、トールのほうが面白い」
「!僕様をバカにするな・・・これが実力だと思わないでよ!」
レイジーンの周囲に無数の火の玉が出現する。
一つ一つの大きさは先ほどまで出していた炎の玉よりも小さいがその量は圧倒的だった。
もはや火の玉のおかげでレイジーンの姿を捉えることは出来ない。
「まだ、これほどの力を・・・」
「焼け死ね!シャイルフェンダラー!」
火の玉は一斉にグレイファントムへと放出された。
無数の炎がまるでショットガンの散弾のように灰色へと向かっていく。
全てを炎の彼方へと消し去るように襲い掛かる。
「この程度の炎で・・・オレを灰に出来ると思うな!」
ブラストブレイドを一気に振るい空へと揺るがし衝撃波が奔る。
いくつかの火の玉を消し飛ばすが死角から飛来してきた火の玉がグレイファントムの装甲に直撃する。
装甲を焼きバーニアを関節を溶かそうとしてくる。
「くっ!」
グレイファントムの表面温度が一気に上昇しコックピットの温度を跳ね上げる。
衝撃に体の自由を奪われ更に飛び掛る炎をその体に受けていく。
炎が灰色の機体を包み込み炎の玉へと膨れ上がる。
「そのまま溶けちゃえ」
サバスは炎に包まれるグレイファントムを見下ろし叫んだ。
余裕などさほどない。それは確かな叫びだった。
流石にあれほどの魔法を多用し疲労の色が見え始めている。
それでまだ、疲労の色程度で済んでいるほうが可笑しいぐらいだが。
「・・・まだだ!」
グレイファントムは横なぎにブラストブレイドを振るい炎を消し飛ばす。
装甲のいたる部分が熱で溶け変形し、間接部分がショートし煙が上がっている。
ダメージは決して少なくは無いがまだ、戦えるようだ。
「オレをここまで追い詰めるとはな・・・」
クロヴァスはレイジーンを睨みつけ呟いた。
疲労の色が見えるがまだ、気力は残っている。
「あれでまだ・・・でも、次で止めを刺す・・・・
この世界に広がる命よ、その活動を停め、氷の時を迎えたまえ。
それは締結、それは終焉。何人にも犯されぬ永遠の歩みを与える。
氷結の裁定!」
レイジーンの周囲に絶対零度の冷気が出現する。
全ての動きを止め永遠の締結をもたらす力。
氷の聖霊が灰色の亡霊を地獄へとさそう死神のように大きく腕を開いた。
「裁定魔法・・・その程度の魔法でオレをとめられるとでも・・・?」
全開の時のクロヴァスならば裁定魔法と言えどもものともしない力を持っている。
だが、今は違う。
機体の損傷も激しくクロヴァス自体の疲労も大きい。
今の状態ではトールを倒すことすらもままならないだろう。
だが、それが分かっていても彼は立ち向かう。
敗北など認められない。
負けるわけにはいかないのだ・・・
そう、彼は強さを求める・・・
誰にも止められない、誰にも負けない。
運命すらも凌駕するほどの強さを・・・力ではなく強さを。
だから、こんなところで自分よりも幼い者に負けるわけにはいかないのだ。
「うおおおおおおお!!」
クロヴァスの周囲に闘志が炎を上げて巻き上がるようだ。
グレイファントムの周囲で漏れ出した鋼力の光が膨れ上がる。
銀色の光は破邪の力。
どんな魔法も邪術も受け付けない気高き光。
鋼の力の前に人の脆弱な力など無へと帰すのみ。
「まだ、魔力が上がる・・・違う、鋼力・・・でも、止められない。
クロヴァス・・・貴方はここで死ぬんだよ!」
冷気が一気に凝縮されていく。
絶対零度の塊が周囲を凍らせていく。
煌く光の中で金色の翼が完全に開かれる。
三対の翼を持つ華奢な人形・・・レイジーンは圧倒的な魔力を全て開放する。
「エイリングザ・・・」
レイジーンが絶対零度の砲撃を食らわせようとする。
だが、その魔力は突如として霧散し消えていった。
更にグレイファントムから発せられる銀色の光も収まっていく。
突然の出来事にクロヴァスは呆けた表情で見つめていた。
「仲間同士で争うことを許した覚えはありませんよ」
突如としてその空間に声が響き渡る。
通信ではない。脳に直接にたたきつけられる声。
それは周囲で事の成り行きを見守っていたトールたちにも聞こえていた。
「お・・・お爺様!?」
「ゼトラ・・・だと・・・!?」
その声を聞きサバスとクロヴァスが驚き目を見開く。
「サバス・・・それにクロヴァス。貴方たちはオウルに選ばれし戦士なのです。
その貴方たちが戦うなど神の御心に外れた行為」
戦場に老人の声が響く。
それは偉大にして雄大、壮大にして強大・・・その言葉だけで心の全てが包み込まれてしまうようだ。
「すみませんお爺様。でも、クロヴァスが僕様の邪魔をして・・・」
「言い訳はよろしい。その程度のことで仲間の命を奪おうとするなどあってはならないことです。
貴方たちは気高き魂を持った無垢なる存在なのですよ」
「す・・・すみません」
あれほどまでに強大な魔力を誇っていたサバスがまるでか弱い小鳥のようにさえ見えてくる。
萎縮し震えている。
ゼトラに怒られているということが彼女にとって耐え難いもので悲しいものだった。
「くっ・・・ふざけるな。オレの邪魔するな!」
クロヴァスは傷つきながらも威勢だけは衰えない。
戦いの邪魔をされたことに激昂している。
「貴方はまだ、自分の立場を分かっていないようですね」
「ふざけたことを・・・オレは傭兵だ。戦って何が悪い!」
「貴方を雇っているのは私です。傭兵は雇い主に反抗しても良いのですか?」
「五月蝿い!聖者気取りに偽善者がオレに説教をする気か!?」
「クロヴァス!」
クロヴァスの暴言にサバスが怒声を上げる。
彼女にとってゼトラをバカにされるのが何事にも耐えられないことだった。
「やめなさい・・・仕方ありませんね。ですが、今の貴方は戦うことは出来ません。
一度、お下がりなさい」
「何を・・・オレはまだ、戦える!」
そうはいうがグレイファントムの各部は完全に異常をきたし動作が鈍い。
このまま戦いを続けてもサバスに勝つことは無理だろう。
それにたとえ倒せてもまだ、トールが残っている。
流石にそれらを相手にするのは無理だ。
だが、分かっていてもクロヴァスはまだ、戦おうとした。
「クロヴァスは一度連れ戻します・・・サバス、貴方は愚者に支配されし鳥を開放しなさい」
「はい、お爺様」
サバスはその言葉に傅いた。
するとグレイファントムの周りの空間が歪み始める。
「なっ!空間転移・・・貴様!」
クロヴァスが叫ぶが空間に干渉する術を持たず力で振りほどくほどに余力の無いクロヴァスはそのままゆがみへと消える。
戦場より灰色の閃光はその姿を消した。
「ふぅ・・・お爺様の命令護らないと・・・戻れないよ」
サバスはキングオブエアーズを見つめた。
ヴェルフォースの機体はサバスを残しほぼ撤退している。
戦局は完全にエアーズ側のものとなっている。
だが、それでもサバスは戦いをやめない。
いや、この状況でも戦局を覆すことが出来ると思っていた。
例えクロヴァスとの戦いで魔力を使っていてもまだ、彼よりは余力はあった。
広げていた翼を二対戻す。
そして、目の前で風の上に滞空する一機の青い機体を見つめた。
「クロヴァスと互角に戦った君・・・勝負だよ」
サバスはこの戦局で最も厄介な相手であるトールを見つめた。
クロヴァスとの戦闘で疲労していたとはいえお互いに決定打を出さないままでいたワイバーンは
まだ、表面上の損傷はほとんど無い。
「ふぅ・・・本当はクロヴァスがいなくなった以上、戦う理由は無いんだよな」
トールはぼそりと呟いた。
逃げても良いんだが逃げ切れるか分からないし何よりもこいつをここに残しておくは危険だった。
「さぁ、死んでもらうよ。新しき楽園の礎の為に!」
「ふざけるなよ・・・オレはオレの幸せの為にお前を倒す!」
トールが叫ぶとワイバーンは風の翼を広げレイジーンへと斬りかかる。
鋼の翼竜が牙を剥き出しに金色の羽根へと噛み付く。
だが、目前に広がる魔方陣にその侵攻が防がれた。
魔方陣に激突しチェーンダガーが火花を散らしている。
集まった物理的な衝撃をそのまま切り裂こうとしているのだ。
だが、チェーンダガーの出力ではとてもじゃないが切り開けそうに無い。
それを悟るとワイバーンは一回転して大きく間合いを取った。
「その程度の力で僕様に触れられると思うな!」
レイジーンが氷の刃を無数にワイバーンへと飛ばす。
だが、ワイバーンはそれを急降下し回避した。
そして、そのまま地面ギリギリを飛びソニックブームで砂塵を巻き上げる。
雷が大地に降り注ぎ地面を砕き岩を舞い上げる。
ワイバーンはそれを高速で回避し一気に上昇した。
そして、そのままレイジーンの横を通り抜け上空へと躍り出る。
「速い!?」
サバスは凄まじい速度で飛行し続けるワイバーンに驚愕した。
これほどまでの速さで飛ぶ機体は彼女ですら見た事がなかった。
流石はクロヴァスと戦い続けていたと驚愕する。
こいつとの戦いがなければ自分でもクロヴァスに勝てたかは分からないと感じていた。
そう、それほど相手なのだ。
青い稲妻と呼ばれたドライバーの力はそれほどまでに強かった。
「照準ロック・・・発射!」
背部に装備したミサイルポッドからレイジーンに狙いを定めミサイルを発射する。
ミサイルは弧を描き黄金の翼に向かっていった。
だが、それはレイジーンに触れることなく空中で静止し爆発する。
炎が空に巻き上がり、煙が視界を覆い尽くす。
「今更、この程度の武器で・・・来る!」
サバスは背後から迫り来る鋼力の波動を感じ取りそこに向かって雷を放つ。
だが、雷撃が鋼を捉えるよりも早く青い残像を残しワイバーンは消えた。
「無駄だよ!」
サバスの金色の瞳が雄雄しく輝く。
体内に内包される精霊が意思の力で活発に動きそれが回路を通して鋼力エンジンへと流される。
魔力と呼ばれる精霊の流れが鋼力へと上乗せされ精霊シリンダーへと圧力をかける。
精霊が圧縮され意思によりプログラムされた命令が大気へと流れ出す。
世界に広がる精霊がその命に従い動き、働き粒子の動きを変えていく。
それは純粋な常識の上ではありえない現象へと変換されていく。
それを魔法と呼び、それを扱うものを魔術師と呼んだ。
その起源は古く・・・歴史にすら記されていない。
だが、その力はメタルレプリカと同じく人の扱う力として有名だ。
それらを掛け合わせたとき・・・人は地上最強の生命体と呼ばれることとなる。
ワイバーンの左右に突然として魔方陣が浮かび上がる。
大気の流れが狂わされ、加速のついた勢いが急停止させられる。
「うわっ!」
例え鋼力により魔法の介入を阻止できるとはいえ、同じく鋼力を持つメタルレプリカが放つ魔法は
完全には阻止できない。
ワイバーンの鋼鉄の腕が見えざる手に押さえつけられたかのように空中に固定させられる。
「な・・・なんだ!?」
トールは突然の現象に驚き声を上げる。
レバーを倒そうが、ペダルを踏もうが全くワイバーンは動いてくれない。
システムを見るが回路にエラーは無い。
外部的な力に強制的に抑え付けられている。
「無駄だよ・・・君程度の魔力で僕の束縛からは逃げられないよ」
金色の羽根を広げまるで天使が天より降り立つようにレイジーンが舞い降りる。
夜空を、闇を切り裂き大きな光が覆っている。
まるで本当の天使のようだとトールは不覚にも思ってしまった。
「くっそぉ!」
トールが叫ぶが全く動く気配はない。
先ほどまで雄雄しく空を駆けた風の翼はもはや見る影も無い。
青い機体はまるで夜の闇に拒まれたように動けなかった。
「案外・・・呆気なかったね」
サバスはつまらなそうに呟く。
あれほどまでにクロヴァスと激闘を繰り広げ空を駆けていたのにこうも呆気なく捉えられるとは。
トールが弱いのではなく相性の問題であるとは分かるがそれにしても呆気ない。
「随分と魔法に弱い機体だね・・・乗ってる人間も魔力の弱い一般人・・・それでこの強さ・・・」
サバスはモニターに映し出されるスペックを見て驚いている。
解析をしているらしい。
ヴェルフォースにも存在しない加速力を持ったこの機体は後の戦いに重要な情報だ。
それを持ち帰ることも彼女の仕事といったところか。
幼いながらも一応、考えてはいるらしい。
「オレは・・・負けるわけにはいかねぇぇんだよ!!」
トールは叫び声を上げ鋼力エンジンの出力を上げていく。
鋼色の光が体内を駆け巡るがそれは力へと変換されていかない。
レイジーンからの介入のほうが強いのだ。
トールは青い瞳に金色の機体を睨みつけ歯を食いしばった。
完全なる力の差を改めて感じる。
格好つけてでしゃばってその挙句がこのザマだ・・・情けない。
ようやく決心がついた、覚悟を決めたというのに・・・この程度のところで終わるのか。
終われない・・・だが、力の差は圧倒的でおおしがたいものだ。
「負けるわけにはいかない?それは僕様の台詞だよ。
君は分かっているの?この世界の理不尽が、この世界に広がる悲しみが?間違ってるんだよ何もかもが」
サバスは必死にもがく背信者を睨み訪ねた。
クロヴァスの戦いや言葉でサバスの心はささくれ立っている。
自分たちは・・・自分は正しいことをしているとうのに認められない。
彼女にはわからなかった。
この世界の何処がいいのか?この国の何処がいいのか?
戦う戦士は分かっているのだろうか?路地裏で泣く人々の姿を何がそれを生み出しているのかということを?
知りもせずに国を護っていると粋がって戦うことは彼女に言わせればただのバカでしかない。
目の前の男もその類だと思っている。
しかもそれよりも質が悪い。
戦場に出て敵を落とすわけでもなくただ、クロヴァスと戦い。
更に自分の邪魔をしてたてついている。
「正さなければならないんだよ。僕様たちはこの不条理なる世界を」
「不条理なる世界・・・?その為に人が死んでも良いってのかよ?」
トールはなけなしの魔力の放出に疲れ果て息を荒げながらも問い返した。
彼女の言葉が正しいとしても認めたくないことだ。
なにかの犠牲を
「そうだよ」
サバスの口から間をおかずに返される言葉にトールは驚く。
その返答よりもそれをあっさりと返す幼い少女の考え方に。
「君たちは全員、罪深き人なんだよ。知らない知らなかった・・・無知の罪。
知ろうともせずただ、与えられた生活に甘んじている偽善者は死んで当然なんだよ・
本当に罪が無い人は分かっているはずだよ。世界に何をもたらさなければならないのか。
それは現在、この世界を作ってしまっている規則の楔とそれを支える柱たる国の崩壊。
そう、お爺様の願う理想郷。オウル様の治められる楽園の為にも汚れた大地は浄化しなきゃならないんだよ」
その言葉に疑いの余地は無い。
心の底からそれが正しいと信じている。
その言葉の一つ一つを聴く度にトールの心が重くなっていく。
悲しいと感じる。
まだ、何かを知り色々と体験し人格を構成する途中だという年齢だというのに・・・
彼女の心は、頭は一つの考えに完全に定着されてしまっている。
人は様々な言葉を聴き、様々なモノを視て、道を選ばなければならない。
トールが自分の父親からたった一つ学んだことだった。
学んだと感じ取れたのはその一言だけだ。後は全部、自分で感じている。
田舎にいたときも、上京したときも、エアーズにきたときも・・・
ラスクと共に夢に向かった幼き日々。シャサと共に戸惑いながらも何かを決めようとした時。
メルを護りたいと感じた瞬間。そして、自分がやらなきゃならないと決めた今・・・
それら全部が尊かった。
だが、目の前の彼女の存在はそれらが間違っていると否定されている気分だ。
確かに今の世界が正しいかどうかなんて自分には分からない。
だけどそれでも自分の中には護らなきゃならないものがあった。
それは幼い微笑みであり、純粋なる瞳・・・そして、無垢なる心。
「うおおおおおおお!!」
トールが雄たけびを上げる。
腹の底から、胸の奥から声を上げる。
体内にある精霊を活性化させて魔力を上げる。
だが、生来才能に恵まれないトールの魔力程度ではサバスの魔法を解くなんて出来るわけが無い。
現にワイバーンを捕らえる魔方陣は微動だにしない。
「無駄だよ。でも、安心しても良いよ。君が死んでも罪は浄化されるだけ。
君は知らなかっただけの罪びとだからオウル様もそんなにお怒りにはなられないよ。
楽園となったホライゾンに再び舞い戻るだけ」
「へぇ・・・だけどやだね!死ぬなんて絶対に」
「無駄な足掻きを続けて罪を重ねるよりはずっと良いよ」
「手前の考えをオレに押し付けるな!オレはなんとしてでも生きるんだ。生きなきゃならないんだよ!
この世界が間違ってるからって何もかも壊してそれでおしまいなんて考え方に納得できるか!」
「だから、それは・・・」
「五月蝿い!手前の考えは聞き飽きたぜ!そんな老人の黴臭い理論なんざどうでもいいんだよ!
手前の思い、手前の考えはどうなんだ!?えぇ!」
トールは本気で尋ねた。
サバスの口にする言葉は出撃前に聞いたゼトラの言葉と全く同じだった。
結局、クロヴァスが罵ったとおり目の前の少女はゼトラに飼いならされた鳥だ。
それもただ、聴かされた言葉を返すだけのオウムだ。
「僕様の言葉は事実だよ。お爺様の言ったとおりこの世界は間違っている!!」
「そのお爺様が言ったからやるっていうのか?だったら、手前は知らないなんて罪よりもよっぽど思い罪を犯してる。
他人に付き従うだけの者が自分の心に従い動いたものを邪魔するなんていけないんだよ!」
「僕様が罪人・・・何も知らないくせに・・・のうのうと家族に囲まれて幸せに暮らしてたくせに・・・
僕様がどれだけ惨めで・・・悔しい思いをしたのかも知らないくせに!勝手なことを言うなぁ!!」
サバスの魔力が爆発的に高まる。
触れてはいけないものに触れたらしい。
ワイバーンにかかる力が上がり装甲を曲げていく。
金属が悲鳴を上げる。圧迫された大気にトール自身までも押しつぶされそうになる。
「ぐはっ!」
「死ね!死ね死ね死ね死ね氏ね死ね氏ね死ね氏ね死ね氏ね死ねしねしねしね死ね死ね死ね死ね」
サバスは金色の瞳に雫を浮かべ叫び続ける。
目の前の青年が憎かった。世界全てが憎かった。
優しい思いに包まれて忘れていた嫌なことが脳裏に浮かび上がる。
汚らわしい・・・
禁忌の子供・・・
お前が俺たちと同じ空人だと思うと反吐がでる
醜い体、そんなものが羽と呼べるとでも思っているの?
死んでしまえ、地獄に落ちろ
お前に食べさせるものなんてないんだよ
右腕と同化した金色の羽根が疼く。
背中に埋め込まれたように広がらない左の翼に痛みを感じる。
彼女は空人・・・羽を持つ種族・・・
だが、その体は・・・羽根はそれとは異なっていた。
トールは彼女に何があったかなんて知らない。
それも無知の罪なのかも知れない。
だが、サバスも知らない。
トールが何を背負っているか彼の帰りを待つもののことを・・・
それは戦場に散った兵士にも言える。
彼女の理論はもはや矛盾を通り越して可笑しかった。
いや、理論で図れる問題ではないのかもしれない。
彼女もまた、純粋たる思いに従い生きているのかもしれない。
それを邪魔する・・・殺すということは自分の考えも捻じ曲げる行為に近い。
だが・・・トールの瞳に迷いはなかった。
「覚悟はとうに決めた・・・後は貫くだけ!」
魔力による圧迫を気迫と根性で抑え付ける。
自分の魔力などこれっぽちも役に立ちはしない。
分かっていた。
だから、無駄に体力を消耗する魔力の発動などもうやらない。
もう、後は気合とか根性とか精神論に頼るしかない。
ドライバーに出来ることなどこの程度だ。
だけど・・・空を捻じ曲げるほどの魔力を発しながら翼を全て広げる黄金の天使を前にそう思えるだけでも立派だ。
プレッシャーなどはクロヴァスよりも上だ。
自らの命をささげても逃げ出したくなるぐらいだが逃げない。
「この世界に存在する全ての意思よ・・・僕様の声に耳を傾けたまえ・・・
湧き上がる怒りを・・・凍える悲しみを・・・吹き荒れる嘆きを・・・一欠けらの希望を・・・
心の輝きという名の力をこの世界に現したまえ。
何者にも犯されず、侵されず、揺るがない光よ。
超常の領域の力!」
サバスが呪文を唱える。
暴走するだけだった魔力が正しく紡ぎだされ強大な光へと変換されていった。
裁定魔法ではない。
聖霊の姿は無い。
だが、内包される力は明らかにそれらを超えている。
メタルレプリカの出力とは思えないほどの力が発せられている。
超常魔法・・・現存する魔法の中で最高位に属する魔法。
メタルレプリカという鎧を持たずには使えない魔法。
それは古に封じられた超常の鋼が用いたといわれる力。
トールは目の前の光に戦意が根こそぎ削り落とされる気分だった。
だが、根こそぎそり落とされたはずなのにまだ、そこには戦意が残っていた。
その瞬間、トールは勝利を確信した。
勝てる。
そう思うことこそが強さへと変わる。
クロヴァスの姿勢に何故か共感すらしてしまうほどに今のトールはそれに近かった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
トールは空間を揺るがすように叫び声を上げた。
気合を上げる。
ただ、それだけの行為。
それで何かが好転するかなんて論理的にはありえない。
だが、それでもそれこそが勝利の鍵だとトールは信じていた。
叫ぶ・・・想いを外へと吐き出す行為こそこの状況を抜け出す唯一の手段だ。
鋼力エンジンが唸りを上げる。
銀色の・・・鋼色の光が全身を駆け巡りエアロウィングから吐き出される。
鋼の風を巻き起こし魔方陣をかき消した。
サバスが超常魔法の為にそこまで気がまわっていなかっただけかも知れない。
だが、確かにワイバーンの出力が向上している。
黙っていた問いかけていた瞬間からずっと溜め込まれていた力。
内部装甲の臨海までに高められた鋼力が噴出される。
「駆けろ!ワイバーン!!」
空を蹴り飛ばすように鋼の風がワイバーンを加速させる。
軽減し切れなかったGがトールの体にのしかかる。
だが、内臓が圧迫される痛みを耐えトールは口を開いた。
もはや目の前でレイジーンは魔法を発動させようとしている。
勝機はこの瞬間しかない。
魔力を完全に攻撃に使おうとしている瞬間こそが最大のチャンス。
今なら天使の喉元に牙をつきたてることすらも出来る。
「エストライクレンダー!!」
「唸れ!チェーンダガァァァァァァァァァァァ!!」
夜の街に衝撃が走る。
窓ガラスが震え木々がざわめいた。
「!!」
不安そうにテレビ画面を見つめていたシルヴィは驚き顔を上げる。
「だ、大丈夫かな?」
突然の戦争に一部の区域では避難勧告が出ている。
エアロベースのお膝元にあるこの街は避難命令が出てないものの気が気ではなかった。
自分の住んでいる家は親が続けてきた花屋だ。
親はもういないが受け継いだ仕事に誇りを持って続けてきた。
人は嬉しい時、悲しい時、花の美しさに心を重ねる。
絶対に無ければならない職業ではない。
だけど、あれば豊かになる職業だ。
花に触れれば人は少しずつでも優しくなることが出来る。
働いている赤い髪の幼い少女にも教えた。
「なんで花屋をやってるの?そこらへんにも生えてるのに」
「ここらへんには生えてないわよ」
「そうなんだ・・・でも、花だって生きてるのにそれを摘み取ってお金に変えるのって何か変だよ」
シルヴィは少女らしい純粋な意見だと思った。
「そうね・・・でも、人は結局目に見えるものしか知れないからそういう人たちにこういう花もあるんですよって
見せたいからかな」
「図鑑でもいいと思うけど」
「でも、絵で視るだけよりも実際に触ったり香りを嗅いだりするほうが実際にその命を感じ取ることが出来るでしょう。
それに花は人に幸せを贈るものだから」
「幸せを?」
「そう、花の美しさに感動したり。育てることで感じる苦労や慈しむこととか・・・そういうのって幸せだと思うの」
「うん。そう思う」
シャサは素直に頷いた。
シルヴィはそれが嬉しかった。
「トールもそう思う?」
シャサはレジでボケーっとしてるトールに尋ねた。
「うん・・・そうだな。オレは野菜は育てたことしかないが・・・まぁ、いい味の出来ると嬉しかったな」
「何か違わない?」
シャサは少し不満そうな顔をしている。
花と野菜を同じに捉えた発現がいやらしい。
「何言ってんだよ。同じ命だろ。花を育てるのも野菜育てるのも人を育てるのもようは同じだよ。
オレは花が綺麗だって感動するよりも何かを育てることの大切さを学ぶほうが大事だと思うぞ」
「ふぅん・・」
「お前だって将来、子供を産んで育てるんだし花ぐらい育てとけ」
トールはそういうと笑って新聞を読み始めた。
その言葉にシャサは少し顔を赤くしてる。
「子供・・・か。そうだね。欲しいよ」
シャサはそう呟いた。
「ルートさん。いいこと言いますね」
「そうか?」
トールは気恥ずかしそうに鼻の頭をかいている。
花を育てたりめでたりすることで人は優しさを知り弱いものを護ろうとする。
美しいものを尊ぼうとしそれは人が生きることに重要なことを教えてくれる。
知らされる情報ではエアーズは無事らしい。
だが、こうしてる間にも戦争によって多くの命が散らされている。
それは人であり花であっても多くのものが。
「今日は寝ないとね・・・明日もルートさんやサシャちゃんが働きに来るもんね。
寝れてるかな?あの二人だったら気にしそうにないけどね」
シルヴィはそう思ってクスクスと笑った。
そして、電気を消す。
目を閉じた向うに朝日と笑顔を期待して。
「シルヴィお姉ちゃん・・・」
シャサは遠ざかるエアーズを見て呟いた。
たった一週間程度のエアーズの生活の中で最も関わった一人の少女。
優しい人だったと思った。
「・・・トールはエアーズの皆のためにも戦ってるのかな?」
シャサはぼそりと呟いた。
あそこで会った人々もいい人ばかりだった。
本当にいい人ばかりなのかなんて分からないがそれでもシャサはそう思っていた。
そんな人々の命を奪うなんてことをあのトールが許すはずもない。
「戦う理由・・・護る命・・・」
シャサは光り輝く空を見上げて呟いた。
不意に瞳から涙が溢れ出て頬を伝う。
雫が零れ落ちた。
その瞬間・・・空に叫び声が聞こえた気がした・・・・・
汚れた瞳と汚れ無き瞳
正しき想いを胸に言葉を発する一人の青年
獣人が治める森深い国の中
罪を背負いし歪められた少年
傭兵たちは更にその力を見せ始める
愛ゆえか叫ぶ少女の幼き嘆き
交わす約束、繋ぐ絆
命を賭けて戦い続ける戦士となる
機 鋼 神 王
第三章
森、深く
獣の住まう深き森に青い稲妻が舞い降りる